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4/お邪魔虫 双子
4/お邪魔虫
  

ザンザスはキスが上手いと、いつも感心してしまう。それは人の行き交う商店街の、丁度歩行者から死角になる場所であったりするのだけれど、武が少しも気に留めていないようなところを見つけては、まるで計ったようなタイミングで唇に触れる。


―――のだろうと、山本たけし(女)14歳は思っている。
「なんでそんなのが分かるの?」
「え?だって気付くと武が真っ赤になってたり、二人の姿が消えてたりするじゃん?それってつまり、そういうことだろ?」
学校からの帰り道、風紀委員長であり恋人の雲雀と共に住宅街の中を比較的ゆっくりと歩きながら、たけしは兄の恋人が多分、いや絶対的なタイミングを逃さずに兄の唇を奪っているに違いないと、どこか興奮気味に説いて見せた。
(だからこの子は、どうしてそんなどうでもいいことばっかり良く気が付くんだろう)
あの天然ボケの兄の妹のクセに、やはり女の子だからなのだろうか、意外に目敏い。
「・・・・で、だからどうだって言うわけ?」
雲雀は弱冠肩を落としつつ、隣の彼女を横目で見た。どうせ彼女の事だから、兄とその恋人がそれをする場面を見てみたいとか訳の分からない事を言い出すのだろう―――と、思っていたら。
「別にどうも。ただ、きっとそうなんだろうなって言いたかっただけだぜ〜」
ニッコリ笑って歩き出す。そうか、別に野次馬になりたいわけでは無かったのか。何となく毒気を抜かれたような気がして足を止めてしまった雲雀を、たけしはくるりと振り返った。
「ひばりー?」
後ろ手を後頭部で組んだまま首を傾げるようにすると、肩から提げられた鞄に取り付けられている、四葉を象った時計が夕陽にちかりと輝いた。足元を掠める春の風に、短めのスカートが柔らかく揺れる。
背が高く、黙っていれば大人びて見えるたけしの、すっきりとしたうなじに僅かにかかる細い髪に指を伸ばす。くすぐったそうに首を竦めて見せたたけしが、唇をきゅっと嬉しそうに結んで見せるから。
住宅を囲む灰色の塀に長く伸びた影がゆっくりと重なる。あと5センチ、あと3センチ、あと―――



「へーーーーっくしょん!」


ドサッ!!
たけしの手から鞄が落ちた。あと少しで唇が触れようとした瞬間に、住宅の路地に響いた大きなくしゃみに、たけしは驚きと共に顔をこれでもかと真っ赤っかにして側にあった電柱に抱きついた。内心、そんなものに抱きつかないで僕にだきつきなよ!!と思いながらも、雲雀は顔色一つ変えずに、その鞄を拾い上げる。
雲雀としてはキスの現場くらい見られたところでどうという事は無いけれど、どんなに図太いとはいえ、たけしは女の子。やはり恥ずかしさはあるだろう。なに、商店街まではまだ距離があるし、その間にもう一度くらいチャンスは―――
「おーっ!たけしと雲雀ここにいたのか」
雲雀がたけしに鞄を渡したところで、朗らかで通りの良い声と共に曲がり角から現れたのは。
「武・・・・と、ザンザスさん」
なんと、部誌を書くからと残してきたはずのたけしの兄武と、その恋人にして雲雀の天敵ザンザスだった。
「学校の近くまで仕事で来てたんだって。部誌書いてる途中でメールが来てさ。帰りに家で寿司食って行くって言うから・・・・って、あれ?たけし何で顔赤いんだ?」
たたたと駆け寄ってきた兄は、即座に妹の顔を覗きこんで、手をひたりと額に付ける。が、その手を跳ね除けるようにブルブル頭を振ったたけしは、雲雀の背後にその身を隠した。・・・そんなんじゃ、いかにも何かありましたって態度がバレバレだというのに。
「いいいいいいや、何でもないよっ!ね?ひばりっ!」
「・・・・・・ああ、うん。なーんにも」
「・・そっか?熱とかじゃないんなら、別にいいけどな」
気付いたか気付いていないか、イマイチその表情からはうかがい知れないけれど、誤魔化されてくれた様子の武にふうと安堵のため息をついて、たけしは雲雀の背後で制服の袖の辺りを恥ずかしそうにキュッと掴んだ。
そんな可愛らしいしぐさに思わず口許を綻ばせた雲雀の前で、じゃあ行こうぜザンザス、そう言って後ろを振り返った武の先にいる男が、ふと口許を覆い隠しているのを見て、雲雀は怪訝そうに眉間にしわを寄せ――そして。


はたと、思い至った。



・・・・あのクシャミ・・・!!!!!



 まだ顔を赤くしているたけしと雲雀のそばをすれ違い様、背の高い男が小さく咽喉を鳴らしていたのを雲雀は聞き逃さなかった。こんないいタイミングでくしゃみなんて普通出るはずが無い。くしゃみなどという簡単かつ姑息な手段、けれどそれにまんまと乗ってしまったのは自分の彼女であるたけしだ。
ああ畜生め。人の恋路を邪魔するなんて、絶対に許せない。目には目を、歯には牙をだ!!


絶対二人にイチャつく暇なんて与えてやるものか・・・・!!!!


雲雀はたけしの手を繋ぐと、今しがた左に折れたばかりの背の高い二人の影を追って足を速めた。その僅か数メートルの距離を歩いている間に、ザンザスが武の唇をさっさと掠め取っているのも知らずに。



おわり
やっぱり年上なので、一枚以上は上手でないと。
ちなみにたけしがザンザスはキスが上手いのだと思っている理由は、雲雀もそういうチャンスを逃さないから、そうなんだろうなと思っただけ。要するに雲雀もキスが上手いって思われているんだね(^^)
■ おあずけ5題  七瀬はち乃様(http://2st.jp/2579/)


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