拍手ログ
おあずけ五題より 1/もういいかい、まあだだよ(ヒバ山)
1/もういいかい、まあだだよ



 小さな頃かくれんぼが大嫌いだった。
じゃんけんで勝って、散り散りになって隠れて、鬼の足音にドキドキしながら息を詰める。
『みーつけた、建ちゃん!!』
最初のうちは『あーあ、あいつ見つかっちゃったよ』なんて口許を押さえて笑っているけれど、二人、三人と捕まっていく内に、段々不安になってくる。もしこのまま俺を見つけてくれなかったら?もしもこのまま皆自分を探すのを諦めて帰ってしまったら?そんな事、きっとあるはずが無いのに怖くて、草陰からわざと片足出してみたり、したくも無いのにクシャミなんかしてみたり。


 雲雀と居る時も本当はこんな感じなんだって言ったら、笑うだろうか。努めて表面に出さないようにしているけど、本当は凄くドキドキしているって。でもまあ、雲雀には実はバレバレなのかもしれないんだけれど。
雲雀が追い駆けてくれるから、安心して走っていられる。雲雀が手を伸ばしてくれるから、触れられる瞬間のギリギリまで他の事に夢中でいられる。
だから、本当はケンカとかするのは嫌いだし、お預けとかっていうのも好きじゃない――ていうか、怖い。
このままもしも雲雀が自分を追ってこなかったら?誰か別な人を好きになってしまったら?もう二度と俺に触れてこないばかりか、顔を見ることすらしてくれなくなったら?
だから適度に。ちょっとずつ、ちょっとずつ小出しにしていくんだ。そうやって、もっともっと、って雲雀が俺を求めてくれたら、強請ってくれたら。


「つかまえた」
放課後の校舎の中でちょっとした鬼ごっこ。賭けていたのは“キス”。それにしても警備員が校舎を回り始めるまでって、あと1時間以上あるのにその間中キスしているつもりなんだろうか。それともすでに先の所にまで考えを巡らせているのかもしれないけれど、こちらとしてもそう簡単に折れるわけにはいかない。――大体ここ、廊下だし。
「ひばり、あの、ここじゃチョットなんだし」
「いいよ別に。誰も居ないし、誰か近づいて来たら咬み殺せばいいだけだから」
「いやダメダメ!!無関係の人間巻き込んじゃダメだって!」
「無関係じゃないでしょ、恋愛執行妨害の罪は重いよ」
「何それわかんねえけど、ここじゃ嫌だ俺、恥ずかしい」
「嘘つき」
「・・・嘘って、何だよ」
そのまんまだよ。と唇の動きを読んだつもりだった目が急に雲雀の掌で覆われて、唇に温かい物が触れてきた。柔らかく吸い付いては離れ、戯れるように突いては可愛らしい音を立てる。
「一時間くらい、平気でキスできるよ僕は。余裕だね。むしろ君の方が我慢できなくなっちゃうんじゃない?」
「な」
まんまと口を開けてしまった山本の歯の間を割って、雲雀の熱が口内に入り込んできた。目を塞がれている物だから、なまめかしい舌の動きに余計に体が反応してしまう。
「大丈夫、キス、だけしか、しない、から」
途切れ途切れの吐息交じりの雲雀の言葉が、余計に山本の敏感になっている体を、神経を刺激する。こわい、けど気持ちいい。俺だけ?違うそうじゃない、だけど。熱くなっている雲雀の掌からもそれは分かる。雲雀が自分を欲しがっている、それは嬉しい。けれど反面流されて行くとこまで行ってしまったら、その先は?先が見えるのなんてもっともっと後でいい。だから、まだダメ、まだダメなんだって思うのに。


(キスだけ、キスだけ、キスまで、キス・・・・・だけ?)




もういいかい?まあだだよ。さて、我慢できなくなるのはどっち?





おわり
付き合い始めのヒバ山ってことで(笑)

■ おあずけ5題  七瀬はち乃様(http://2st.jp/2579/)



[次へ#]
[戻る]


あきゅろす。
[小説ナビ|小説大賞]
無料HPエムペ!