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武誕生日 2009 姉編
行ってはいけないと心の底では思っていた。解っていた。けれどイタリアのマフィアが一堂に会したその場所で、余りにも懐かしすぎる顔を見てしまってから、山本の頭にはもうその人しか浮かばなかった。


「会ってどうする、ジッリョネロは同盟でも傘下でもねえんだ」
鬱蒼とした木々の茂る山奥にそびえ立つ暗黒の城で、恋人同士の逢瀬の時間だというのに、それにしては甘さの一欠けらも無い声が広い執務室に落ちる。
「解ってる・・・」
「解ってねえって面してるから言ってる」
「だけどっ・・・!・・」
「だけどもへったくれもあるか。そんなことして、足元掬われるのはテメエの大事なご当主様だろうが!」
言い募る山本に、表情も崩さずにどっしりと執務机の一人掛けの革張りの椅子に腰掛けていたザンザスは声を荒げた。
幾日も会わずにいて久しぶりに顔を見せたと思ったら、いつになく沈むようにソファに腰掛けていた恋人に、その表情の理由を問い質せばこんな埒もないことを考えていたとは。
「だけど、アレは絶対姉ちゃんだ・・・俺の、姉ちゃんなんだよ」
幼い頃に行き先さえ告げられずに引き離された姉が、こんなところでファミリーのボスに、しかもなぜかアルコバレーノのおしゃぶりまで首に下げていたという。だからといってじゃあ会って真相を確かめて来いなどと言える立場でもない。自分は男の上司でもなんでもないのだから。
「ただ、会いたいんだ。元気だったのか、今までどうしていたのか、それだけを・・・」
言っても仕方の無いことは、決して口にしない男だ。そうして心の奥に一つ、また一つとやるせなさを沈めて笑う。その山本が、どうしたらいいのか分からずに、感情の持って行き場が無くなって、どうにもならずにすがり付いて来た。振り払ってしまえば、きっとまた仕方なさそうに笑ってみせるだろう。溜まった澱から目を反らして、自分の前でも嘘つきの顔で―――。


 ソファの上、組んだ指をじっと見つめて俯く山本の隣に、皮を軋ませて腰掛ける。くしゃりと短い髪を掻き混ぜれば、重たそうに首が持ち上がった。
「絶対に他の者に見つからないと言えるか」
「・・・え」
「会って確かめるだけと誓えるか」
「ザンザス・・・」
「ヘマをしたら俺がこの手で、お前を掻っ消す」
泣きそうに歪む唇にそっと触れてやると、力の入り過ぎていた指が解けてやっと先端に赤味が差す。
「・・ん、絶対、見つからないようにすっから・・・!!」
家族というものに対する山本の執着は強い。たった一人の父を亡くした時の慟哭を、見てはいないがザンザスは知っている。
「だからそんな湿気たツラどっかやっちまえ。テメェの誕生日だろうが」
「うん、うん、ザンザス、ありがとっ・・!」
漸く少しだけ浮上した山本の笑顔と共に、匂いたつような甘い時間が流れ始めて、ザンザスは執務室の電気を消した。同時に、背後から長い腕が絡みついてザンザスは咽喉を鳴らす。
「なんだ?サービスか?」
「アンタに殺られるんなら、本望だから俺」
「馬鹿か。屍を抱く気はねえぞ」
解いた腕を掴み、そのままソファへと押し倒す。ふざけた事を言う唇はさっさと塞いでしまうに限る。
もしもバレたとして、ザンザスが山本とボンゴレのどちらを選ぶかなど、誰に聞くまでもなくひと分かりというものだ。


 かくして、山本はジッリョネロファミリーのアジトを突き止め、ようやく大好きな姉との再会を果たしたという事だ。その夜喜び勇んではしゃぐ山本を落ち着けるのに、ザンザスは非常に苦労したのだとか。



おわり



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あきゅろす。
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