リクエスト・企画小説
クローム
「凪は一緒に行かないのか?」
たまたま立ち寄ったボンゴレの屋敷、どこまでも続く緋色の絨毯の上、クローム髑髏は振り返った。
「・・・どこへ?」
自身よりも随分と違う目線。けれど彼は同じ守護者だった。名前は、山本武。
「え、だって久々にハルと笹川が来てるから、ビアンキが一緒に遊びに連れてってくれるって・・」
「私はいいです」
「凪?」
クロームは走り出した。なぜならば、クロームは山本武が苦手だったから。


いつもいつも彼の周りには誰かしら人が傍にいた。それは当主綱吉であったり右腕である獄寺であったりもしたけれど、とにかくその顔ぶれは多彩で、ある時などはあの誰もが恐れるヴァリアーの連中に囲まれていた物だから、もしかして何か難癖でもつけられているのではないかと思ったほどだ。後で聴いたことだが、山本武はスクアーロの怪我が治りきるまでの数ヶ月ほどヴァリアーに貸し出されていた事があったらしい。それでもあのザンザスですら面倒くさそうではあるが綱吉と話すのとは随分違う表情に見えるのは、やはり彼の人柄による物なのだろうと思う。
(私とは、人種が違う)
父や母からも疎まれて、生きる事すら望んでもらえなかった自分。それに比べてあの人は。
(私は犬や千種、そして骸さまだけが居てくれればいいの。他の人たちと交わるつもりなんて)
階段を駆け下りていた途中のクロームの手が温かくて大きな硬い感触に包まれた。


「こーら、逃げるなって」
ブーツのかかとがかくんと横にずれて、後ろに引っくり返りそうになったクロームの体は、脇から伸びてきた手にふわりとと持ち上げられるように支えられた。
山本武が笑いながら後ろに立っていた。
「・・・私、行きません」
「んー、でもさっきから3人があそこで待ってんのな」
ちょいと親指で指し示す先には、ビアンキ・ハル・京子の3人が笑顔で立っていて、クロームは目を伏せる。
「・・だって、私・・」
そんな風に待っていてもらえることに、慣れてはいないの。誰かと一緒に何かを楽しむなんて知らないから、私が居るとみんなつまらないんじゃないかしら。
「おいで」
山本武は笑ってクロームの腕を取ると、まるですべるように階段を駆け上がった。緋色の絨毯の上、彼女たち三人にもう少し待ってくれとすれ違い様言い置いて。


「これ着替えな。プレゼントだってさ、―――ツナから」
現ボスからだと言われてしまえば受け取らないわけにもいかず、着替えて出てきたクロームはそのまま客室のスツールに座らされて、髪を梳かされる。
大きな手に髪を梳られるのは、感じたことの無い気持ち良さだった。
「凪は髪きれいだな」
「・・・そんな事言われても何も出ません」
「あはは、ほんとだって!ほら、こんなにさらっさら」
山本武の手の中、クロームの髪は弾むように流れている。不思議だった。自分じゃそんな風に思ってもいなかったのに、山本に言われると何となくそんな気がしてくる。山本はその髪をひと房取り分け、頭上高く結い上げた髪に、くるくる器用に巻きつけてピンで留めた。
「ほい出来上がり。行っておいで」
ぽんと背中を押されてドアを出ると、先程の三人が待っていてくれた。一人がクロームの手を引いて、もう一人はその背を両手で押して早く早くと急かす。
「気をつけてな〜」
あの人は行かないの?と背の高いグレーの瞳の美くしいひとに聴けば、今日は女だけで楽しむんだもの。連れて行くわけ無いでしょと、さも当たり前のように言われて。


未だ笑顔で私たちを見送っている背の高いあのひとに、お土産を買って行こうなんて思っている自分に、自分で驚いた。


髑髏ちゃんは人との距離のとり方にまだ慣れていないのでした。山本は人の背中をポンと押してくれるのがとても上手な男だと思います。


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あきゅろす。
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