リクエスト・企画小説
朔月奏多様リク  ひば女武強情なくちびる
『ボンゴレの守護者に女性がいる』

 新たに当主となった綱吉とコンタクトをとりたがる新進のファミリーは後を絶たないが、実の所ファミリーに加わりたいというよりは、彼の守護者の紅一点である山本武を一目見たいというそのことに集約されていた。
 中学生の頃は明るく健康的でよく笑う、多少元気すぎる位の山本武だったが、18歳を越えた今、過去ヴァリアーに在籍していたこともあり、凄みと、そしてそこはかとない色気を漂わせるようになっていた。
 スーツに隠した肢体はその上からでもハッキリとグラマラスなボディを主張しており、守護者でなければ手を出そうと考える輩は少なくない。
(只そうした場合、雲の守護者に『もう死なせてください』と思うまで滅多打ちされるだろうことは簡単に予想できるが)
 10代目である綱吉が他のファミリーの元へと赴くときは、必ず彼の右腕である獄寺隼人と山本武を伴う。そうした場合、普通の話し合いであれば真っ黒なスーツに身を包み、背中に燕の柄の刀を必ず背負っている武だったが、やはり何某かのパーティーなどとなればそういう訳にはいかない。
 フォーマルなドレスに着替えた彼女は誰もが目を見張るほどの美形で、しっかりと締まったウエストや長い脚、豊かな胸は、女性であってもため息をついてしまうほど見事だった。




「絶対反対」

「そんなこと言われたって困ります。山本は俺の守護者ですから」

 執務室から響いてくる押し問答のような声は、既に30分近く続いている。守護者である雲雀と当主綱吉の睨み合いを横目で見ながら、獄寺は眉間の皺を深くして何度目かのため息をつき、当事者である山本武は面白そうにその様子を静観していた。

「雲雀さん何度も言うようですが、こういうところに正装をしないわけにはいかないですし、山本は女性なんですからそれ相応の物を着せないと・・・」

「でもスカートはダメだ!彼女の足を見せるのは絶対許さないよ」

 何度同じことを言っているだろう。ほとほとあきれた綱吉だったが、「じゃあ・・」と諦めずにもう一度何某かの提案をしようとしたとき。

「スカートじゃなきゃいいんだな?」

ずっと椅子に座って、楽しげに二人を眺めていた武が口を開いた。

「え・・・そりゃ、まあ」

「今のドレスはスカートばっかりじゃないんだぞーひばり」

 そう言って彼女が執務室の大きなソファの陰から出した大振りの箱の中には・・・

「じゃ、約束だから。ツナ、ひばりのお許しが出たぞー」

武がにこやかに体に当てている、箱から取り出されたパンツドレスというものを見て、雲雀は仰天した。





 北イタリアの二大勢力であるボンゴレとキャバッローネが、少し出遅れた形ではあったがここ数年で順調に力をつけてきているバルバレスコ一家に呼ばれたのは、そのバルバレスコ当主の甥に当たる男の婚姻パーティーに呼ばれた為だった。
 大きな庭に設営された披露パーティーには主賓席が大きく設けられており、日差しの強いイタリアのギラギラとした太陽を遮る屋根もきちんと付いている。
 綱吉の後ろから、隣に獄寺、後ろに雲雀を従えて(?)歩く武の姿を、既に会場入りして祝いの酒を振舞われ、ほろ酔い気分の観客達が食い入るように見つめる。・・・雲雀の機嫌はすこぶる悪かった。
 武のドレスは確かにパンツタイプで脚などはちらりとも見えない物ではあったが、大きく開いた胸元は豊満な胸の全てを覆い隠してはくれないし、ウエストが絞ってあるので彼女の見事なプロポーションは殆ど曝け出されているのと同じ。そしてなまじっかパンツであるために武のすらりとした足の長さをこれでもかと強調している。薄化粧を施し柔らかいショートの髪をやさしく撫で付けて微笑む彼女はまるでどこぞかの雑誌モデルのようだった。

「よく来て下さいました」

 小太りの体を揺らし、体中からタバコのにおいを漂わせているドン・バルバレスコがうやうやしく綱吉に向かって挨拶をする。柔和な顔で祝いの口上を述べて綱吉は主賓の席に座り、後ろにいた雲雀と武に「君達はあそこで踊ってくるといいよ」そう言って獄寺のみを背中に着けて、笑顔を向けた。
一段高い主賓席を雲雀の左手に腕を絡ませて降りた武は、その彼の秀麗な顔に寄せられている周囲の女性の熱い視線に気づいて口元を緩める。

「まだぶすくれてんの?ひばり」

顔を覗き込めば不機嫌を絵に描いたような眉間の皺が飛び込んできて、声に出して笑ってしまい雲雀に睨まれた。
ポップなワルツの曲に合わせて二人が踊り始めると、それだけで周囲から感嘆のため息が漏れる。生演奏の良い所はリクエスト曲に即座に答えてくれるところだ。次はこれを、その次はこれと、その曲曲に合わせて二人は観客達の望むままに息の合ったダンスを披露し、皆を楽しませた。
しかし本当に踊りを楽しむわけではない。アップテンポな曲調に合わせながら、二人は常に周囲に目を配っていた。
ガーデンに続く応接室の大きなガラス張りのドアが開いて誰かが入ってくれば、頭の中で客のリストにあった顔と即座に一致させ、門から直接ガーデンテラスに来る客のことは、そこに近い場所で佇む獄寺がチェックを怠らない。
ただ、雲雀の武器は上着の袖の下に隠れているから何かあればすぐに抜き出すことが出来るが、パンツドレス姿の武には武器をうまく隠す場所が無いため丸腰だった。


 宴もたけなわを過ぎ、和やかに終焉を迎えようという中、踊り疲れた二人が何か飲み物をと、踊りの輪から外れてホストから酒の入ったグラスを各々取り上げようとした時に、随分と遅れて踊りの輪に混じっていく影を、二人と、そして主賓席で談笑する綱吉の後ろに控える獄寺は見逃さなかった。
 調度曲は二人で向かい合って踊るものから、二重の輪になって輪の進行方向に対面するように向き合い、一連の振りを踊ると次へと交代していく、子供のダンスのような可愛らしいものに変わっていた。
 主賓席のまん前で踊っている大勢の人間達の中、その男の目がチラリチラリとかすかだが席に座る数人の主賓たちの誰かを見ている。
 柔らかく微笑んでいた目をすっと細めた武は、すぐ傍のテーブルにきっちりと置かれているカトラリーの中からナイフを選び、その柄に、すんなりとした、けれど女性にしては硬い指を掛けた。雲雀の手の平には既に袖からストンと落とした物騒な獲物の先端が触れている。
 陽気な生演奏は客の盛り上がりにこれでもかと楽器を慣らし、その楽しげな様子に周りで見ているだけだった子供や女性達もが我も我もと輪に入り、ダンスの輪はどんどん大きくなっていく。そしてその男が調度綱吉の横に座っているドン・バルバレスコの正面に来たとき、スッと男がその懐へ手を伸ばし、それを後ろで見ていた女が驚きに目を瞠る。

「きゃーーーーっっ!!」

 悲鳴が上がると同時に男の構える拳銃が火を噴き、周りは騒然となり宴は滅茶苦茶になる。男の筋書きではドン・バルバレスコが壇上で血を噴き流して倒れ、披露宴は阿鼻叫喚の様相を見せているはずだった。
 ・・・だが、男がどこか夢見がちのような目で周囲を見渡すと、どうしたことか自分は地べたに這いつくばっており、その目の前には少しも動じぬ体で自分をじっとりと見下ろしているドン・バルバレスコがいる・・・。

「・・・・え・・?」

「いや、良き部下をお持ちですな。ボンゴレ殿」

 その言葉に少しだけ顔を上げてみれば、グリ、と首に何か冷たい棒状の物が当たっているのがわかった。そして自分の拳銃はというと、銃口にナイフの切っ先が突き刺さり、そしてその腕は細いヒールで踏みつけられている。男が懐から拳銃を出して僅か数秒、彼はものの見事に二人の守護者によって拘束されていた。



 男の素性はどうやらドン・バルバレスコの甥っ子の婚約者(結婚したのだから妻になるわけだが)が以前付き合っていた男であったらしい。いきなり交際を断られた上、結婚する旨を告げられて復讐を考えたのだという。
しかし何故そこで伯父を狙ったのかと問えば、その伯父であるドン・バルバレスコが、たまたま屋敷に出入りしていた仕立て屋の娘であった彼女に、甥っ子を勧めたらしいと噂で聞いたから。
 ・・・只それだけの理由だというのだ。
  ―――なんとも馬鹿馬鹿しい話ではあったものの、相手が一般人であったこと、祝いの席であったこと、・・・怪我人が一人も出なかったことを考慮し、恩恵を受けることとなった。



「あんた命拾いしたなぁ。マフィアに銃口向けて生きてるなんて悪運強いかも」

 ヒールの取れてしまったパンプスをプラプラさせて、のん気な口ぶりで武が男に微笑めば、真っ赤になって顔を伏せる。が、伏せた目の前には彼女の谷間も露な胸がドーンと目一杯広がり、男の顔は益々赤くなった。
 そのときジャキンと硬い物音を聴いて顔を上げた男は、先程正面にいた女性と自分との間に仁王立ちする鋭い目つきの男を見て、その顔からザーッと血の気が引いた。

「な・・なななななな」

「・・・早く帰りなよ」

「・・は・・え・・?」

「彼女の胸ばかり見つめているその不埒な君の目を僕が抉り出さないうちに早く帰れって言ってるんだよ・・!!」

 つらつらと鳥肌が立ちそうな言葉を並べながらも、その冷たい目をした男は自分との距離をジリジリ詰めてくる。

「おーい、ひばりー・・・」

武がややため息混じりに男に助け舟を出そうとして声を掛けた途端

「ごっごめんなさーーーーい!!!」

突拍子も無い大声を上げながら、人騒がせな男は走り去ってしまった。



「・・・さて、どうしようねぇ、踵が取れちゃっては歩くのも大変だし、ツナまだ帰らないかなぁ」

 ヒールの部分を摘み上げて思案気にちらりと雲雀を見れば、眉間の皺はまだまだ解ける様子は無い。
(だってドレスって大概こんなもんなんだもん)
 それでもヴァリアーにいた頃着せられたドレスよりマシだと思って欲しい。彼奴らは女が武しかいないのを良いことに、兎に角色々な店に連れまわされて着せ替え人形よろしく、一店につきどれ程の服を試着させられたことか・・・。

「君が、強いのは知ってる」

ぼーっと考え事をしていた所に急に雲雀の声が割り込んできて、武は顔を向けた。

「そのナイフの腕はベルフェゴール仕込みだし、蹴り上げる無駄の無い動きはルッスーリア直伝だし」

―――あれれれ・・?なんか話が変な方向に行き始めてないか?

「だけど、丸腰の時くらい僕に守られててよ!」

    うわぉ・・・・・。

 眉間の皺はともかく、雲雀が俯いてしまった。―――それも、顔がうっすらと、赤い。

「ひばりー・・・・」

 だめだもう。俺が雲雀のそういう顔に弱いの知ってるのかなぁ。小さい頃から可愛くて可愛くて、守ってあげたくて仕方が無かった雲雀。大人の男になってこんなに格好良くなったくせに可愛く見えるなんて反則なんじゃないの?
 二人して何となく顔を見れないまま、赤くなった顔を持て余して俯いてしまう。そうして、武は恥ずかしそうにホンワリと笑って。

「・・・・ごめん。じゃあ帰りはさ、雲雀がちゃんと俺を守って帰って?」

雲雀の、あの頃よりずっと逞しく、しっかりとした腕に自らの腕を絡ませる。

「・・・抱っこして帰ろうか?」

「それは恥ずかしいのでいやです」

 じゃあちょっと待って。雲雀はそう言って屈むと、武の足から取れていないほうのパンプスをすいと抜き取り、ヒールをコンクリートに打ち付けて叩き折って。

「ほら、これで高さが同じだから歩きやすいよ」

 にっこりと微笑んだボンゴレ最強の守護者に、武は思わず「ひばり可愛い!!」と叫んで抱きついた後、「男に可愛いって言わない!」と赤い顔をした雲雀に怒られた。



      オワリ

 朔月様リク『二人でお仕事』でした。マフィアの仕事って今は殆ど不動産業らしいですね。不動産て・・土地買収とか書き始めたらものすっごく長い上に私の頭では理解できないことが沢山出てきそうでしたので、『ゴッドファーザー』の始めの部分を使わせていただきました。武にとって雲雀さんは『可愛いちっちゃなひばり』が抜け切れないようです(笑)

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