リクエスト・企画小説
12月8日
夕方の商店街は、色々な匂いが入り雑じる。
惣菜屋のサラダ、肉屋の揚げ物、魚屋の焼きカレイ、それから山本も大好きな豆腐屋のがんもどき。
学校からの帰り途中、肉屋の前にできた人だかりを眺めつつ歩いていて、ふと、最後尾を右に左にうろうろしながら人垣を覗いている女性に気付き、声をかけた。
「ツナのおばさん?」
ビクッ!と肩を跳ね上げてから振り向いたツナのお母さんは、いつもと違う装いで、俺を見たとたん綺麗に化粧をほどこした唇を大きく開け屈託なく笑った。
「あら山本くんじゃない、今帰りなの?部活頑張ってるのね。つっくんもゲームばっかりしていないで、少し体を動かせばいいのに」
息子を思い出してため息つきながらも気はそぞろ、視線が肉屋をチラチラと。
その先にあるものを確認して、山本は「あ〜」と手を打ち鳴らした。


この肉屋は木曜日の夕方6時を過ぎると、今日はコレと決めた商品(例えばハムカツとか、例えばスコッチエッグとかその他諸々)を10個300円とかで売るのだ。
人だかりの理由はそれで、あと十数パックで完売しそうな勢い。
今日のセールはメンチカツらしい。ていうことは、おばさんもメンチカツが欲しいのかな。
「メンチカツ買いに来たのに並ばないんスか?」
山本が首を傾げると、綱吉の母親はウ〜ンと唸る。
エレガントな服装に腕組みした難しい顔は、あまり似合わないな〜なんて。
「あのねえ?うちつっくんの他にランボちゃんたちも居るでしょう?だから全部で14個欲しいのよね。でも10個1パックで売ってるからバラしてくださいとも言えないし、かといって油ものを翌日まで残すの私好きじゃないのよね〜」
だから買おうかどうしようか迷っちゃって、と眉根を下げて、おばさんはまたため息をついた。
そうかランボとイーピン、ビアンキそしておばさんは二個ずつ、ツナと小僧は三個ずつの計算なんだな。
で六個余っちまうから悩んでいると。


――それなら。


「おばさん、ならさ俺がその六個買っていい?」
「え?」
俺は財布の中身を調べる。えーと10個300円だから一個30円だろ?
てことは30円×六個=180円あれば良いわけで。
「やった、100円玉二枚ある!うち今日は俺が食事当番だから、今夜のメインはメンチカツに決めた!180円払うから、俺に六個メンチカツ下さい!」
200円を「はい」と差し出すと、ツナのお母さんの目が丸くなった。
「え・・あの、山本くん」
「ここのメンチカツデカイから俺んちも10個は流石にきついし、でもたま〜に食べたくなるんスよね!なんてったって美味いし!――六個頂いていいスか?」
キラキラした目で素早くウンウン!!と激しく上下に首を振ったおばさんは、人だかりを掻き分けて「こっち!2パック!!」と叫んだ。
あんなに綺麗な格好してるのに、ツナたちの為に人垣をものともせず。主婦ってやっぱり偉いのな〜。


目当てのメンチカツがゲットできた綱吉の母は、意気揚々、遅い春を迎えた高校の同級生のランチ形式結婚式からの帰りなのだというやや踵の高いパンプスで、軽やかに帰って行った。
山本の手の中には、メンチカツが六個と、式でカットされ配られたというケーキ。
行儀悪いけれど、お腹の虫の催促に、食べ盛り中学生は勝てないので。
「いただきまーす♪」
大きな口で頬張った生クリームのケーキは、幸せがいっぱいつまった味がした。




おわり

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