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5/笑顔で「また明日」 ザン山
5/笑顔で「また明日」



 山本武がその場所を訪れた時、嫌な予感が頭をよぎった。よぎったけれど、だからと言ってここまで来て簡単には引き返せない理由が山本にはあった。なぜならば山本がその人物と顔を合わせるのは1週間ぶりであり、ついでにいうなら体の関係のある二人がその関係―――いわゆる性交渉を行ったのは、実に一ヶ月半前であったから。
 枯れた夫婦ならいざ知らず、初々しい恋人同士とは行かないまでも、まだまだお互いの体に溺れていたい付き合い半ば。顔が見たい、手に触れたい、触れられたい。一歩館の中に入れば心だけは逸るもので、山本は3階に鎮座しているはずの仏頂面めがけて横幅の広い階段を一気に駆け上がった。


 とん、と三階の廊下に敷かれているカーペットにつま先を着けた。と同時に廊下をぐるりと見渡せば、何というのか、こう―――荒れている。
壁面に飾られているいくつもの絵は全て額縁が欠け、描かれた静物も人物も何らかの染みで汚され、斜めにずれている。壁はところどころ亀裂が走り陥没し、数メートル間隔で天井から下げられているライトのガラス製のカバーは砕け、破片がカーペットに散っていて素足で歩くのはとても危険だ。
(なんだ?まさか襲撃にでも遭ったのか?そんな話誰からも聞いてないぞ!?)
山本は携帯を取り出すと、ボンゴレのナンバーを画面に載せた。ボタンはまだ押さない。何も無ければ連絡などする必要はないからだ。けれど、何かあったら。即座に発信ボタンだけ押してその辺りに転がしておけば、受話器越しの音を聞きつけて応援を寄越すだろう。
不安に駆られながらも細心の注意を払い物音を立てないよう、山本は幾つものドアの前を小走りに通り過ぎる。背中の刀の柄を握り締め、この屋敷の当主が常に陣取る部屋のドアを右足でもって蹴り開けた。
が―――
「動くんじゃねえ」
ゆっくりと撃轍が起こされ、鈍く光る銃が山本に向けられていた。側頭部に押し付けられているのは、この部屋の主の愛銃。銃口と共に激しい殺気までぴたりと寄せられて、山本はごくりと咽喉仏を上下させた。
「・・・・・ザン、」
手にしていた刀と、そして携帯電話が取り外され、放られる。銃を突きつけられたまま、後頭部が鷲掴れたと思った途端、後ろで扉が外れそうな勢いで閉められ、次いで背中がそこに押し付けられたかと思うと、山本は扉と男に挟まれてしまった。
「ん・・!」
噛み付くように唇を貪られ逃げを打とうとするも、後頭部をしっかりと押さえられているから顔を背ける事もできない。歯がぶつかり舌に鉄錆の味が拡がったような気がしたが、そんなものはお構い無しでザンザスは山本の口内を蹂躙する。空いた腕は山本のシャツをベルトから引き抜くようにたくし上げて素肌の感触を確かめている。
「ザンザス、ザンザ・・・・ス、ん」
硬い指がまさぐる肌は既に熱を帯びて、ザンザスの掌にしっとりと馴染む。性急過ぎる愛撫に、けれど求めていた男の匂いを与えられて山本は自らもザンザスのシャツのボタンを震えそうな指で不器用に外し始めた。
「ザンザス、ザンザス・・!」
肌蹴たシャツから覗く肌にいくつもの鬱血痕を残しながら強く口付けていく男は、跪くようにしてスラックスのファスナーを開く。もどかしい思いでザンザスの長めの髪に指を差し入れると、下着の上から熱い吐息が山本自身を掠めて腰が震えた。
「ザンザ」
山本は更なる快感を求めて行為の続行を促そうとした。ところがその時突然山本の背後に在った筈のドアが消えた。正確に言えば、もたれかかっていたドアが、誰かの手によって開かれたのだ。
「はいストーーーーーーップ」
その細身の体の何処にそんな力があるのか。支えを失くして後ろへ倒れこんだ山本をしっかりと抱き止めたのは、山本の親友であり上司であり二人の当主であるボンゴレ十代目沢田綱吉その人だった。ギギギ、とぎこちなく首を回せば、自分よりも随分と低い目線とバッチリ目が合い、山本の専売特許であるニッコリ笑顔で迎えられ。
「ギャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっっっっっっっ!!!!!!!」
驚きに体に篭り解放を待つだけだったはずの熱は、一気にどっかへ飛び散った。自分の腰を抱え込んでいた暗殺部隊の首領の、手の中に逢った黒髪を引っぺがそうと思い切り鷲掴みにした山本だったが、何故か引き剥がすどころか、却ってしがみ付いてくる。
「ちょ・・・ザンザスっ!?おいツナが」
後ろからひんやりとした怒気を感じながら、慌てふためいてさっさと離れろと肩を押すも、止まるどころかその手は未だに山本の太腿の辺りをまさぐっており。
「・・・・るせぇ、ちっと静かにしてろ」
「できるかっ!!ツナだってば!!」
「冗談じゃねえぞ」
「え?いやえーと、冗談とかじゃなくてな?」
なおも下半身に顔を埋めようとする男の頭をあやすようにぽんぽん叩けば、目の下に隈入りまくりの三白眼が、白目を充血させながら眼光鋭くじっとりとこちらを見上げ。
「るせえっつってんだ!!!本気で冗談じゃねえぞ分かってんのかこの野郎!!こっちゃあもうとてつもなく飢えてんだ切羽詰ってんだよここまでやっといてこれ以上お預け食らわされたら気ぃ狂って死んじまいそうなんだよっっっ!!!!!」
「ザン・・」
「じゃあ死ね」
うっかりほだされ、じゃあ続きしようかなんて口走りそうになった山本の背後から、支えていてくれた手が外れた。
バリッ!!!
(あ、破けた)
地を這うような声がしたかと思ったら、怪力としか言いようが無い細腕が、山本のシャツの裾をギッチリと掴んでいたザンザスを見ている前で引き剥がし床板に倒し。山本のシャツは見るも無残に破れてしまった。
「テメェ綱吉!!!」
起き上がり、普通の神経であれば視線だけで縮み上がってしまう紅い瞳をギラギラさせながら睨む男に、ボンゴレを背負う男は再びニッコリと笑って。
「あーやだやだ、そんなに若くも無いくせに血走っちゃって。そんなあなたに山本を与えるなんて、野獣に餌を放るのと一緒じゃないか。少し危険な任務にでもついて、精力を削いでくるのをお勧めするよ」
行くよ山本、そう言って己の雨の守護者の手を引いて歩き出す。戸惑う山本を他所に、その山本が佇んでいた場所に残されたのは一枚の仕事依頼書、もちろんボンゴレ死炎印付き―――。


「クソカスがぁーーーーーーーーーーーっっっっ!!!!!!!」


当主の激怒に館全体が震撼するヴァリアー邸を振り返り、綱吉にずりずり引き摺られながら口許についた血をペロリと舐め取る。じんわり広がる錆びた味に、次逢った時はヤり殺されるかもしれないと本気で考えずにはいられない山本なのだった。



おわり
■ おあずけ5題 七瀬はち乃様(http://2st.jp/2579/)

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あきゅろす。
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