リクエスト・企画小説
あなたに近づける理由  ヒバ山


「すげー雨だなー」
「この雨男・・・」
「えー、俺ー?」
クリスマスイブの今夜、山本は幼い頃はともかく近年はずっと父の手伝いで、今だって寿司桶を持って配達中だ。朝からしとしとと雨模様ではあったが、夕方を過ぎた辺りから飛沫を上げて降り出した雨は、アスファルトを川のように流れて排水溝へ落ちていく。
雲雀はクリスマスで混雑する商店街界隈その他諸々を、他の風紀委員達と手分けして見回りする所だった。向かい合う信号待ちの交差点、青信号で動いた人波に、なにやら大きなものを手にえっちらおっちら歩いてくる長身の影は、まごう事なき我が恋人、可愛い彼氏山本武。


折角作った寿司が濡れてしまわないように、一つ一つをナイロンの風呂敷で包んで更に上からビニールで覆ってという厳重さ。まだ中学生だから当然車なんて乗れるはずもないし、この雨では自転車だって使えない。だから山本は片手に寿司桶、片手に傘といういでたちで、けれど少しでも寿司が濡れないようにと寿司の方に多めに傘を差しかけているものだから右肩はずぶ濡れだ。
「ひばりはこれから見回り?」
「・・・うん。君は見た通りそのまんまみたいだね」
「ははっ。そう、これから4丁目まで行かなきゃなんねえんだ」
おっと、そう言って山本は傘を差している手を目の高さへと上げた。珍しい事に、その手首には腕時計が回っている。いつもは鞄に無造作にぶら下げてあるのに。ああホラ、そんな風に見るものだからまた肩が雨に晒されてる。・・・君、大事な並盛中学野球部の、たった一人のピッチャーでしょうが。
「わりぃひばり、俺もう行かねぇと。雨酷いし気をつけろよな!」
そう言ってすれ違いざまにっこり笑って山本は歩く速度を上げた。いつものような速さで走れば、折角の寿司がずれてしまうかもしれない事を考慮してなのだろう。

――だから、追いつけるのは簡単。

「ひばり?!」
追いついた山本の、寿司桶を持つ方に傘を半分差しかけて。驚いて立ち止まった山本に先を促しながら傘を野球少年の大切な右肩へと押しやる。
「僕の仕事は並盛の治安維持なんだけど」
「・・・うん」
「君の肩が壊れたりしたら僕は、寿司を配達させた4丁目のナントカさんを殴って留置所行きかもしれないよ」
「は!?」
「だからその肩にちゃんと傘さしときなよ。聖夜に物騒な事させたくなかったらね」
目をまん丸に見開いた山本が、ぷっと吹き出してオッケーと一言。


君のためだと言ったって、変に意地っ張りな君はどうせ素直に頷かないから。傍にいる理由を作ってあげるのも彼氏の役目なんだよって、折れてあげる事も時には必要だよね。




とりあえずあそこの信号が青に変わる前に、寒さで赤くなっている唇をクリスマスプレゼント代わりに頂いてしまおうかな。




【冬の愛しい】5のお題
 お題配布元starry-tales
アドレス:http://starrytales.web.fc2.com/



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