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2/唇の重なる寸前 (イクト&空海&兄ちゃんズ)
2/唇の重なる寸前



最近の俺はおかしい。何故かドキドキするんだ――それも、正真正銘の男に。


「イクトおまえこんなに弱かったっけー?」
いつものように遊びに訪れた空海の部屋で。ゲームに興じていた空海が二人でやろうと誘うものだから、今並んでテレビ画面を見つめている。

―――そう、見つめているだけだ。

激しく指先をボタンに叩きつけている空海を横目で見ながら、そんなに叩かなくったって操作できるだろうとか、何で画面の中の人物と一緒に操作する手までジャンプさせているんだとか思いながら、なぜだろうそれすらもどうしたことか可愛いと思えてしまっている自分が



キモい



「イクトー?イクトさーん?ゲームオーバーだぞー。も一回すんのかー?」
「ギャッ!!」
「ギャって・・」
いきなり目の前にくるりとした悪戯な瞳が現れて、イクトの心臓は飛び上がった。バクバク、バクバク、鼓動が激しい。ちょっと待ってくれ、俺は女の子が好きだったはずだ。現に日奈森あむとデートっぽいことだってしているし、まだ幼い足とはいえ、あいつの膝枕を気持ち良く感じる。そうだ、そうなんだ、コイツは男なんだからときめくはずなんて無いんだ・・・・ていうか、ときめき!?この俺が!?女に言い寄られこそすれ、自分から手に入れようなんてひと欠片も思ったことないこの俺が!?男で、しかも友人のはずの空海に!?


ありえねーーーーーーーーっっっ!!!!!!


「・・・・・はあ」
ぐるぐる考え過ぎて頭がパンク状態に陥ったイクトは、あの後用を思い出したと窓を飛び出して、フラフラ当ても無く彷徨い歩いて頭を冷やしていた。なのに、公園でサッカーをしている子供たちを見れば空海の走る姿と重なるし、コンビニの前を通れば今にもあのドアを開けて大きなビニール袋を両手に提げた空海が出てきそうな気がして立ち止まってしまう。


これはもう、本当に・・・・・?


夕暮れに影も隠れてしまった頃、イクトは再び空海の部屋の窓辺に立った。いつイクトが来てもいいように鍵の閉まっていないガラス窓。
(不用心・・)
開けてみれば空海はベッドにゴロリと横になって、手足を広げ気持ち良さそうにくーかー寝息を立てていた。
(人の気も知らないで、呑気なもんだな)
靴を脱ぎ、音も無く床に滑り降りて、きゅ、と腹立ち紛れに鼻を摘まんでみると、眉間に可愛く皺が寄り、不満げな唇が小さく突き出される。
(・・・・・・・・・・・・・なんだよそれは)

まずいなんでだ可愛い
どうしよう嘘だろう可愛い
男だぞ俺と同じモンがついてんだぞ可愛い
唯世ならともかく空海なんだぞ



ああくそっ!!可愛いんだよコン畜生っ!!!!



常の笑顔と違ってちょっぴり膨れているような表情が、とてつもなくイクトの中の何かを掻き立てる。ああもうどうでもいい、いっそ変態と罵られた方が開き直ってしまえるかもしれない。日に焼けた柔らかな額に口付けると、眉間の皺がパッと解けてふにゃりと笑う。
(〜〜〜〜・・・・起きてんじゃねえだろうなぁこのヤロ・・!)
ドキドキしながら唇が鼻筋を辿って、僅かに開かれたそこへと到達しそうになって。
(あーもー、いいや俺、変態ケッテー!!)
幸せそうに目を瞑る空海に、ちゅっとキス―――

ぶおんっっ!!!!!

「おわぁっっっっっ!!!!!」




後数ミリで唇に到達、というところで筋肉質な腕が目の前を掠め、眠る王子様をそのままに拉致られた場所は、兄四人が両腕組んで立ち並んだリビングだった。長男の海童以外は全員にこにこ笑っているけれど・・・・・空気が目一杯冷たい。
「まだガキなんでねー。保護者が面倒見てなきゃならねえ年なんだわ」
「空海は可愛いかもしれないけど、簡単にどうぞって訳にはいかないっしょ」
「君の返答如何では、今後一切あの部屋には立ち入り禁止にさせてもらうけど」
雲海、れんと、秀水が正座するイクトに氷のつぶてをぶつけるような視線を投げる。と、ずいと一歩前に出てきた海童が、どこか面白そうな口調で言った。
「ま、例えどんなアクションを起こそうと、あの激ニブが果たしてお前の気持ちに気付くかどうかってとこの方が問題だろうがな」
ふんと鼻で笑われて、一瞬頭をトンカチで殴られたような気がしたイクトは、暫く俯き肩を震わせたかと思うと口許をにいと歪めた。


ここまで言われて引き下がったら男がすたるってものだろう・・・・!!!


かくして、散々っぱら迷った挙句、兄の一言で己の今までの恋愛観を全てうっちゃったイクトと、可愛い弟を泥棒猫の魔の手から守る兄ちゃんずの熱き戦いがここに勃発したのであった。



おわり
このお預けは長期にわたるだろう・・・!!
■ おあずけ5題  七瀬はち乃様(http://2st.jp/2579/)


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