リクエスト・企画小説
やわらかな陽射しの午後はゆっくりにゃんことお昼寝
柔らかな陽射しの午後は、ゆっくりにゃんことお昼寝


じっくりと堪能した体を抱きしめたまま、まだ使って間もないベッドで2人心行くまで眠る。こんな風にゆったりと過ぎる休日は久しぶりだった。どちらも仕事上では重要な肩書き(特に自分は)を持っているから、この家に帰るのすら困難を極める事が多々あり、ついでに言うならスケジュールが何処の誰の画策か全く以って合わなかったりして、どちらかが家に帰ってきてもどちらかは出張だなんてこともしょっちゅうで。
とにかくこの日だけは一緒に過ごしたい、出来ないならケーキもプレゼントも全部持ってヴァリアーに乗り込んでやる!!と珍しく聞き分けなく叫んだ山本に渋面を作りながら、それでも使える手も時間も全て注ぎ込んで仕事をこなし、やっとの思いで48時間をもぎ取ったザンザスへの山本からのプレゼントは、労をねぎらってはくれたものの満足したかといわれると首を傾げそうな気もする。


誕生日のプレゼントと言われて思い出すのは、数多の女達及び近親ファミリーからの眩くきらびやかな形ばかりの贈答品etcetc。
けれどそんなものが欲しいのかと聞かれれば、やはり首を捻らずにはいられない。


すうすうと自分の胸元に耳を寄せ、猫のように背を丸めて眠っている山本の髪に鼻を寄せれば、いつもの陽射しの匂い。


ものなど、何の価値も無いのだと俺に教えたのは


大ぶりの窓から差し込む陽射しに、ベッド横のチェストの上にある山本専用目覚まし時計を見れば既に一時を過ぎている。夕刻にはあの腹っぺらしどもが群れを成してこの家に押し寄せて来るのは想像に難くない。
誕生日など、ただ、父である男と母である女がまぐわい、勝手に己という魂をこの混沌とした世界に産み落としたありがたくも何とも無い日だと思っていた。きらびやかな貢物も、おめでとうと口々に叫ばれる声も、ただ目の前を空虚に掠めて流れて行った。けれど。
『ザンザス 生まれてきてくれてありがとうな。愛してるよ、アンタがいてくれて本当に嬉しい』
今から7年前の誕生日にオマエが寄越したその言葉を、俺は今でもしっかりと覚えている。権力も、財力も、その言葉の前ではただただ無力なのだと思い知らされた。人は誰かにその言葉を与えて欲しくて、それが手に入った瞬間とても敬虔な気持ちになるのだと知った―――この、俺でさえも。


オマエだけでいい


年代もののワインも、オークションに賭けられるほどの名画も、最高級と呼ばれる諸々のなにもかもが、山本武と言う男と並べれば全て何の価値も無くなる。


『ありがとう 愛してる アンタがいてくれて本当に嬉しい』


たった一人、心の底から自分を大切に想っていると言ってくれる人がいれば。その人を心の底から信じられる自分がいれば他は何も要らないのだと、初めて思えた瞬間を俺は今でも鮮明に覚えている―――。


ザンザスはもう一度ゆっくり目蓋を閉じる。首の下に回した己の腕に、猫のようにすり、と頬を寄せてくる山本の陽だまりの香り薫る短い髪に唇で触れ、暖かな陽射しにまどろむ。
後もう少ししたらこの男を起こして夕餉の支度をしなければならない。だからそれまでは、この極上の一日を心行くまで堪能していようと。




『やわらかな陽射しの午後』『にゃんことお昼寝』 ・・・・ お題配布元:Noina Title



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あきゅろす。
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