リクエスト・企画小説
12月4日
12月4日

陽の沈む時間が早くなった12月。商店街のアーケード内は、クリスマスカラー一色。
並森商店街と書かれた入り口の大きな看板も、巨大な赤と緑のリボンで飾られ、そこをよじ登る風に取り付けられたサンタのマネキンが、通りを歩く人の目を楽しませている。


そっかあ、クリスマスなんだよなあ


夕方になり気温が下がって、口から出る白い息を目で追いながら、山本はケーキ予約しなくちゃ、と『ラ・ナミモリーヌ』ではなく、商店街の入り口に程近く、昔からお世話になっている老夫婦の店のドアを開けた。
「いらっしゃ・・・おや武坊、今帰りかい?お帰り。頑張ってるねえ」
頭を白い三角巾で覆った老婦人は、山本を幼い頃からの愛称で呼ぶと相好を崩した。
「うんただいま。部活もさ、もっとやりたいんだけど、こう暗くっちゃ球も見えねえから。あ、おばちゃんクリスマスケーキの予約いい?」
山本はレジの横に置いてあったクリスマスケーキの受付用紙を一枚手にすると、どうぞと手渡されたボールペンでサイズと種類に丸を付ける。
生クリーム・バタークリーム・生チョコレート。
このケーキ屋は、昔と変わらずクリスマスケーキは三種類しかない(生チョコレートが流行る前は、バタークリームとバターチョコレートと生クリームの三種類だったとか)。
数年前に出来たばかりの『ラ・ナミモリーヌ』は、それこそチーズケーキから果物をふんだんに使ったタルトなんかも取り扱っているらしく、若い客が彩り鮮やかなチラシを手に手に擦れ違う姿をよく見かけるが、山本も父剛も、食べ慣れた此処のケーキから鞍替えするつもりは毛頭なかった。
きめの細かいスポンジや、あっさりめのクリームは、そろそろ甘いものが苦手な部類に入りつつある山本でもお代わりして食べたいくらい美味しい。
「あら、今年は一回り大きなケーキなのね」
「うん。・・友達が来るから、俺の大好きなここのケーキ食べさせてやろっかな〜って」
「おやおや、友達なんて言って、もしかしたらガールフレンドとかじゃないの?」
ふふふ、と優しげに目を細める老婦人に、山本は『そんなんじゃねーよ』なんて言いながら、切り取られた引き換え券を受け取った。


そんなんじゃねーんだけど、そんなんだったりして。


熱くなった頬は、店内を暖めていた暖房のせいにして、山本は飛び出るように店を後にした。
今年は恋人が出来てから初めて迎えるクリスマス。
昼間は店の手伝いがあるし、男同士だからおおっぴらにデートとかは出来ないけど。


父に見つからないよう、息を潜めて。
小さなテーブルに小さな蝋燭を一つ灯して。
切り分けられたスペシャル美味しいケーキを真ん中に。


きみと二人、初めてのクリスマス。





おわり


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