リクエスト・企画小説
ルイ様リク ひば女武Missing
 4月も終わりに近づいた日曜日、雲の守護者の寝室で一緒に眠っていた雲雀と武は、空腹を感じて目が覚めた。

「・・・もう11時すぎてる・・」

「これじゃ昼ごはんだね」

 時計を見上げて二人して笑う。武の誕生日に雲雀が日本から帰って来てから約一週間、まだ大きな仕事が入っていないこともあって毎晩のようにじゃれあっていた。
(そろそろ沢田からお叱りを受けてしまうかもしれない)
 以前武があまりにも気がかりで、自分の仕事をそっちのけにして彼女を見張っていた自分に下された、2年間の日本勤務という処分。
(正直あれはキツかった)
それでも。ここはイタリアで自分は彼女のとなりに居るというのに、一時でも武を手放したくないと思ってしまうのは、とにかく彼女に溺れ切っている証拠だ。
・・・だというのに。
 今日これから武はヴァリアー邸に向かう。先日彼女の誕生日に送られて来たあの赤いドレスを着て。
(行って欲しくない、けど狭量な男だとは思われたくは無い―――もちろん武にも、そして、あの男にも)
 彼女を愛しているくせにそんな素振りさえ見せず、兄のようにただ見守っているあの暗殺集団の首領。けれど、彼女に何かあればきっと真っ先に飛び出していくのだろうと、雲雀は過去の出来事から身をもって感じていた。彼女がそれに気づいていないわけはないだろう、と思う。自分のことはもちろん愛してくれていると自信を持って言えるし、彼女の口からザンザスに関してそれらしいことを聞いたことは無いけれど・・・。
 そんな埒も明かないことを考えている間にも武は身支度を済ませてドアを出て行こうとしている。

「待って」

 雲雀の声に笑顔で振り向いて、「どうした?」と聞く武は、僕が何を思っているかなんて微塵も分かっていない顔で。

「・・・シャワーしてから、行くの?」

「そりゃ、一応身だしなみ・・だろ?」

 一応は女ですから。そう言って身を翻すその手を、もう一度ベッドに縫い付けたら君はあそこへ行くのを諦めてくれるかな・・・。

「ひばり?そろそろ着替えないと待ち合わせ時間に遅れるから」

 ふわりと笑って武は僕の手をすり抜けてしまう。雨の守護者というよりは、君は風のようだよ。雲雀はドアの閉まる音と共に1つだけため息を落とした。



 カツカツと履き慣れないヒールの踵を鳴らしながら町の中を歩くと、背が高くグラマラスな武はただでさえ人目を引いた。その彼女に一人の男が声を掛けようと近づいて手を伸ばし肩先に触れる寸前

「きゃ〜!武久しぶり〜!!」

 野太いくせに甲高い声をあげて走ってきたオカマに男は驚いて道を空けた。

「ルッス姐!!わぁい元気だった?」

 歩道の真ん中で抱き合ってキャラキャラ喜んでいる様は、声だけ聴いていれば姉妹かと思えるくらい微笑ましい・・姿さえ見なければ。

「こんなとこで止まってないで行くぜぇ」

長い銀髪をなびかせて立っていたスクアーロが抱き合っている二人に茶々を入れると、ベルフェゴールもその後ろから顔を出した。

「へぇ、真っ赤っ赤のドレスにも負けてねーじゃん」

「あったりまえよーう。このアタシが目を皿のようにして選び抜いた一着なんだから〜!!」

「金出したのはボスだけどねー」

「ベル!スクアーロ!久しぶり!」

抱きついていたルッスーリアの腕の中から抜け出た武は、二人の間に身体をするりと滑らせてその腕に自分の腕を片方ずつ絡めた。

「お゛ーお、お姫様は嬉しそーな顔しちまってよぉ」

「その様子だと雲のアイツとは上手くやってるみたいだね」

「・・・・うん」

 はにかんでいる、というよりはそう出来ていることに『安堵している』といった風の武の頭を、剣の師であるスクアーロの硬い手がポンと叩いた。

「大丈夫だぁ。あいつはお前をしっかり護るって言ったんだからなぁ」

ま、二年前はその方向性がどっか違う方に行っちまったみてぇだがなぁ。スクアーロの力強い言葉に、武の表情がすこし柔らぎ、すると横からベルまでもが「もしダメだったら俺達がもらってあげちゃうよ」と言って武を笑わせた。

「そういえばザンザスは?」

 笑っていた目をくるりと瞬かせた武は、いつもの仏頂面が見えないことに気づいた。

「ボスは屋敷で待ってるってさ」

「エスコートってガラじゃねぇからなぁ」

そのベルとスクアーロの物言いに、ザンザスが聞いたら怒るぞぉ、と思いながらまた一しきり笑って。
 通りを抜けて、側道にハザードを点けて止まっている黒塗りの車に楽しそうに歩いていく目立つ四人連れ。しかしすれ違う人は誰もその4人がマフィアであるなど想像もしなかった。



「かんぱーい」

「5日遅れだけど誕生日おめでとー!」

 勝手知ったるヴァリアー邸の広い応接室で幹部と武だけの7人だけの誕生会。テーブルの上には所狭しとワインだのウイスキーだのといった酒類が立ち並んでいたが、そのテーブルを挟んで置かれているはずの重厚なソファはすでに壁際に押しやられている。ゾランヴァリ社製の柔らかなカーペットの上につまみを囲んで輪になり、思い思いの酒をグラスに注いで、誕生会というより『酒宴』は始まっていた。
ヴァリアーを後にしてから既に二年という月日が経っているにも拘らず、まるで自分の家にでも帰ってきたかのように迎えてくれる彼らの気安さが武は大好きだった。ここを離れてやっていけるのだろうかと思い悩んだこともあったが、そんな武の背中を押してくれたのは他でもないザンザスで。

「う゛おぉぉい!それは俺のチーズだぁ!!」

「ちょっとぉ!食べながら怒鳴らないでチョーダイ!!」

空になった酒瓶がゴロゴロ転がっていくのを見つめながら、ハイになったスクアーロとルッスーリアのいつものど突き合いが始まったので隅に寄せてあったソファにワイン片手にそろりと避難する。既にそこには長い足を投げ出してふんぞり返りながらテキーラをあおっているザンザスがいた。

「あれ、いつまで続くと思う?」

「そのうちベルが加わって、痺れを切らしたレヴィが参戦、マーモンに幻術かけられてみんなオヤスミ・・・いつものパターン」

「だな」

クスリと笑いを漏らした武と眉間の皺を一本だけ少なくしたザンザスが、お互いの手に持った酒の瓶をガチンと合わせて、こちらもいつもの飲み比べが始まった。



泥酔して取っ組み合いの末潰れた5人の、かーくーと寝息の響く応接室の隅で未だ決着のつかないザル2人、グラスに注ぐなんてまだるっこしいことなど最初からしていないので面白いくらいに空になった瓶だけが転がっていく。

「相変わらず顔に出ないのなー」

「お互いにな」

何本目かの瓶をぶつけ合わせて一気にあおる。酔ってはいないものの武の胃袋はもうはち切れそうだ。

うげっぷ、悪いちょっと休憩」

片手を上げて席を立ち、しっかりとした足取りでちょっとトイレと出て行った。
武が部屋に戻ると、一人静かに夜の帳が下りる窓に目をやっているザンザスがいた。武が近づいたことに気づいてソファに腰掛ける自分の横をポンと叩く。赤いワンピースの裾を揺らしながらゆっくりと隣に腰掛ければ、そっとその小さな頭を押さえ鎖骨の辺りに凭れ掛けさせて。

「良かったな」

たった一言だけ。けれどそれは誰から言われるよりも武には嬉しくて、そしてすこしだけ何故か哀しくて。
雲雀がいないとき、ずっと支えになってくれたこの男を愛してしまうのは簡単だった。けれど、そのときすでに武の心も身体も雲雀のもので・・・。この身が二つあったなら、と悩んだ武にこの男は雲雀の元へ行け、と言って背を向けたのだ。
雲雀がこの男を恐れるのは武に対する情熱を内にずっと秘め続け、けれどいつか何かの拍子にそれが爆発した時に武がこの男を選ぶのではないか・・・そう考えずにいられないからだ―――それくらい、本当は愛情深い男なのだと、義父に対する彼を見ていれば誰しもが思うだろう。

「ザンザス・・俺さ・・」

幸せなんだ。そう言おうとしてザンザスを見上げた武は、その彼の瞳に映る自分を見つけて何も言えなくなる。
(なんて目で俺を見るんだろう)
哀しくなる、申し訳なく思う。そして、この目でいつか別の誰かを見つめるようになるのだと考えると胸が苦しくなる。
(それでも)
自分達は選んでしまったのだ。武は雲雀と歩いて行くことを、ザンザスは彼女を愛する心を持ち続けたまま別の道を歩くことを。
 だから雲雀に気づかせてはならない。雲雀と同じように彼のことを愛している心が武の中にあることなど。自分はザンザスのことを兄のように慕っている只それだけだとそう思ってもらっていなければ。
―――だって、雲雀を愛していることもまた事実なのだから。



「さあて、そろそろ雲雀に電話して迎えに来てもらおっかなー」

 わざと明るい声で立ち上がり、いつもの笑顔を見せるとふわりとスカートを揺らして。

「ねぇ、雲雀が迎えに来るまで、踊って?」



 古いレコードから流れる小学生の時分に聞いたことのある可愛らしいワルツの曲の始まりに指を絡ませると、武はザンザスの広い肩に柔らかな額を寄せる。どんなに飲んでも酔えない身体が心の底から恨めしいと、テンポのよい曲に揺られながら二人は思った―――。



おわり

 ルイ様からのリク「武とザンザスが打ち解けていく過程とその頃の雲雀」こまかくシチュエーション書いてあったのですが、それ書いちゃうと『世界の終わり』終わっちゃう・・・・(ギャース!)ので、済みません“その後”という形で書かせていただきました。『ハミングライフ』を真ん中に、『Midnight2call』に続く、雲雀×武&ザンザスでした。ちょっと希望から外れてしまいましたが、ルイさん、許してくださいね(><)

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