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3/今日はここまで ザン山
3/今日はここまで


 執務室のソファは大抵いつも誰かの影がある。それは常にはその部屋で執務を執行している人物なのであるが、まれに、同じ長身ではあるものの、髪の毛の長さも肌の色も、かつ瞳の色も違う、かの人の恋人山本武のこともある。
先ほど廊下を靴音響かせてやって来た山本武は、薄汚れた体はそのままに、重厚な机を陣取る“暗殺の腕はマフィア界bP”と名高いヴァリアーのボスザンザスの前でにっこり笑い、『悪い、寝させてくれ』と言った直後2〜3歩後ろへフラフラ下がりテーブルに膝裏を取られ、折れた膝から上手い具合に後ろに引っくり返ったかと思うと頭からソファへと倒れこんで、そのままくーかー気持ち良さそうに眠ってしまった。
「・・・・・何だってんだ」
あのシャツの汚れ具合からすると、遊んでいたというわけでは無さそうだった。なぜならば、破れたシャツから血が滲んでいる。
ボンゴレの独立部隊であるヴァリアーの仕事はボンゴレに把握されているが、ボンゴレ側の仕事をヴァリアーは一々関知しない。とはいえ、一応自分の恋人である山本武のスケジュールくらい、ザンザスは押さえているつもりだった。だから今日のこの突然の訪問は予期しなかった物であり、体の傷なども何故、何処で付いた物なのか一応説明してもらう義理があるのではないかと思うのだが――ソファの提供者としては。
 一つの物音も立てずに執務用の革張りの椅子を立つと、ザンザスは毛足の短い絨毯を踏みつけて山本の側へとしゃがみ込んだ。机の上を跨ぐようにソファに倒れた山本は、絨毯に尻餅つくような形で肩から上をソファに預け、足はテーブルに投げ出されていた。
(面白いかっこで寝やがって・・痛くねえのかコイツは)
膝裏に腕を回してゆっくりと抱き上げるが、振動に身じろぎすらしない。泥のように眠ると言うのはこういうのをいうのだろうか。ソファが汚れてしまうのは気になるが、取り敢えずそれは仕方無しとして、ザンザスは山本の顔から足元までをじっくりと眺めた。
髪に触れれば砂粒がパラパラと落ち、くもの巣まで掛かっている。肌はやはり茶色く煤けていて、シャツも埃にまみれていた。おまけに、ところどころが破れていて血が滲んで・・というのは先ほど見て分かっていたが、どうも刃物や撃たれた傷、というものでもない。どちらかといえば何かに引っ掛けて出来た擦過傷のようだ。
(ふむ・・)
ではどうという事も無いな。ギシリと軋んだソファに膝を沈ませて、ザンザスは山本の上へと覆いかぶさるように腕を着いた。汚れてしまったシャツならば剥ぎ取ってしまえばいい。致命傷でも何でもない傷から出た血ならば舐め取ってしまえばいい。
既に二つ目まで外されているシャツのボタンに手を掛け、肌蹴た胸に手を這わす。白かったはずのシャツに覆われていた素肌は、晒されていた肌とは打って変わって健康そうで清潔な色を放っていた。多少汗ばんでいるのはご愛嬌、それとて暫く触れていなかった恋人との情事を楽しむ潤滑剤にならないわけじゃ無い。舌先で鎖骨の下辺りから鳩尾までつうと巡り、まだ何の喜色も示さない胸の飾りに辿り着く。舌先で遊ぶように触れながら、長い指先は邪魔なスラックスを剥ぎ落としてしまおうとベルトへ伸びていた。
「・・・・・ん」
先ほどまで何の反応も無かった山本が、むずがる子供のようにゆっくりと首を振る。だらりと下げられていただけの腕が不埒な行為を邪魔するかのように髪に差し入れられたけれど、それさえもがザンザスの欲を後押しする。バックルが解かれ、ファスナーに手が掛かった。
「ザン」
開きかけた唇をすかさず伸び上がり塞いだ。少し砂っぽい感じはするが、ここまで来たらそんなものに構ってはいられない。起きているのかまどろんでいるのか、それとも与えられる快感に身を委ねているのか。気持ち良さそうに目を伏せている山本に愉悦を含んだ眼差しを投げて、下着の中へと手を入れ、緩く首をもたげ始めたそれを口に含もうとした途端。

あったーーーーらしーーーーいーーーーあーーーーーっさがっきったーーーーーーーきーーーーぼーーーーーおのーーーーーあっさーーーーーーだっ!!

「うわっっ!!!!」
「ぶっ!!」
突然鳴り響いた携帯の音楽に山本はだらしなく投げ出していたはずの体を即座に起こして、愛しい恋人をソファの下へと突き落とした。
「いきなり・・」
「しっ!!黙れザンザスっ!!」
山本はファスナー全開のスラックスのポケットをまさぐると、即座に携帯電話を取り出して通話ボタンを押した――。
『てめえ何サボってやがるーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!』
キーーーーーンと響き渡ったのは、勘違いでなければ多分嵐の守護者の怒鳴り声。
「やー、サボってた訳じゃねーぜ?ちょっと休憩なー?」
『そういうのをサボりっつーーーんだっ!!さっさと見つけてきやがれっっ!!!』
「わーかったって!そんなに怒ってばっかいるとハゲるぞー?」
がなる獄寺を他所に受話器を手にする山本は大口開けてカラカラ笑う。耳を離しても聴こえてくる大声をものともせず、山本はぷっつんと通話を切って携帯を仕舞うとシャツの裾を直してスラックスのファスナーを上げた。
「・・・見つけるって何だ」
「んー、笹川の猫が逃げちまってなー。つっても逃がしたの俺なんだけど」
バックルにベルトを通して留め終わると、ザンザスが尻餅ついたままの姿勢で固まっているそこへとしゃがみ込んで。
「俺からベスターの匂いがしたから逃げられたんだって言われちまえば、俺が探さないわけにいかねえだろ?昨夜から駆けずり回ってて俺だって疲れてんのよ。だからちょっとアンタのとこで補充させていただきました」
アンタをね、なんて言いながら、ちょんと口付けて立ち上がる。
「ちょっと待て・・」
「んじゃな!あーあ、猫って一体どんなとこに隠れるんだろうなぁ」
「・・おい」
「あ、ザンザス俺明後日からツナに着いてシチリアまで行かなきゃなんねえから、また暫く会えねえや。ごめんなー」
「お・・」
「ねこねこ子猫ー、どこいったー♪」
「・・・・」
呑気に歌なんぞ口ずさみながら、重そうな扉から手だけヒラヒラと振って、山本は消えてしまった。何だというのか、勝手に来て勝手に寝床(?)を占領して、勝手に人に火をつけて、勝手に・・・・・。



「くそコラいい度胸じゃねえかーーーーーーーーーーーーーっっっ!!!!!!!」



 燻る体を冷水シャワーの下にさらしながら、今度逢った時は目に物見せてくれる泣いても喚いても絶対許してやらねえぞ!!!!と怒りに燃えるザンザスの元へと山本が再び訪れるのはいつの日だろう。山本が泣かされるのが先か、屋敷が破壊される方が先か。怒り狂うボスの背後で、『ああ、また修繕費がかさむわぁ』とルッスーリアがぼやいていた。



おわり
寸止め(笑)ボスは楽しい・・・!!!!!!

■ おあずけ5題  七瀬はち乃様(http://2st.jp/2579/)

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