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バレンタイン
『俺ひばりにあげたいものがあるんだ』

 ――――と、頬染め君が言ったから。

 そんな一句が姉が母から借りたという何とか記念日とかいう本にあったとかなかったとか、別にそんなことはどうでもいいんだけど。
 もうとうに夕ご飯の時間は過ぎたというのにいそいそと山本家までやって来た雲雀は、見慣れたエプロンをつけて台所でなにやら温めている山本の背中を見つめる。
『チョコ用意してなかったから・・・プレゼントは俺でいい?』
なーーーんてことをこれっぽっちも考えてなかった、と言えば大嘘つきになってしまうかもしれないが。けれど・・・けれど、僕の間違いでなければ、台所から匂ってくるのは、もしかしなくても――――。
「ひばりー遅くなってごめんなー。カレーできたぞーーっっ!」
(・・・・やっぱり・・・・!!)
そんなてんこ盛りのご飯に山のようにかかったカレーを、もう空き過ぎてお腹の減り具合なんてわからなくなったこの胃に詰め込めと!?ついでに言うならバレンタインデーに!?
(やってくれるよ相変わらず・・・!!)
家に着くなり着替え始めた山本に、今日は嫌に積極的だと喜んだのもつかの間。こういうオチが付いていたとはね。
「ひばり・・・食べねぇの・・?」
食べるよ!そんな顔しなくたって食べますよ食べりゃいいんでしょ!?こうなったら無言で食べてやる!!
もくもくと山盛りのカレーを口に運んでいた雲雀に、山本は冷たい麦茶を差し出しながら、にこりと笑って。
「あのな、隠し味にチョコレート入ってんだ」
(・・・・・・―――え?)
「本当はチョコあげようかなーって思ったんだけど、やっぱ面と向かって渡すの恥ずかしいじゃん。ひばりみたく上手く・・あんな風にできねぇし・・・」
少し照れくさそうに視線を外して。
「ひばり、前にカレーキライじゃないって言ってたから。そういえばテレビでカレーにチョコ入れるとこくが出て美味しくなるってきいたからさ」
本とはこんなハートの形のチョコだったのなー、と指でハートを形作って見せる君。ワォそうか成程。じゃあ僕は君のハートを食べちゃったってことになるんだね。
「ありがとう。一生涯責任は持つからね」
ニッコリ笑って言った僕のプロポーズに、僅かに首をかしげながら「おう!」と良い子のお返事で答える可愛い君。まあどうせちっとも伝わってやしないだろうけれど。
天然彼氏の美味しいカレーを完食した僕は、お腹の中の山本のハートを大事に抱えて家路に付いた。



 

  でも、明日になれば出ちゃうよねぇ・・・(笑)

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あきゅろす。
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