リクエスト・企画小説
チョコレートパラダイス3
と、いうわけで。
2月6日の日曜日、竹寿司台所に集まった総勢5人は、用意してきたエプロンを身に付けた。
ちょっと緊張した面持ちなのは空海、こまちは双子と知った仲というのもあってか普段と様子は変わらず、一人ニコニコしているのがこまちと空海の二人から頭一つ分背が高い西隼人。
「まずはチョコレートを刻んで湯煎にかけて溶かしましょう」
たけしを講師に、空海・こまち・西の三人は、待ち合わせしたスーパーで購入した板チョコの紙を剥ぎ、包丁で刻み始めた。


―――そして、事は起こった。


「・・・ちまちまちまちま刻まなきゃならないなんて、何て面倒くさいんだ・・・!刻み始めてからもう25分も経過しているではないかーーーーーーっっ!」
見るからにアバウトキャラな西が、目に見えてイライラし始めたのだ。
確かに大きな手で包丁を握りしめ、背中を丸めてチョコをちまちま刻む作業は面倒――というか、やってて疲れるだろう。だが手元の板チョコは、もうあと一枚になっているというのだから、何とか我慢できないものだろうか。
目を丸くしている空海とこまちを横目に、西はあと一枚のチョコの包装紙を乱暴に破り捨てる。今にも頭から湯気を立てんばかりの西の背中を、山本兄妹は眉根を下げながら『どうどう』と諌めた。
「仕方ないよ、早く溶かすには細かく刻んだ方がいいんだからさ。何事も下準備に一番時間がかかるんだぜ?けどさ知ってるか西さん、しっかり下準備が出来ていれば、やりはじめたら早いんだぜ」
「そ、そうなのか?」
「そうそう。それに西さん、凄く細かく刻めているから、きっとす〜ぐ溶けるぜ!溶けちまったらあとはもう形を作るだけなんだから、すぐ終わるさ」
にっこり微笑み、たけしは宥めながら、今にも放り投げられてしまいそうな包丁を、西の手の甲の上からそっと押さえる。
「な?あと一枚、頑張ろうな?」
「う・・・うん、判った」
叱られた子供のようにしゅんとした西の背中を、再びニッコリ微笑んだ兄妹はポンポンあやすように叩く。
どちらが大人なのか首を傾げそうになるが、そこでそうは思わないおおらかさを持っているのが山本たけしと武の兄妹なのだ。


 漸く全てのチョコレートを刻み終わり、さて湯煎にかけて溶かし始めた頃、今度はこまちが「あ」と言いながら、台所に隣接した居間に置いてあった鞄を漁りはじめた。両手に一つずつ、何かを取り出す。
戻って来たこまちが手にする物を見て、武とたけしは直感的に“まずい!!”とアイコンタクトを交わした。
「こまちさん・・・?あの、それ」
「ええ、これよ!」
「・・・・・・えええええ・・」


そう、“それ”。
それはつまり、秋元こまち伝家の宝刀―――
「和菓子本舗小町の羊羹&栗羊羮!隠し味にこれを入れたら凄く美味しいチョコレートが出来上がると思うの」
燦然と輝く羊羹は、菓子舗小町が店を構えて以来ずっと同じ味を保ち続け、また年間を通じて一番売れているという羊羹である。
美味しい、確かに美味しいのは折り紙つきである。・・・が。
「いやいやいや!せっかくこんなに苦労して溶かしたチョコレートに羊羮て・・・ああっ――――?!」
普段あんなにおっとりしているように見えるこまちの素早い動きに、武ですら付いて行けずに、四角い羊羮が細かに刻まれ、見事に同色のチョコレートに溶け込んだ。だけでなく、こまちはそれを丁寧に丁寧に掻き混ぜている。
「よ・・・羊羮チョコ・・・」
あんなに時間を掛けて西が刻んだチョコが羊羹まみれ・・・。
西が怒る姿が目に浮かび、今度はどうやって宥めようか頭を抱えた山本兄妹の前、だがしかし、こまちの隣で羊羮チョコレートに何故か目を輝かせた金髪青年は、おもむろにサングラスを取り出した。
これまた一体何なんだろう?兄妹が尋ねようとする前に、そのサングラスをかけるでもなく自慢げに掌に乗せて。
「そうか隠し味に羊羹は素晴らしいアイデアだな!俺はこれだ!俺は今回カオルちゃんのトレードマークであるサングラス型のチョコを作りたいから、型抜き用にカオルちゃんからサングラスを借りて来たのだ!」


へ?―――型抜き?!


と、武たちが理解できずに首を傾げる間も与えず、溶けた熱いチョコ&羊羹の中にサングラスがポチャン。
「あーーーーーーーー!?」
それじゃ型抜きじゃなくてサングラスのチョコフォンデュだよ誰が食べるんだ誰がーーーーーーーーっっっ!!!





「そうそう、それを丸めてな?」
「初めてするにしては、手際良いじゃん空海!」
「や・・・多分手作りなんか最初で最後だから、今日で作り方覚えたいし」
覚束ないなりに一生懸命トリュフを作る空海に、たけしと武は目を細める。
「ねえ西さん次はこれ入れてみませんか?」
「おお、こまちさん実は居間俺もそれを言おうとしていたのだ」
後ろで羊羹入りチョコレートに『ついでだから栗羊羹もいれてしまおう』『そうしよう』なんて、キャッキャウフフ和気藹々な西とこまちの二人の会話に、耳を塞ぐようにして・・・。




つづく
カオルちゃんは多分こうなるだろうことを予測して、もう使わずに捨てるつもりだったサングラスを渡しただろうと思います。

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