リクエスト・企画小説
匿名様リク ひば女武天気予報の恋人
 4月24日 ボンゴレ雨の守護者山本武の21回目の誕生日のこの日、素晴らしく晴れ渡った空を遠路はるばる、長らくこの地を離れていた雲の守護者こと雲雀恭弥が、愛しい恋人の元へと還って来る―――。




 イタリア北部ボンゴレ邸の入り口門から玄関まで続く広い広い庭園を、黒いスーツに身を包んだ長身の女性が凄いスピードで駆け抜けて行った。

「あ、雨の守護者殿」

「おっ!はよーっ!」

 頬を染めて見送る部下に笑顔で挨拶を返しつつ、足音など聞こえないものの、それを表現するならばまさに『ドタバタとあわただしく』当主の待つ二階執務室へと急ぐ彼女の頬は見た目でから分かるほどに薄汚れていた。

「ただいま!!!」

 バアン!とドアを開けた先には、ドン・ボンゴレ沢田綱吉と彼の右腕獄寺隼人が、いきなりけたたましく開いたドアに手を着いて、ぜいぜいと肩で息をしている武を見つめ、びっくりしていた。

「山本・・・。あせる気持ちはわかるけど、雲雀さんがこっちに着くのは夕方だろ?」

やんわりと微笑んで当主が言う言葉に

「ったく、まずは落ち着け。10代目に任務の報告するまでがお前の仕事だろうが」

 ここ数年で随分と落ち着きを見せるようになった獄寺が、渋面で武を諌めた。
 とはいえ2人とも何だかんだで長い付き合いのある武には甘い。逸る気持ちのせいで何だかよく分からない事になっている武の報告書をパラパラと捲りながら、当主である綱吉までもが
(後で獄寺君が何とかするだろう)
などと考えながら、目の前で『これから部屋に戻ってあーしてこーして』と心ここにあらずの武のことを柔らかく見つめていた。

「もう行っていいよ山本、疲れただろう?シャワーで汗を流したら少しくらい眠ったらいい。今日は獄寺君が居れば充分だから」

優しく声をかけた綱吉にパッと目を輝かせると、「ありがとうツナ!」そう言って、あわただしく武は出て行ってしまった。

「・・・・充分、だよね?」

「10代目がそうおっしゃるのでしたら、そのようにするまでです」

 ちらりと斜め横に佇む彼を見やれば、礼儀正しくも頼もしい言葉が返ってきて綱吉は目を細めた。



 昼日中を過ぎ、そろそろ3時になるかという頃、コンコンと控えめなノック音が執務室に響き、武の書類の文字を訂正していた獄寺がその手を一時止めて扉に手をかけた。

「獄寺〜!」

「うおっ!」

 ドアを開けたそこに立っている女性を見て、獄寺がゴクリと咽喉を鳴らす。

「どうしたの?山本なんだろ?」

 いつまでも中に入ってこない2人をいぶかしんで、今まで書類に目を通していた手を休めて綱吉もそのドアへと歩み寄り、そしてそのドアの向こうに佇む女性―――己の守護者である山本武を一目見るなり、感嘆の声をあげた。

「山本・・・キレイだね」

 いつものように軽口を叩くことも逆に頷くこともできず、ただ顔を真っ赤にして立ち尽くす獄寺と、ほ〜っとため息をついてうっとりして見つめる綱吉にひたすら武は照れてしまっている。

「ハルと京子に『折角久しぶりに恋人とデートするって言うのに少しくらいおめかししたってバチは当たらないでしょ!』とか言って化粧されちまってさぁ・・・嫌だって言ったのに・・・変だろ?」

「―――・・・?」

 どこが変なんだろう。控えめに付けられたマスカラは山本の色素の薄い大きな瞳を更に印象深く美しく見せているし、ぽってりした唇にのせられた深紅のルージュは彼女の快活で情の深い性格そのものの色だ。そしてなにより

「そのドレス」

 綱吉は綺麗な赤い膝丈のドレスを目を細めて見つめた。

「うん・・・ザンザスたちから昨日届いたやつ」

 昨日、山本武宛にヴァリアー邸の住所で届けられた大きな箱、差出人はザンザスと、他幹部の名前が隅っこに連名で記入されていた。肩から胸元をクロスする形のリボンをうなじで結んだフレアタイプのワンピースドレスは、山本の健康的でグラマラスな肢体と長く細い膝下を惜しげもなく晒し、男供の視線を集めるにうってつけだった。
(ザンザスめ・・・よくわかってるよ)
 一体どんな顔をしてこのドレスを選んだというのだろう、会ったら絶対からかってやったのに。
(もちろん死ぬ気の炎を纏って)
まぁ、当の本人は今日この日に雲雀恭弥が帰ってくると知っていて、とっとと任務にずらかって(?)しまったのだが。

「山本、ほんとにキレイだよ。雲雀さんもきっと喜ぶと思うけどな。ね?獄寺君」

 いまだに一言も発することが出来ずにポカンと口をあけて見つめている獄寺を、やれやれとため息混じりに横目で見れば、その先に何も言ってくれない片腕の一人に不安そうな顔をしている山本を認め、綱吉は獄寺の肘を小突いた。

「獄寺・・やっぱへん?」

 薄化粧で輝きを増した上目遣いで見つめられてクラリとする。このままでは挙動不審者になってしまいそうだ・・・。

「・・・・ばーか、けどその言葉遣いはこの格好に不釣合いじゃねぇかとは、思う」

ふい、と目線を逸らし、褒めることはないけれど、決してけなすことなく。
(大人になったなぁ、獄寺君も)
うんうん、でももうちょっと女性に対する物の言い方考えた方がいいかもねと頷きながら、けれど山本が獄寺の初恋の相手だということを知っている綱吉は何も言わずに黙っていた。

「そういえば、何時に着くんだっけ?」

「4時38分!俺・・・・じゃない、わ、私行くね!」

 獄寺の言う事を聞いて言い慣れない女性らしい言葉遣いで話す山本に、2人して顔を見合わせ噴出すと
「なんだよー!もうー!!」と素の山本が顔を出してまた2人を笑わせた。
 ドアを開けるその手を止めて満面の笑顔で振り返った武の赤いドレスの裾がふわりと揺れる。

「ツナありがとな!粋な計らいすっげえ感謝してます!!」

「今日は帰ってこなくていいよ。明日2人揃って顔を見せてくれればいいからね」

 履き慣れない踵の細いサンダル姿で駆けて行く姿を見送って綱吉はあの日を振り返り、そして神に感謝する。
(ありがとうを言うのは俺たちのほうだよ山本。あの日、あんなことがあって君はそのまま笑顔を無くしてしまうんじゃないかと俺たちは思ってた)



 恋人と離れ瀕死の重傷を負い、14歳の少女には耐え難い精神的苦痛と戦いながら必死で生きてきた山本。
(あの時、君が死んでしまっていたら俺は10代目なんてならなかった・・・いや、このボンゴレ自体を無くそうと考えたかもしれない)
そして深い後悔と自責の念にかられた歳月を獄寺と共に過ごしただろう。



 けれど君はしなやかに立ち上がってくれた。その事が俺に、リボーンに、雲雀さんに、獄寺君に―――あのザンザスにも、どれだけの赦しを与えてくれたのか君は知らない。

 今度は幸せになる番なんだよ―――その為に彼を君の元から離したんだ。
 あの日守ってあげられなかった君を、今度は必ず俺達の手で守って見せると、あの人に約束をして。
(随分納得させるのに骨を折ったけどね)
君は誰にも守られなくてもいいほどに強くなった。けれど、未だに心に深い傷を負っていることを俺たちは知ってる。だから、その心が折れてしまわないようにいつも見守っているよ。
(山本、俺たちはいつも君の幸せを願ってる)
綱吉は明日きっと輝くばかりの笑顔で自分の元へとやってくるであろう愛する家族を想い、燦々と陽光の降り注ぐ窓辺を見つめて眩しそうに目を細めた。



 武が空港に着いた時には既に雲雀の乗った飛行機は到着しており、ロビー内を背の高い仏頂面を探してキョロキョロしていると、背後から肩を叩かれパッと振り向いた。

「ひばり!?」

 喜び勇んで振り返ったが、そこに居たのは見ず知らずのイタリア男が2人。

「どうしたの?彼氏に置いてけぼりでもくらった?」

細身の背の高い男が眼鏡越しに武に微笑む。

「・・・・いえ。もうすぐ会えると思いますので御気になさらず」

 こちらも負けじと微笑んで距離をとろうとする武の露になった肩を、すかさずもう一人の少々小太りな男がぽってりとした手の平で撫でるように捕まえた。
と、その手がいきなりねじ上げられ「イテーーーーッ!!」と耳元で大声を上げられて、驚いて振り向いた武の瞳に映ったのは、一人の手をねじ上げながら今にも噛み付かんばかりの視線でもう一人の男をやぶ睨みしている美丈夫。

「ひ・・・・ひば」

「また君はそんな無防備な格好して・・・」

ゴゴゴゴと背後に山があったら崩れるんじゃないかという地の底から響くような声と共に、この細身のどこにそんな力がと思われる勢いで二人の男を壁にうっちゃって、雲雀は武を正面から見据えた。
(やばい・・・怒られる・・・)
武が、あちゃー、ま 仕方ないかといつもの癖で健康的に色づいたうなじを硬い指で掻こうとして、雲雀の冷たい指にその動作を止められる。

「・・・ひばり?」

止められた手の指一本一本に、雲雀の体温の低い指が絡められ、怒りを含んでいた筈の冷徹な瞳はいつの間にか武を優しく見つめる恋人の目になっていた。

「誕生日おめでとう」

間近で低く甘い声でうっとりと囁かれ、こんなに聴き慣れ親しんだ声だというのに、武は初めてのマスカラで薄く染まった睫毛を震わせた。
「はい これ」

 どこから出したのか雲雀の手の中には深紅のバラの花束があった。数えなくても分かる、きっと武の歳の数・・・21本のはず。

「ありがとう・・・」

 ほんのりと頬を上気させ僅かに伏せ目がちに礼を言う武のその唇は、いつもの微笑みの形。雲雀はその唇に愛しそうに柔らかく口付け、周りで2人の光景を興味深そうに見つめていた旅人達も、その可愛らしさに思わず目を和ませた。




「ところで、そのドレスまさかと思うけど」

「うん。ヴァリアーの連中から」

「・・・・で、明日か明後日にはそれ着てあそこに行く訳」

「もちろん!だって俺の生まれた年のワイン飲ませてくれるって言ってたし」

「・・・・また、酒に釣られてる・・・」

「まぁまぁ、でも今日は一晩中一緒だぜ?」

「今日だけじゃなく、これから、ずっと・・・でしょ?」




        「うん」




          おわり

 匿名様、「武総受けで、最後ヒバ武で甘あま」リクでした。ヒバ武の雲雀は思いっきり気障男にできるのが嬉しいですね(^^)なんたって良家のご子息ですもの。「ハミングライフ」に続く、雲雀さん幸せ物語でした(笑)ベタ甘書けて私のほうが幸せでした〜。リクありがとうございました。

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あきゅろす。
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