リクエスト・企画小説
チョコレートパラダイス4
 夢に出てきそうなチョコレートを和気藹々作ってくれた二人に「自分の作ったものは責任持って食べるんだぞ〜」と当然お持たせして帰らせた。
その翌日に“ごめんなさいもうしません”と西とこまち双方から電話が掛かってきて、胸を撫で下ろした山本家の双子。
かろうじて上手くトリュフが出来上がった空海は、早々に“兄貴たちに食べさせたら、美味いって褒められた(^o^)/”の絵文字着きメールを送って来て一安心。
さて本番は何を作ろう(作らせよう)か、顔を見合せ思案する。


 そんな折り、スーパーの特売を探してチラシを見ていた武が「お!」と声を上げた。
「なに武どうしたの?」
たけしが武の指差す場所を覗き込めば、ちゃぶ台の上に広がる数々のチラシの一つに燦然と輝いているそれ。
「これ・・・」
「通販だけど、良くね?」
「うん!いいかも!」
微笑みあった双子は、掌をパチンと併せた。





 13日の日曜日。とうとうバレンタインデーを翌日に控え、再び山本家に集まった面々の、顔つきは真剣そのもの。それはそうだ、今日作り上げたチョコレートを、大好きな人に渡すのだから。
そんな中、後ろに回していた手を皆が囲むテーブルの上に出したたけしが、にこやかに“あるもの”を置いた。
「・・・チョコレートのキット?」
さすがズレてるとはいえ女の子。こまちは袋から取り出され一つずつ並べられていくキットを見て目を瞬かせる。女の子好みのパステルカラー。
「凄いだろ?これメッセージを中に入れたチョコレートが出来るんだぜ」
チラシから見つけ出した張本人である武は、自信満々やる気満々、既に入れる物を何にしようか思案しているようで顎に手を当てていた。
「・・・メッセージ、入れられるんだ?」
空海の言葉を受けて、たけしはキッチンのラックから板チョコを出し、皮を剥いてパキパキ割った。その小さな一片に、先週購入していたチョコレートペンシルの先を鋏でチョンと切り文字を書く。
「これさ、こうして例えば“LOVE”って書くだろ?このチョコがさ、食べたチョコの中から出てきたら――」
チョコの茶色く四角い表面に書かれたピンクの『LOVE』の文字。
「これをまず製氷皿に水と一緒に入れて凍らせるのな?で、氷のボールになったところでチョコをたらす→チョコが固まったら氷を溶かしてチョコの中から水を抜く――で、出来上がりだって。昨日届いたもんだから、まだ俺たちも作ってないんだけど、けっこう簡単そうだしさ」
たけしが言い終わると同時、三人の目がキラキラ輝いた。心なしか頬もほんのり紅潮し。
「・・・・・それ、いいな」
「ええ、すごく良いわね可愛いし」
「よし、では早速作ろうじゃないか!」
エイエイオー!までは流石に言わなかったが、腕まくりした西を筆頭に、こまちや空海もまた最初の工程であるチョコ削りの作業に入った。
傍で見ている限りでは、少しは慣れたのか大きな包丁でも、チョコを削る手つきは危なげない。
「よし、じゃあ俺たちは俺たちでやりますか」
「おっし!」
たけしと武は拳固をコツンと合わせた。キットで作るチョコなんだから、そう簡単に失敗する事は無いだろう。たけしと武は3人の様子をたびたび見守りながら、自分たちは野球部員の分のトリュフ、そしてお互いの恋人(そして父)の分のフォンダンショコラ作りに精を出すのだった。
山本家の台所はオーブンも流しも冷蔵庫もフル回転。


 だから・・・というか、アレレなんで?というか、いやもう、しかたない、というか。


―――まさか失敗してしまうなんて・・・・・・。




 オーブンから美味しそうな匂いが立ち込め、西のお腹が大きな体に似合わず「きゅるる」と控え目に鳴いて、みんなでクスクス笑った時には、初春の空は薄暗くなっていた。
夕方5時、遠方から電車で来た西と空海は、そろそろお暇しなければならない。
「もう溶けたかな?」
常温に戻して一時間は経過していた。
なんせメッセージを入れた氷が固まるのに随分な時間を要してしまったせいで、出来上がり時間は随分押していた。
なんとかチョコレートを氷の上からかけて、つるんとしたまん丸のチョコが出来上がったものの、あとは中の氷を溶かして排出させるだけとなったというのに、針を刺して中の氷が溶けているか確認するが、針は氷に突き当たるばかり。
「まいったなあ、早くしないとカオルちゃんが駅に迎えに来てしまう」
「私も、バスの時間が・・」
「俺も一応門限7時だから、五時半にはここ出ないと帰りの電車時間過ぎちまう・・・門限破ると兄貴がうるせーんだ」
まん丸のチョコを前に、時計とニラメッコしながら段々焦り始める西、空海、こまち。そのままにして帰ってもらい、たけしと武が仕上げをしてあげても良いのだが、とはいえ完成品を届けようにも3人とも自宅は並盛から随分離れていて、武とたけしが無事住所の場所に送り届けられるかどうかは×××・・・。
それにせっかくここまで自力で作ったのだから最後まで完成させたいだろう。
う〜む、腕組みして唸っていた五人の中で、武がポンと手を叩いた。
「なあ!それならタッパか何かに入れてって、家で水抜きしたらどうだ?」
皆の顔がパッと輝く。
「あ、それで良い!俺!」
「俺も、じゃあそうして貰うかな」
「そうね、あとは水を抜けば完成ですもの、簡単よね」
そうと決まれば早く支度をしなくては。
「じゃあこれなホイ!ホイ!ホイ!」
顔を見合せ頷きあう三人に、戸棚から出した折り詰めは次々投げ渡された。
「早く詰めちゃえ!」
「そ、そうね!」
一応くっついてしまわないよう、チョコをお弁当用のアルミに一つずつ分けて入れるよう提案したのはたけしだ。
折り詰めの入った白いナイロンをぶら下げ、ばたばた玄関へ駆けて行く三人の後ろを、たけしと武も追い駆ける。
「ありがとう!山本兄妹!」
「うまく行くといいな西さん」
「サンキュー、じゃあな。結果報告するから!」
「メール待ってるぜ空海!頑張れよな」
「ありがとう山本くん。今度豆大福持って来るわね」
「サンキューこまちさん、気をつけてな」
商店街のアーケードを抜け、駅方向へ速足で歩く(こまちは小走りに駆けていた)三人の姿が見えなくなるまで見送り、たけしと武は家に入った。
洗って水切りに入れてあった諸々たちを、二人で片付ける。全てが終わり柱に掛かった時計を見上げたら6時を過ぎた所だった。
「んじゃ俺ラッピング作業に入るな。親父とザンザスさんのは武がする?」
「あー・・・うん夕飯の支度終わったらするから、避けといて」
「わかった〜」
山のようなトリュフとフォンダンショコラの二つをトレイに乗せて、たけしは自分の部屋へ。
本日夕食当番の武は、冷蔵庫に指を掛けた姿勢で、テーブルの上に美味しそうに焼き上がったフォンダンショコラに満足気に微笑む。
ザンザス喜んでくれるかな。
もちろん毎日忙しい店を切り盛りしながら一生懸命二人を育ててくれている父にも、感謝を込めて。
甘いものが余り得意じゃない雲雀やザンザス、そして父の為に、ビターチョコを使い作ったフォンダンショコラ。
ふんわりなだらかな曲線を描く表面を、目一杯伸ばした指先で優しく突いてから、武は晩の食事を作るためチョコレートの甘ったるい匂いを吸い込んだエプロンをもう一度身に付けた。


 そんな穏やかな夕刻が過ぎて、竹寿司の店から父の気前のよい挨拶が響いて来た頃、武の料理の音がやんだ。
さてザンザスと父のフォンダンショコラを包もうか。用意しておいた100均のラッピング用品を武が出した時だった。ドタバタ階段を降りて来たと思ったら、台所の暖簾を分けたたけしの必死の形相―――。
「ど、どうしよ武」
「何だよ血相変えて・・何かあったのか?」
「こ・・・これ・・!」
パカッと開かれた携帯の画面には、原形をとどめない程ぐちゃぐちゃになってしまったチョコレート。


 まさか・・・これは先程三人の持ち帰った・・・?


「これ・・これ、空海からのメールで・・おまけについさっき、西さんから泣きながら電話が来て・・・水が中々抜けないもんだから、手の上でああでもないこうでもないってしてたら、チョコが段々解けてきて・・・失敗しちゃったって・・・」
・・・まさかまさか・・!
顔を青くした二人に、店から父が「おーい電話だぞ〜!」と呼ぶ。
いや〜な予感に受話器を受け取れば、予感的中。今にも泣き出してしまいそうなくらい弱々しいこまちの・・・。
「どうしよ・・・」
「大変だ・・」
顔を見合せる二人の間では、テーブルに乗ったフォンダンショコラが4つ、静かに騒動の行方を見守っていた。





 当日の太陽は少しだけ目に痛く感じたが、たけしは可愛らしくラッピングされたフォンダンショコラを恋人と父に渡すことができた。
兄は昨日仕事が終わってから県外まで車を飛ばしてくれたありがたい恋人と、帰りに待ち合わせてご飯を食べて来ると言っていたから、その時渡すのだろう。
二人の様子が目に浮かんで、たけしはウフフと一人笑う。
こまちや空海からも『喜んでもらえた!ありがとうo(^-^)o』とメールが来たし、西からは感激と興奮を抑えきれない様子の電話が来て、こちらも笑ってしまった。
本当に良かった―――うまく行ってくれて・・・。
「フォンダンショコラ、美味しい?」
「うん、苦味がきいてるし僕でも平気で食べられる」
「良かった、・・・1個でゴメンね?」
「別にいいよ。あとは君で充分だから」
「あは、何それ」
応接室のソファの上、調理室のオーブンレンジで温めた熱々のフォンダンショコラを食べた唇が、恋人の鼻先にチュッと可愛らしく吸い付く。
「あ、ごめんチョコ付いちゃった」
「げ〜、やだよもうひばりっ!」
「すぐとってあげるよ」
「や・・あははははっ!ちょっ、くすぐった・・・・・あははは!」
軽やかな笑い声が漏れる応接室の前で、部屋の主にチョコを渡しに来る女子生徒に「ここへ」とダンボールを差し出す厳つい副委員長草壁の背後が、急に静かになった。
甘い少女がビターな彼に、甘い唇をフォンダンショコラとやらの代わりに食べられてしまった旨を理解し、副委員長は僅かに口許を弛め肩を竦める。




 ラッピングのフィルムに2つ用意されていた筈のフォンダンショコラが、たった一つになってしまった理由は





 賢明な皆様なら、もうおわかりですよね?






おわり
どうやらそのキット、レビューを見る限り難しそうなんです。初心者なら失敗するのもアリかなと。
失敗したのも、多分正直者の三人はイクト・カオルちゃん・士郎にあげたんじゃないでしょうか。
ちょっと尻切れトンボな感じがしますが、どうかお許し下さい・・・(><)

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あきゅろす。
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