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武誕生日 2009 ユニ編
母が亡くなり、自分に残されたものは見たことも聞いたことも無いマフィアのファミリーと、そして組員たちだった。
見たことも聞いたことも無かった自分のような子供に、その命を、運命を委ねろと突然手を出しても振り払われるのは当たり前の事だった。
それでも、やらなければならない。だって約束してしまったのだ。どんな事があっても、どんなに悲しくても苦しくても、その道をお前が選んだのならば笑ってな―――って。


「おじさん」
少女は頼り無い体で、精一杯の虚勢を張って立っていた。この幼さで母の跡を継いでしまった少女に、けれどそれは自分が選んだ道だと微笑まれてしまえば、山本が横から口を挟められるわけが無い。
「よおユニ」
山本はひっそりと佇む少女にやんわり笑い返した。今や同盟ファミリーの一つとなったジッリョネロの、今日は先代のボスであり少女の母親であったひとの、一周忌。
先ほど法要は終わって、今は心づくしの料理が出され、組員や招かれた者たちは、それらを楽しみながら数々の思い出に浸っている。
「ユニがいないと、γが心配するぜ」


 山本は今日、特に招かれていたわけではなかった。招待された主である綱吉は、館内で獄寺と共にテーブルに着いている。山本はただ、かつて姉が住んでいた館の中をブラブラと歩いていた。離れていた10数年間、彼女が一体何を思い、どんな風に暮らしていたのかを思い浮かべながら。
再会してからも、誰にも知られないように何度かは会った。暗闇に影を忍ばせて窓を叩けば、まるで泥棒のようだとからかわれた事もある。
ユニの存在を知ってからは特に、姉よりもユニに会う回数が増え、ザンザスに要らぬ気を揉ませたのも、そう古い記憶ではない。
(特に焼もちを妬くわけではないが、自分と合う時間を減らしてまで姪に会いに行かれるのは、やはりいい気がしなかったらしい)


「私、これをおじさんに」
ユニは後ろに回していた小さな手に何かを持っていた。その手の中のものを山本へとそっと差し出して。
「お誕生日おめでとう。おじさん」
小さな手から、大きな手へとそれは渡る。
真っ白な花弁を秋の高い陽射しに柔らかく揺らす margherita(ひなぎく)。
「ずっと不思議だと思っていたの。見ず知らずの男の人に、どうしてこんなにも懐かしさを感じるのか。おじさん、何も言ってくれないから・・・」


自分の素性を知らせるつもりなどまったく無かった山本に、幼い少女は何の警戒もせずに手をつないで来た。
『悪い人じゃないって、分かります』
静かな真実の瞳に、一点の曇りなく自分の姿が映りこんでいた。姉の代わりに、したくても出来ない姉の代わりに、自分が出来うる限りの愛情を与えよう。兄のように父のように、与えられるもの全てで。
そんな自分にザンザスは何度と無く馬鹿だとため息混じりに吐き捨てたけれど。


「今日は、母の為に来て下さってありがとうございました。そして」
そっと、山本の肩に手を置いたユニは、山本に身を屈ませるように促して。
「大好きでした。おじさん。これからも同志として、私を見ていてくださいね」
頬に寄せられた唇は、仄かに冷たく、そして柔らかく。幼い頃自分の頬に頬ずりするように触れたことのあるそれを思い出す。
「・・・・・・いつまでも」
手の中のmargheritaを、力を入れすぎて折ってしまわない様に山本はゆっくりと握り締めた。
暖かな陽射しの向こうで、同じような笑顔を浮かべた人たちが並んで二人を見つめているような気がした。



おわり
margherita(マルゲリータ=マーガレット)花言葉は優しさと無心・いちずな心と誠実な愛など。


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