拍手ログ
楽しい夏休みヒバ山編  君と僕とで半分こ
 ガリガリくんのソーダ。それが山本の夏の定番。ミルクバーや昔なつかしアイスのホームランバーも好きだけれど、暑い時はやっぱり氷をガリガリ噛み砕くのが良い。
ソーダの味が口の中をサッパリしてくれるし(黒川辺りは『あたしはグレープフルーツの方が好きよ』なんて言うけど、どうも苦味があって敬遠してしまう)、何より固い塊を砕いていくうちに、暑さのせいでちょっと溜まったイライラも一緒に砕けて無くなる気がするのだ。


 部活帰りのコンビニでガリガリくんを買った山本は、長四角の冷たい塊を3分の一くらいまで口の中に入れた。ひんやり、舌まで凍りそうな感じが嬉しい。
六時を過ぎた並盛は、夕陽色に町並みも焼けていて、誰も彼もオレンジ色。秋の夕焼けは寂しく感じるのに、夏の夕暮れは何かが始まりそうで少しだけドキドキしてしまうのは、自分だけだろうか。
コンビニの裏手の駐車場にある自転車置き場の影に腰を下ろしながら、もう一口、と口を開けた。
「美味しそうだね山本武」
「おー美味しいぜ―――って、おお?!ひばりじゃん、何で此処にいるんだ?」
「学校帰りにコンビニに入ったらいけないって知らないの?」
雲雀はそう言いながら山本の隣に腰を掛けた。


 何をとぼけたことを。もしもフゥ太のランキングで調べたら、雲雀がこのコンビニのビニール傘購入者のトップである事は間違いないくらい、雨が降るたびに学校帰りどころか授業時間中であっても眉間にしわ寄せ学ランを靡かせてここへ出入りしているくせに。
それにお昼ご飯だって大抵コンビニのお握りやサンドイッチだ。学校在中中にコンビニを利用しているのは悪くないのだろうか。


「・・・なに」
「んーん、何も」
「ニヤニヤして、やな感じ」
「ニヤニヤって・・・楽しそうとか言えよ」
「楽しいんだ?」
「そりゃ、アイス食ってるし」
「それだけ?」
「だけって?」
山本はパチリと目をしばたたいた。現在の状況に置いて、楽しい気持ちの理由は殆どがアイスで占められていると思うけのだが。
考えながらカプリ。もう一口つめたい塊を口に放り込んだところで、雲雀の目が夜の猫の目のように不敵に輝いた。
「ふぅん。じゃ、僕にも楽しさ分けてよ」
「え・・」
何となく身構えた山本の前、雲雀が口許を弓なりに引き上げる。反射神経はすこぶる良いはずの山本だったが、座っていた膝を日焼けなどまるでしていない掌で押さえつけられて『あれ』なんて思っている間に唇が吸い付いてきて。
「ン・・・・んんっ!?・・・ひ・・・ば?・・」
思わず身を固くし、抵抗しようと口を開けば、すぐに飛び込んできた舌が、冷たい塊と山本の舌を代わる代わる転がし嬲る。
「ふ・・・ぅむっ・・!」
アイスは山本の口の中で二人分の熱を受けて徐々に小さくなった。その僅かな氷の粒を奪い取るように絡めて、不埒な舌は離れて行った。
「うん、楽しいね」
「・・・・・美味しい、の、間違い、だろっ!」
ソーダ味の舌でペロリと唇を一舐めした雲雀の前で、山本は息も切れ切れ。夕方とはいえまだ30℃近い気温に、手に持っていた残りのアイスが溶けてアスファルトに染みを作っている。

あ、勿体無い。

咄嗟に反応して舐めとってやろうと伸ばした舌先―――を掠めて、色の薄い唇が瞬時に、そして器用にアイスの棒から最後の欠片を奪って行った。白い咽喉がゆっくりまるで見せ付けるように上下する。
飲み込まれた夏の定番ガリガリ君のソーダ味。その素早い行動に目を見開いた山本の前でニンマリ笑うのは、小さな塊を咬み殺し―――もとい噛み砕き飲み込んだ並盛最強の不良風紀委員長。
「あーーーーーーーっっ!!!」
「ほらね?楽しい」
「た、た、楽しくねーーーーーーっっ!!」
「僕が楽しけりゃ良いんだよ」
「ひでぇ!!ひばりのばかばかばかーーーーーっっっ」
珍しく涙目になって肩をぱかすか叩いてくる可愛い彼氏を見て、雲雀は内心で『ホントに楽しいな』と呟いた。


 気温35度の中、見回りと暑さで疲れ切った体を引き摺り歩いていて見つけた山本の姿。ちょっと側で癒されても罰はあたりゃしないだろう、位に思っただけだったのだけれど。


「君さ、明日も明後日も、ここでガリガリ君食べてなよ」
「やだっ!!ひばりまた俺の最後の一口食べる気だろー!」
「僕がそんな事する訳ないじゃないか。アイスを齧る君のエロ可愛い姿に変な輩が変な考えを持たないように見張っていたいだけだよ」
「エロ可愛・・・・ひばりぜってー暑さで頭やられてるってーー!」
つい先刻まで怒ったり泣きそうになっていたくせに、もう雲雀の額に手を当てながら困ったみたいに眉根を下げて笑っている。数ある中でも特に雲雀の好きな顔。
くるくるよく変わる表情を見ていると、鬱陶しかった暑さが、空の向こうへ吹っ飛んで行く気がしてきた。
「やっぱり君と居ると楽しいよ」
髪をかきあげる雲雀の指先には、うっすら汗が。隣の山本だって、首筋に汗の粒が光っている。まだまだ気温は下がらない。今夜も一晩中クーラーのお世話になりそうだ。
「まぁそりゃ、俺もひばりと一緒に居られると嬉しいし楽しいけどさ」
名残惜しげにアイスの棒を眺めていた山本だったが、立ち上がりコンビニの入り口付近に並べてあるゴミ箱へ。
棒をペロッとひと舐めして捨てた後、こちらを窺うように振り返る。
「・・・・・なぁ、明日も明後日もホントにひばり此処に来る?」
尋ねてきた夕陽の色を映す頬に、雲雀は瞠った目をやんわり細め、頷いた。




 気を抜けばすぐぶっ倒れてしまいそうな暑さだが、野球部エースの可愛カッコいい彼氏が毎日帰り道コンビニデートを楽しみにしてくれるお陰で、どうやら並盛最強の不良風紀委員長は、無事夏を乗り切れそうな模様。


おわり

[*前へ][次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!