リクエスト・企画小説
もういちど
   もういちど


絨毯の上に転がるのは、いつかのワインブームのせいで今はもう手に入れるのすら困難な80年代の赤ワイン。最後の一滴まで飲み干した後は、秋の夜長を楽しむためにまずは口付けを―――。


2人で暮らすようになってから初めて迎える誕生日に、何が欲しいだろう何をあげたら喜ぶだろうと数週間前から頭を悩ませていた。だって“2人で暮らして初めての誕生日”なのだ、思い出に残るような素晴らしい物をプレゼントしたいではないか。

―――大体、この男は贅沢に生きてきたから物欲が無さ過ぎる。

養子として引き取られてからというもの、それまでの貧乏暮らしが一転し、蝶よ華よと育てられ(たかどうかは定かではないが、多分近い物はあるだろう)身についてしまった贅沢癖で、最初2人の住家を決める時も、真新しい家をスラム街の一角を買い叩いて造らせようとした。
とは言ってもそれはあまりにも広い屋敷に暮らしてきた為に一般的な感覚が麻痺してしまっているせいであって、そんな広い家じゃアンタとまともに顔も合わせられないと山本が言えば、じゃあオマエの好きなようにすればいいと、さもあっさりした物で。
そうして山本が探し出した中古の家を改築してもらい、じゃあ家具を選ぼうぜと言えば
『なんでもいい』
アンタ絵とか壷とか好きだろ?調度品の類は俺には分からないから選んでくれよと言えば
『飾りもんなんかあっても歩くのに邪魔になるだけじゃねえのか』


 ・・・・だと。


ここ数年付き合って来てずっとその調子だった物だから、相手の好みを知ろうにも何の手立ても無くて(知ってるのはせいぜい女と食べ物に関する嗜好くらいなものだ)どうしよう、何をあげたら喜んでくれるんだろう、考えて考えて。
でも結局考え付かなかった山本は、誕生日の前日メルカートでの買い物の帰りに、肉と酒の好きなザンザスの為に、せめてディナーに合うようなワインをと立ち寄った先の酒屋でそれを見つけたのだ。


「・・・ん」
ザンザスの硬い左肩に頭を乗せたまま眠っていたらしい山本が、薄ボンヤリと目覚めたときには午前0時をとうに過ぎていて、少しだけまだ酔いの残る頭をふるりと振ればその感触に闇色の瞳がゆっくりと開かれる。
ワインは、誕生日当日はヴァリアーの野郎共が来て、絶対我も我もと手を伸ばされてせいぜい一口程しか飲めなくなるのがオチだと言って、さっさとザンザスが開けてしまった。
夕食時にも数本空けていたので、さすがに腹いっぱいと断った山本に、俺の誕生した年のワインが飲めないってのか、なんてよく訳の分からない因縁(?)をつけられ、わざわざ口移しで飲まされて、そのまま行為になだれ込まれてしまった――と、そこまでの記憶はある。
「・・・誕生日、おめでとザンザス。ワイン、ちゃんと味わえたのか?」
「・・・ああ」
その返事が、おめでとうに対する物なのか、ワインを良く味わったという意味なのか図りかねてじっと見つめていた山本の視界がくるりとあお向けられた。
「そういや、まだ味わいつくしては、いないな。なんせヤり始めて早々に誰かさんは眠っちまったんでなぁ」
傷だらけの頑健な体に組み敷かれながら、胸震わせる深く熱い声で言われても、流石にこの煌々と明かりの灯った中しらふでいたすのは恥ずかしいものがあり。大きな傷跡の残る頬をぺちりと叩いて電機のスイッチを指差せば、その指にがぶりと噛み付かれる。
「もう一度」
耳の穴に舌をねじ込まれて囁かれしなる背筋を撫でられて、こうなればどうにも熱の高まりは抑えられず。
「も、いいや」
仕方が無いからこの恥ずかしさも全部まとめてプレゼントしてやる事にした。



     『もういちど』・・・お題配布元:Noina Title



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あきゅろす。
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