リクエスト・企画小説
神楽様リク ひば女武Midnight 2 call
「・・・ん」
艶かしくくねるしっとりとした肌、その上をすべる武骨な手を、その男の名も知らぬままに女は自分の内へと招きいれる。商売女の性とはいえ、充分にもとが取れるだろうと思えるほどの逞しい男の体に女は酔いしれようとしていた―――のだが。
「・・・なに?」
腰に回していた腕を急に外されいぶかしむ女を片手で制すと、枕元に置いてあった携帯電話を取る。無粋な電話の電源など切っておけば良いものを。然し男の仕事の都合上、それが出来ないことをこの女は知らない。
女のもの欲しげな視線を背中に受けながら、ぷつと通話のボタンをおせば少しの沈黙の後、心地よいアルトの声がザンザスの耳をくすぐった。
「・・・どうした」
『・・うん、いやその・・・何でもないんだけど、さ』
珍しく歯切れの悪い言い方、だがザンザスはその理由に心当たりがあった。
『眠れ・・・なくて・・』
雲雀と武は駆け落ち同然で二人一緒にヴァリアー邸で生活していたが、今年3月、正式に十代目を継いだ沢田綱吉のところへ守護者として移り住むことが決まり二年間世話になったヴァリアーを後にした。
ところが仕事を始めて数ヶ月もしないうちに、雲雀が武のことが気になって自分の仕事にまったく身が入らない。それどころかいらぬ揉め事を増やして帰ってくる始末で、さすがの綱吉も堪忍袋の緒が切れたという訳で、日本へ二年間の転属命令を下す運びとなった――――それが、5日前の話。
「・・・だから何だ。俺もいま手が離せない」
『・・・・うん。そうだよな、ゴメン』
「―――お前・・・未だ・・・」
『・・・・』
山本武の精神的外傷については、身近で見ていた自分が一番よく知っている―――ある意味、雲雀よりも。
あの頃、ともすれば内に篭り自傷行動に走ろうとする武を抱きしめたのはルッスーリアであり、掬い上げたのはスクアーロであり、そしてザンザスは夜に怯える武に寄り添い夜を明かし、それからやっと彼女は眠れるようになった。もちろんその当時日本にいた沢田綱吉や彼の右腕だという獄寺はそんなこととはつゆ知らず、既に武は立ち直ったものと思っているだろう。雲雀ですら、大まかなことを武の口から伝えられているだけで、武を傷つけないためにそれ以上のことを聞こうとはしない。だからヴァリアーが武を支えたなどということは誰も知らないし、スクアーロ達も口外するつもりなど微塵もなかった―――武の名誉のためにも。
・・・それなのに。
「雲のがいなくなった途端これか・・・いい加減にしろ」
吐き捨てるように、けれどそれが本心でないことなど、武には分かりすぎるほどわかっていた。だからこそもう甘えてはいけないと、雲雀と再開してからは出来るだけ雲雀を頼りにするようにしていたのに。
雲雀とは別な次元でザンザス達ヴァリアーを拠り所として求めてしまう自分の中の弱さを、この5日というものどうすることも出来ずに一人膝を抱えベッドの上で夜が明けるのを見上げていた。
『・・・今、何してる?』
頼り無げな武の声に電話を持つ手に思わず力が入りギシリと音をたてるが、ザンザスは無機質な声で応えた。
「取り込み中だ・・・そう言えばわかるだろう」
「ねぇ はやくぅ」
背中にしどけない身体を擦り付ける女をそのままに。電話越しに知らぬ女の色香を含んだ声が聴こえ、ザンザスの言った意味がわかったらしい武は暫く黙っていたが、気持ちを切り替えるように明るくルッスーリアの居場所を聞いてきた。
「屋敷にいるだろう。・・・・お前・・」
ザンザスが最後のセリフを言う前にプツリとぞんざいに電話は途切れた。6月、もう冬の寒さから抜け出たとはいえ霧の多い地方だ、夜は冷える。
(・・・だからなんだ。あいつも長く住んでいるんだ、それくらい分かっているだろうが)
何処から掛けて来たんだと聞くことも無かったが―――。ザンザスは苛立ちの色を滲ませた目で窓の外を眺める。
「ねぇ、もう話は終わったんでしょう?」
しかし早く続きを、と求めてくる女の顔など、ザンザスは見てもおらず、ずっと二つ折りの携帯は開かれたままで。
「・・ねぇ!ちょっとっ」
いきなり立ち上がりベッドの上に脱いだ自分の衣服を身につけると、女のほうなどちらりとも振り返ることなくドアを開けてさっさと出て行ってしまう。
「なによ・・・あれ・」
あっけにとられた女の露になった太ももの横に数枚の札が広げられていた。
「ルッスーリアか、あのMaschiettaから連絡は?」
霧の立ち込めた街中を重い靴音の、不機嫌な声が早足で通り過ぎる。まとわりつく水の粒を拭うこともなく、たった一人の人の気配を見逃さぬように気を張り巡らせ慎重に。
『ええ、さっき電話あったわよう。え?ああ、ボスのいる場所からそう離れてないわ。でもボス用があったんでしょ?アタシが迎えに・・』
ルッスーリアから武の居場所を聞くと即座に携帯を畳んでポケットに仕舞い、ザンザスは目的地に向かって足を速める。
そうして5つ目の角を曲がった所で、肩を落として所在無さげに街灯にもたれ俯く短髪の背の高い少女を見つけて背後へ近づくと、ふいに何者かの気配に気づいた武がビクリと身体をこわばらせ、背中の愛刀へ手を伸ばした。
女にしては硬い武の指をザンザスは己の大きな手で包み込み、その硬い手の平でザンザスだと確信して振り向いた彼女の頭の上から腕に抱えていたコートをばさりと被せて。
「・・・・帰るぞ」
薄茶色の大きな瞳にゆらゆらと揺らめいている涙をそっと自分のシャツの袖で拭ってやると、迷子の子供をあやすように優しく抱きしめた。
おわり
神楽様リク「ヒバ武前提のザン山」。雲雀のことは愛しているけれど、一人の夜が耐えられなくてザンザスを求めてしまう武でした。でもこの二人の間に体の関係はありません。『世界の終わり』の続きで『ハミングライフ』との中間くらいのお話です。題名は飛鳥涼の歌から。ヒバ武のザン様は哀しいくらい武を愛してます。
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