リクエスト・企画小説
K様リク 弾丸ファイター
 ドカドカと、珍しく足音を荒げて雲の守護者雲雀恭弥はボンゴレ管轄の病院内を歩いていた。廊下を道行く患者(もちろん関係者)が何事かと振り返るが、その険しい形相に見てしまったことを後悔し、パッと視線を逸らす。雲雀は『TAKESHI YAMAMOTO』と書かれた病室のスライドドアを思いっきり開けた。

「お〜す ひばり〜」

 何とも間延びした声でベッドに横になっているのは、ドアの側に付けられたプレートの名前通り、ボンゴレ雨の守護者である山本だった。ただいつもの彼と違うのはその体・・・いや顔面までをも覆っている真っ白な包帯。

「・・・なにその顔。てゆうか、何で君来ちゃったの!?」

 いつも飄々としている雲雀が声を荒げる様子に一瞬目を瞠った山本だったが、すぐにいつもの表情を取り戻した。

「―――ひばりの事だから、察しはついてるんだろ?」

 僅かながら言い辛そうにしているのは、やはり顔の傷のせいなのだろうか。山本の体中の傷は、2代目剣帝と称されるスペルピ・スクアーロと死闘を演じた事を如実に物語っていた。



 彼の元に“それ”が届くようになったのは、彼がプロ野球の選手になり、投手として着々と黒星を挙げ新人賞を取った頃だったと聞く。当時選手の寮に住んでいた山本の手元に、一本ずつ届くビデオテープ。それは二週間に一本の時もあれば、三ヶ月に一本という時もあり、そのビデオに映る人が、多岐に渡って戦いを挑んでいた事の証であった。
 小さい頃からプロ野球の選手になりたいと夢を描いていた山本に届けられるそのビデオには、ただ鋼のぶつかり合いしか映ってはいない。けれど、数年前に時雨蒼燕流を父親から受け継いだ山本の、心の奥底に呼びかけるものが確かにあった。

『こちらに来い』

『お前の剣の腕を錆びさせるのは俺が許さない』

 その男が自分の剣を誰よりも認めてくれていたことを山本は知っている。だから守護者としてイタリアに渡るか、野球選手になるかの二者択一を迫られ悩んでいた時、綱吉が『山本はプロになって。時たま、イタリアに顔を出してくれればそれでいいから。俺たち、何とかするから』そう言った綱吉の言葉を遮る勢いで、『そんな生易しい覚悟でマフィアが・・剣の道が極めなれると思うなぁ!!』と、襟元に掴みかかられて、山本は心底困った―――本当に、困ったのだ。
 あの頃とは違う、プロになった自分。そして、剣帝になるために100人斬りを己に課したスクアーロ。
 投げたい、と思う。しかしその反面で『この男と戦ってみたい』そう思う自分がいるのもまた事実で。




「・・・・・で、やったんだ」

「おーっ見事に玉砕したぜーっ!」

 晴れやかな笑顔で言い切った後で痛てて、と顔を歪める山本を、雲雀は忌々しそうに見つめる。

「馬鹿じゃないのとしか言いようが無いよ。君自身何年のブランクがあると思ってるのさ。たまに顔出しに来てたってやる事といえば雑用ばかりだったくせに。いいかい?三年だよ?三年の間、向こうは剣の腕を磨き続けていた、でも君は?野球やってたんだよ。球投げてただけなんだよ!やりあったって負けるの目に見えてるじゃないか!!何だってそんな危ない橋を今渡ろうとするんだよ!!!」

 ぜいぜいと肩で息をしている雲雀が落ち着くのを、そわそわしながら山本は待った。

「・・・なに嬉しそうにしてんの」

「れ?わかる?だってさ、ほんっとスクアーロの奴強くなっててさ!」

「・・・・・君はほんっとーに、わかってないよね、いつも・・・!!」

 噛み殺してやりたい衝動を何とか押さえ込んで、けれどいつもの雲雀らしさなど欠片も取り戻すことができなくて。

「ねぇ!あいつとやりあったって事は、もう後戻りできないってことなんだよ!!」

 声を荒げる雲雀を、相変わらずの柔らかな笑顔で見つめた山本の口から、信じられない言葉。

「ん、いいぜ。実は先月付けで球団に辞表出したんだ」

「は・・・・・!?」




 剣帝を目指すスクアーロが最後に戦う相手として選んだのは、他でもない山本武だった。その旨を伝えられた時、山本は恐怖よりも喜びに打ち震えた。ずっと只画面で見て、こぶしを握り締めるだけだったその相手と戦える事に、自分の心が踊るのがわかった―――そこに野球の二文字など微塵も浮かばなかった程に。
 だからこそ、こんな中途半端な自分では勝つどころか、相手に対して失礼だと自分の中でスッパリと野球を切る覚悟を決めた。それ程にスクアーロの強さは他を圧倒しており、そのスクアーロが自分を最後の相手として指名してきた事は山本にとって、とても光栄なことに思えた。
 日本野球界は山本電撃引退のニュースを受けて色々な憶測が飛び交ったが、当の山本自身は記者会見で「野球よりもやりたいことができました」と爽やかにもキッパリと言い切って、会見に来ていた大勢の人間の度肝をぬいたものだ。
 かくして、一ヶ月とは行かないまでもそこそこの修行に励み、剣帝まで後一歩のスクアーロを阻止すべくイタリアに渡った山本であったが・・・。


  その豪剣の前に惨敗。


 体中の切り傷を眺めた時に医者が言った一言は「何て無謀な・・・」だった。
 ただ、恐るべきはこれだけの外傷でありながら、致命的な怪我は一つもなかったということと、さすが山本、時雨蒼燕流と言うべきか、三年というブランクがありながらも、スクアーロにもきちんと一太刀喰らわせて、11針の傷を負わせる事に成功した。
(とはいえ、こちらはそれどころの縫い傷ではなく、おまけに顔にまで傷が残ったのだが)

「辞めちまったもの、今更戻れるとは思ってねぇし」

 雲雀を見て、山本が晴れやかに言う。

「これからは守護者として高みを目指すぜ!」

 しかし雲雀はそんな山本の包帯に埋もれていない側頭部をパコンと叩いた。
「ひ・・ひばり?」

「・・・・」

そうして、ふわりとその両の頬を、体温の低い己の手の平で包み。

「何で、ボンゴレリング使わなかったの?」

「いや、だってスクアーロは剣以外使ってなかったし、真剣勝負にそういうのって無粋だろ?・・・それに実はまだあんまり使い方知らなねえし・・」

「・・・ばかだよ。こんな所に来たって、つらい思いをするだけだ・・」

 まるで搾り出すように。自分が痛い思いをしているかのようなその声に、山本は少しだけ眉をひそめる。

「でも、君はそうと決めたら僕の言うことなんて聞きゃしないだろう」

「・・うん、ごめんな」

「今回のことだって、僕がどれだけ驚いたか、君に想像できるかい?」



 そうなのだ。心配を掛けるのが分かっていたから、誰にも黙っていた・・・綱吉にさえも。入院したことでボンゴレに連絡が行って、そこで初めて山本がスクアーロと決闘したことが皆の知る所となったのだ。

「・・・・そばにいれば、こんな風に心配させられる事は無くなるかな」

 柔らかく抱きしめる雲雀の腕は微かに震えているように感じる。

「もう、心配させるようなことは・・・(多分)しない」

「・・・本当に君は、いつまでたっても僕の心労の種だ」

 わざとらしくため息をついて言う雲雀に、山本はごめんなと言う代わりに、ゆるゆるとした手つきで包帯だらけのその腕を雲雀の背中に回した。


 その数ヵ月後、雨の守護者として愛刀片手に戦いの場に身を投じる事となった山本は、スペルピ・スクアーロと共にボンゴレの二大剣豪と称される事となる。


   おわり

K様リク『10年後の山本の顎の傷と雲雀の気持ち』でした。リク頂いた時点ではまだスクが二代目剣帝だってわかってなかったんですよね。あのビデオレターで一気にネタがって来ました(^^)いや〜、でもほんっと生み出すまで大変でした。書き概のあるリク、ありがとうございました。

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あきゅろす。
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