リクエスト・企画小説
黒崎翼様リク ひば女の子武 並盛町恋物語
   『2月14日バレンタインデー』

 女の子が愛を告白できる日、そして――――。


ドサドサドサッ

 下駄箱から雪崩落ちるチョコレートに、山本武13歳 性別おんな は少しだけうろん気な目を向けた。



 四月にここ並盛中学に入学後、運動神経のよさと明るくさばけた性格、ついでに言うなら一年生ながら既に169センチの長身、中性的なその容姿から何故か男はもちろんのこと女にモテている彼女。
 甘いものは嫌いではない、というより運動部に属しているので、体力を使った後は回復のために甘いお菓子は欠かせないと思っている・・・が・・・。
 自分の下駄箱にはこれだけのチョコレートが入っていたけれど・・・。
(雲雀の下駄箱、どうなっているんだろう・・・)



 この春入学した武は、幼馴染の日舞家元ご子息雲雀恭弥から告白された。
 
 曰く

『小さい頃からずっと 好きだった』

 ただの幼馴染から武の中で雲雀が恋人に昇格するのはそう問題は無かった。この山本武という少女、見かけの大人っぽさとは裏腹に野球一筋で来たせいか、はたまた娘溺愛の一人親剛に大事にされすぎているせいか、それとも根が男勝りのせいなのか・・・いや、周りに男が大勢いても、彼女がちっとも男として意識していなかったのが原因かもしれないが、まだ恋愛事にはとんとご縁がなかった。
 そんな彼女にとって雲雀は一番身近にいて、その成長振りを殆ど毎日見てきた少年だったこともあり、告白されたことによって、武にとっては『人類皆兄弟、世界に広げよう友達の輪』から一歩抜きん出た、という存在になった。
 女の子みたいだったあの頃が嘘のように凛々しく育った雲雀―――けれど。小さい頃女の様な顔立ちだった雲雀は、どちらかと言えば虐められっ子に近かったので、妹や武以外にチョコを貰っている姿などみたことがなかった。
 つい近年の、武小6、雲雀中1のバレンタインデーにも、空っぽの手の中に武がお気に入りのケーキ屋で買ったチョコレートケーキを野球部へと走り急ぐすれ違いざまに渡したことを記憶している。



「・・・・彼氏よりチョコ沢山貰ってる女ってどーよ・・・」

 実は、武も鞄の中にこっそり忍び込ませている・・・そりゃもちろん、雲雀へのチョコケーキ。
 あまり甘いものが得意ではない雲雀のためにビターチョコで、もちろん自分で作った・・・好きな男の子に、初めて作ったチョコレート。

「男として、一個ももらえないよりは・・・いいのかなぁ」

 たはは、と眉を下げ複雑そうに一人で笑っていたら、後ろから「山本ちゃん!これあげる」と三年の女子からまたチョコをもらってしまい、隣にいた黒川花に「あんた、男に生まれてくりゃ良かったのに」とからかわれた。



 今日はバレンタインデーなんだし、お弁当は一緒に食べよっかな、と訪れた昼休みの応接室は、何故か扉の前を副委員長の草壁がダンボール箱を持って立ちふさがり、中に入れなくなっていた。

「あの〜草壁さん、ひばり中にいないの?」

 武がひょいひょいと軽い足取りで近づいていくと、いきなり扉が開いて中に引き込まれる。

「うわわっ!」

 ドサリとソファに背中から落とされ驚いて見上げると、雲雀が困ったように自分を見ている。

「どうしたの・・・・・って、何これ!?」

 ソファの周り・・・というか、机や書籍棚が置いてあるところ以外、全てチョコレートで埋まっている。

「・・・・他校から宅急便で届いたらしくて・・あと、後援会の人とか、から」

「ふえー・・・・」

 高そうなきらびやかな包装紙に、色とりどりのリボン。有名店の名前の入ったシールがピッタリと貼り付けられ、それぞれ雲雀宛てにカードが添えてある。
「ほーーっ」とため息をついてはたと気付く。そういえば、雲雀は去年から他校の、それも高校などから文化祭にゲスト出演して欲しいなどの要望を受けて踊ったりしていて、『流し目王子』なんて呼ばれていたりするんだった。
 そしてそして、彼は最近父親の舞台にもよく顔を出しおばちゃん連中のアイドル的存在になりつつあったのだった!


(・・・・ふぅん)


「・・・そうだよね。いや、まあちょーっとは想像してなくもなかったけど・・・さ」

 思わず目が据わってしまう。ポケットにそっと忍ばせていた自分の想いを、このチョコレートの山と一緒くたにされるとは、そりゃ思わないけれど・・・。
(雲雀のくせに・・・あんなちっちゃくてめそめそ泣いてた雲雀のくせに〜!!!)

「武?」

 武はソファの上をスカート姿のままピョンと飛び跳ね、僅かに空いた隙間に綺麗に着地すると、扉を開けていきなり「あっかんべー!!」と言い残し走り去ってしまった。

「・・・・・・ワォ」

 あっけにとられて武の姿を見送ってしまった雲雀だが、その口元を押さえて笑いながら可愛い、と呟いていたのを草壁だけが聴きつけ、青ざめながらいかつい頬をヒクヒクさせていた。




・人参
・ティッシュ5箱298円×1

 夕方の並盛商店街、雲雀にあっかんベーをしてしまった手前なんとなく一緒に帰りづらくなってしまった武は、自宅に帰る前に買い足さなくてはいけない物があったことを思い出し、最寄の店に立ち寄った。
 薬屋を出て、さて父の待つ自宅へ、と足を進めようとした武の目の前に私服姿の女子高生・・・そして。

「雲雀君!あの、これ受け取って」

 武の目の前で繰り広げられる告白に、商店街のおじさん、おばさんたちも囃し立てる。

「よっ!色男ー!」

「いいねぇ若いっていうのは〜」

 白い肌をピンクに染めた、柔らかそうな髪の女の子。チョコレートを持つ手は細く、綺麗な指が震えている。そして、その目の前には顔色1つ変えずに突っ立っている、『流し目王子』雲雀。
(雲雀なんて、細っこくって、頼りなくって、喧嘩の一つもできなくて)
 ずっと守ってあげなきゃならないって思っていた雲雀――――俺の雲雀。
(だけど、今は違うんだ、こんな美人に告白されちゃうんだ・・・)
 彼女に比べて、小さい頃から野球をしている武の冬でも黒い肌、硬い手は冬の水仕事のせいであかぎれまで出来てしまっている。
(ティッシュなんて持ってて、だから花に所帯くさいって笑われちゃうんだよな)
 

 ―――なんだか、恥ずかしい。


 漫画みたいに絵になる二人を見ていると段々みじめな気持ちになってきて、武は鞄と買い物の袋を抱えて、その場を逃げるように立ち去った。



 バタバタとスニーカーの踵を踏んづけたまま走って、いつの間にか並盛中央公園まで来てしまっていた。
 中学入学のお祝いにと父が買ってくれた腕時計を見ると、6時半を過ぎている。辺りは既に薄暗くなっており、公園内には人っ子一人いなかった。
(そういえば、ここって先週変質者が出たんじゃなかったっけ・・・)
 まずいかな、やっぱまずいよな。そう思って商店街に引き返そうとした武の肩を、ポンと誰かに叩かれ思わず跳びあがってしまう。

「ふぎゃっっ!!」

「じゃないよ!こんな時間に女の子が一人で何してんの!?」

 おそるおそる振り返ると、同じ目線に雲雀が立っていた。

「・・・ひばり・・・」

 ほーーーっと息をついて、あれ?と思う。

「何でここにいるの?ひばりさっき商店街に・・・」

 きょとんとしながら小首を傾げている武を雲雀はどこか呆れた顔をして見つめると、跳びあがった時に武のポケットから落ちたチョコレートの箱を拾って。

「これ、取りに来たの」

「・・・え・・・」

 しれっと言い放った雲雀の言葉にその目を瞠る。

「朝からいつくれるかいつくれるかって待ってたのに、結局来ないんだから」

 トン、とチョコの箱で自分の顎をひとつこづく、そんな仕草さえ様になる俺の雲雀。
(・・・おれの・・・・?)
 少しだけ人の悪そうな笑みを作って近づく顔が、武の耳にそっと囁く。

「妬いた?」

(・・・・・え?あ、そうなの・・かな?いやだって、そんな)

 だって雲雀なんて女の子みたいで、俺が守ってやんなきゃ泣かされてばっかいて・・・。


 だけどだけど、ずっと俺のだって思っていたんだ。大事に大切に俺が守ってやるんだって思ってたんだ。


「でも僕、武以外のチョコは受け取らないよ?」

「え・・・だって、あんなにいっぱい・・・」

「あれは一応名前だけひかえておいて、住所があれば後援会の方からホワイトデーにお礼状を出すらしいよ」

「・・・そうなの?」

「うん。チョコは風紀委員の皆で処分してくれるし。・・・ねぇ、もう僕何年も前から君以外のチョコは貰っていないんだって知ってた?」

 雲雀が、その切れ長の目で優しく笑って武の色素の薄い大きな瞳を覗きこむ。

 あれ?雲雀っていつの間に俺と目線が同じになったんだっけ?俺の肩幅より広くなってる肩に目を移す。 こんなに、大きくなった俺の雲雀。


 ・・・ねぇ、ずっと『俺の雲雀』でいいんだよね?


「・・・・妬いた」

「え・・・?」

「すごくすごくすごーく、妬いた!!」

「武・・・」

「だからこれ食べさせてあげない!!!」

「え・・ええっ!?」

 バッと雲雀の長い指からチョコケーキの入った箱を奪い取って足早に歩く。
 ―――赤い顔を見られないように。


 いきなり、自分の気持ちに気付かされてしまって、武はどうしていいか分からない。


(どうしようどうしよう、可愛かった雲雀が、かっこよく見えるなんて)

「ねえちょっと武!」

 だけど、少し困った声が後ろから着いて来ることになんだか安心してしまう。
(背が高くなっても、声が低くなっても、女の子にモテるようになっても変わらずに俺を追い駆けてきてくれる雲雀)
 くるっと振り返った照れくさそうに頬を赤く染めた武は、思わず立ち止まった雲雀のちょっと困り顔の眉間にピタッと人差し指をくっつける。

 そして

「じゃあこれからも、絶対俺のチョコ以外食べないで!!」

 そう言って、驚き破顔した雲雀の頬にキスした。



              おわり


『焼きもち妬く武』いかがでしたでしょうか。いっつも雲雀ばっかりがやきもきしてるうちのサイトですが、武の恋の自覚と可愛い焼きもちが描けてとても楽しかったです。黒崎様、リクありがとうございました!

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