リクエスト・企画小説
12月17日
玉砕覚悟で・・・!

と、勇んで飛び込んだ応接室。
でも雲雀の顔を見たら頭の中が真っ白になっちまって、俺は何をしに来たのか、目的すらも忘れてしまっていた。
土曜日、午前の部活動は野球部も陸上部も吹奏楽部も帰り、校内には風紀委員と数名の教師だけ。
ゆっくり話をするには最高のシチュエーションだというのに。




『なれば、結局何も申せなんだか』
制服を着替えながら苦々しくため息をつく俺に、雨月が「おやまあ」とでも言いたげに、目を瞬かせた。
杓でもあれば、淑やかに口元を隠していたに違いない。
いや、その、そりゃ告白は出来なかったんだけど。
「一応、・・・あの日のことは、訊いてみた」
『あの日?』
「あ!・・・ええと、」
しまった、俺はあの流星群の日に、多分雲雀に唇に触れられたことを雨月に話していない。
話して悪いことじゃないけど、なんていうか、二人だけの秘密にしておきたいというか、いやまだ事実確認が出来てないから、俺だけの秘密にしておきたいというか・・・。
モゴモゴしていたら、雨月が笑いながら手をぷらぷらと振った。
『別に無理に聞く必要は無いでござるよ。で?雲雀どのはそれに対して何と?』
さして気にもしていなさそうな雨月にホッと胸を撫で下ろし、俺は今日あの応接室での会話を再現してみせた。
「それがさ・・・」




「あ、あのさあ!」
思い描いていたセリフは全部吹っ飛んでしまったけど、取り敢えず2日も頭を悩ましてくれていた疑問だけはちゃんと隅っこに残っていてくれたので、俺は雲雀にそれとな〜く尋ねてみた。
素直に吐くような奴ではないのは判っている。でも顔色とか動作とかに表れてくれたなら、逃すつもりは無かった。だから彼の一挙手一投足を見逃さないよう瞬きもせずに雲雀を見ていた。
だけど彼は薄く微笑んで。
「さあどうでしょう」
「どうでしょうって」
「知りたい?」
「うん」
「じゃあ、塩バターラーメン作ってくれたら教えてあげるよ」
「・・・・あ〜・・」



話はそれで終わってしまった・・・。
「・・・ひばりは、俺が塩バターラーメン出さないのには理由があるんだって、感付いてんだな。ま、毎回はぐらかしてりゃ何となく気付くか。・・そんな、御大層な理由でもねーのにな〜・・・」
だけど、と思う。
他人には大した理由じゃなくても、俺にとってはとても拘ることで。
じゃああの日の出来事も、相手が俺だから雲雀は拘っているんだろうか?
俺は塩バターラーメンの秘密を言いたくない。
雲雀は流星群の夜の秘密を言いたくない。
だから、お互いの秘密を交換するなら良いって?


ううむ、どうしよ悩むのな〜・・・




俯いて何やら考えこんでしまった山本を眺めながら、雨月はふふふと袂で口を隠して笑う。
実はあの夜、雨月も屋根の上で星の流れを目で追いながら夜空を楽しんでいたのだ。
ふと散歩したくなり、宙へ足を伸ばして振り返った目に飛び込んで来たのは、眠る山本をゆっくりと覆う雲雀のつむじ。
(されど、私が教えてしまっては興醒めもよいところでござろうなあ)
くつくつ喉を鳴らしても、山本には少しも聴こえていないよう。
少々寂しくはあるが、青少年特有の悩みに胸を焦がしたあの日を思いノスタルジーに浸りながら、雨月は今夜は白い月の出ている空へと視線を移すのだった。






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