キリ番リクエスト
9999上総様リク 君の好きなトコ<前編>ヒバ山
 授業中は大抵居眠り。テストに関しては赤点もしくはギリギリで補習も多い。学生服はブレザーにネクタイ着用とあるのに、してくるのは風紀検査の時のみ(それすらもして来ずに委員長に首を絞められているのを見ることも)
できるのは野球及びスポーツだけ・・・の、それだけ聞けばあまりさえない奴なのだが、この山本武という男、何故か人望厚く、女子にも男子にもすこぶる受けがいい。
バレンタインデーには上級・下級問わず女子がチョコを持って教室に押し寄せるし、休み時間は「山本〜!バスケやろうぜ!」「今日はサッカーだろ」と複数の男子から声が掛かる。
 最近は同じクラスの沢田綱吉・獄寺隼人とつるんでいることが多いが、それまでは兎に角大勢の友人にかこまれて、休み時間どこへ行っても山本の姿を見ないことは無かったほどだ。

「ほんとにあいつは楽しい奴ですなあ」

 活発で物怖じしない性格なので、成績が多少悪くても教師達にもかわいがられていた―――のだが。


(教師を教師とも思っていないようなその態度・・・体と同じく態度もでかい、脳みその足らないただの餓鬼のくせに・・・!!)


 実はそういう山本を疎んじる教師も、少数ではあったが居ない訳ではなかった――――。




「また君?」

 服装検査の最中、雲雀の前でゴソゴソと鞄を漁っていた山本は、掛けられた声に少しだけ気まずそうに顔を上げた。

「いや〜、今日検査あるってわかってたから、ちゃんと入れてきたんだけどさあ。部活のジャージと一緒になっちまって・・」

 ははは、と笑いながらTシャツを引っ張り出したり、ジャージのズボンのポケットを裏返したり。

「まったく・・・」

 小さくため息をついた雲雀は、山本の正面の低い位置から、その双眸を見据える。その咽喉元に、光る凶器―――。


「君の昼休み没収」

「えーーーーっっ!」


 ニヤリと笑い、冷たいトンファーで朝練でほてった山本の顔をつい、と一撫ですると「横暴だーーー!!」と叫ぶ山本に背中を向けて、風紀委員長は如何にも楽しそうにまた生徒玄関へ向けて歩き出した。




「はい次ココ」

 カリカリカリ―――鉛筆を走らせる音と雲雀の落ち着いた低い声だけが響く応接室で、山本は数学の教科書とにらめっこしていた。
 学期末の試験が近くなり、普段から学校生活の殆どを部活動に費やしている山本は当然のごとく成績が悪かったため、天候に左右される野球部の練習が、校内の筋トレの場合のみ、補習を言い渡されてしまった。それも、ご丁寧にわざわざ部活指導教諭まで連れて来られて・・・涙ながらに。
 そうなるとダダをこねたのは世にも恐ろしい風紀委員長雲雀であった。「成績が悪いせいで恋人同士の逢瀬の時間が無くなるなんて耐えられない」なんぞと教師に言ったかどうかは知らないが、いつの間にやら補習をする部屋は応接室になっていたのだった。



「だからって、貴重な息抜きの昼休みまで勉強かよ〜」

 情けない声を出して問題を解く山本の頭を丸めた教科書でポコンと叩く。

「あのさ、授業中目一杯息抜いてて、これ以上なにを抜く必要があるの?大体まじめに授業受けてれば解らない問題じゃないでしょ?」

 雲雀だって 山本が決して頭が悪いわけではないことくらいわかっている。野球に精一杯の力を注ぎ込んでいるから、どうしたって疲れてしまうのだ。
(ペース配分考えろって言ってもこの子にとっては野球と勉強、天秤に掛けるほうが間違っているだろうしね)
 こうして目の前でああでもないこうでもないとしながら、たまにパッと目を輝かせる瞬間―――。
 山本は闇雲に「教えて欲しい」とは言わない。教科書を読み、自分の頭で考え、消化し、それでも納得できなくなると「これ何でこうなるんだ?」と聴いてくる。そうして、答えを導き出せた時に、子供のように瞳がきらりと光る瞬間を、雲雀は気に入っていた。

「そういえば今回の補習を決めた教師・・・数学の片瀬だっけ?きみ、よく彼に呼び出されているよね」

 問題を解いている山本の短い髪に埋もれて見えないつむじを見ながら、興味があるのか無いのか解らないような声で雲雀は聞いた。

「あー・・うん。なんでかな」

 山本は目の前の問題に集中したいこともあり生返事で返す。と、昼休みの終わりを告げるチャイムが。

「わーい終わり!」

「・・・放課後持ち越しだよ。ところで」

「う・・・・はい。でもネクタイ嫌いなんだよなー・・・」

 雲雀の手には数学の教科書と山本のネームの入ったネクタイが。シャツの襟を立てるとスルリと雲雀がネクタイを首に回し、そのまま結んでくれる。

「雲雀って奥さんみてえ」

「嫁が何にも出来ないから夫は苦労するよ」

「で、できねえ訳じゃねえよ!やりたくないだけ!」

「突っ込みどころがそっちっていうのが君らしいよ」

 どっちが嫁でどっちが夫か、はどうでもいいらしい山本に雲雀が微かに笑う。

「次はその片瀬の数学でしょ。嫌味言われないうちに早く行きなよ」

 ブレザーのボタンまできちんと留められてしまった山本は、少々顔を赤くしながら、小さく「さんきゅ」と言って、雲雀の手から教科書を受け取ると、走って応接室を出て行ってしまった。
 その後ろ姿を眺めながら、雲雀はボタンを留めた山本ってへん、と何となく思う。彼には見た目ルーズな印象があり、またそれが似合っていた。
 譲らない頑固さと、何もかもを受け入れようとする懐の深さ、一本芯の通った中身とその外見のギャップが誰も彼もを惹き付けて止まないのだろう―――この僕もね。
 そしてそんな個性が、片瀬のような生真面目な教師には気に入らない。

『なんだその服装は!服装の乱れは心の乱れという言葉を知らないのか!?』

 同じような格好をしている生徒は他にもいるのに何故か山本だけを注意する場面を幾度と無く目にしている。
(何度言われても直そうとしないあの子もあの子だけど)
 隣の獄寺がタバコのにおいを纏わり付かせていても、どんなにアクセサリーの類をジャラジャラしていたとしても山本だけに向けられる敵意。
(あんな子供に『お前が嫉ましい』とは言えないだろうしねえ。第一そんな感情があることも、教えた所で認めはしないだろう)

 ま、あんまり煩かったら僕が噛み殺せば良いだけだし。彼に手を出す人間は教師であろうとなんであろうと許さないよ―――そんな物騒な考えを、何故か自分でもいたく気に入って雲雀はうっそりと微笑んだ。




 何だかんだと言いながら、山本は応接室での勉強をサボったりはしなかった。
 雲雀の教え方は自分には合っていたし、何よりもやはり一緒にいられる時間がうれしかった。
 雲雀に『恋人』と断言されるのはちょっと難だが、好きだと思う相手が近くにいるのは単純に嬉しい。・・・たとえ苦手な国語の教科書が目の前に開かれているとしても。

「明日はのっけから数学と国語か・・。一通りの復習はしたけど一応ヤマ張ってあげるから、教科書貸しなよ」

 蛍光ペンでラインを引いていく雲雀の指を見つめて、少しだけ心細そうに山本がつぶやいた。

「ひばりとこうして勉強できるのもあともうちょっとかあ・・」

 窓の外はちらちらと白いものが舞い始めている。当然のように季節は移り変わっていく。自分達の関係も、今年一年で随分変わった。

「ありがと、ひばり。俺明日からの試験は今までのどのテストより良い点取れる気がする」

 にっこりと笑って鉛筆を置くと、山本は窓を開けて「寒いはずだよな〜」と言いながらふわふわと落ちてくる雪を楽しそうに手の平で受け止めている。
 てらいもなく礼を言えることは、山本の美徳の1つだと雲雀は思っている。
 雲雀は窓辺の山本の傍に立つと、振り返った山本の寒さで赤くなった鼻の頭に「頑張ってね」と、おまじないを1つ施した。




 (すげー・・雲雀がヤマ張ってくれたトコ、どんぴしゃで出てる!)
 二時間目の数学、とりあえず昨日、雲雀がラインを引いてくれたところだけを重点的に繰り返していた山本に女神は微笑んでくれたらしい。
(神様仏様雲雀様さまだな) ふんふんと鼻歌まで出てしまいそうだ。ふと頭を上げると、もともと頭のいい獄寺はすでに解き終わったのか、テストの裏になにやら落書きをしている。その左後方の綱吉を見るとこちらはいつものごとく悪戦苦闘しているようだった。
(ツナ、ごめん。今回は俺、赤点仲間になれないかも!)
山本が心の中で綱吉に向かって手を合わせた、その時。
(・・・?)
 その綱吉の1つ置いた右側の席、秀才と名高い荒井直哉が机の中を手で探っている。教科書はあらかじめ鞄の中に仕舞わされているから、机の中は空っぽのはずだ、しかし―――。
 教師からは見えないくらいの位置であることは違いないが・・・
(お、おいやべーって・・!)
 荒井が机の中の上側を探ったかと思うと、一枚の小さな紙がその手の中に落ちてきた。小さな紙片には細かい字でびっしりと数字やら何やら書いてあるようだ。
(なんつー古典的な・・・カンペかよ・・・!?)
 カンニングしていたことがバレたりしたら絶対まずいことになる。教師が気付いていないうちに何とかしてやめさせないと・・・!
 そう、山本が思った瞬間、かつりと指先に鉛筆が当たりそのまま床に落下してしまった。
(やべっ・・・!)


「山本!!」

 鉛筆を拾おうと身を屈めた山本に大きく声を掛けた教師―――片瀬がツカツカと歩み寄ると山本を一瞥した後、そのままテスト用紙に手を伸ばし、ジロジロと山本の解答に目を通しすとその表情が少しずつ険しくなって行く。
(・・・なんだよ?)
片瀬をいぶかしみながらも、鉛筆を拾って席に着こうとした山本の手がいきなり掴まれガタンと音を立てて椅子がひっくり返った。
 驚きに目を見開く山本を片瀬が無理矢理引きずるように教室を出ようとする。

「ちょっ・・・!?」


「なになに」「どうしたの?!」突然のその様子に一瞬にして教室が騒然となった。ずるずる引きずられながらもわずかな抵抗を試みながら山本は必死に叫んだ。

「な、なにすんだよ先生!」

「・・・・しらばっくれやがって。いつかお前はやるんじゃないかと思っていたよ」

「・・・何?」

「荒井のテスト、盗み見ていただろう!」

「ええ!?」

 あっけに取られた山本だったが、それは誤解だと弁解しようとして教室を振り返ると、真っ青になっている荒井に気付いてハッとその口をつぐむ。

「職員室に来い!」

 ざわざわとさざめいている教室から携帯で主任教諭を呼び出すと、あっさりと抵抗を諦めた山本の腕を掴んだ片瀬は、ギラギラとした目で正面を睨んだまま、そのまま乱暴に引っ張って教室を出て行ってしまった。

「そんな・・・山本・・?」

 後には信じられない面持ちで、心配そうに見送る綱吉や級友たちが教室に残された。




「なんで?」

3限目のテストが終わった後、応接室で山本が来るのを待っていた雲雀のもとへドタバタとやって来たのは未来の当主、沢田綱吉だった。 ―――山本はといえば未だ職員室から出てきていないという。綱吉から事情を聞いた雲雀はその柳眉をわずかにひそめた。
(あの子がそんなことをする訳が無いのに・・・)
教師も大多数の生徒達もきっと今の雲雀と同じ気持ちだろう。嵌められた、とは言わないが、何らかの誤解が生じているのはあきらかだ。
(だけど)
なぜ、山本が弁解しようとしないのかが解らない。山本が一言『自分はやっていない』と言えば、事態は違う方向へ動くのだろうに。
(なにか、あったのか?)
ここでこうしていても埒が明かないとは思うが、自分が動いてかえって大ごとになるのは得策ではない。

「いずれにせよ、彼が釈放されるのを待つしかないよね」

雲雀がそう言うと、何か言いたそうな顔をしていたが綱吉は黙って頷いて応接室を出て行った。



(あの子、そういうとこ意外に頑固なんだよね・・・)
言わなくてもいい、と一度決めてしまったら、そのことに関してはかたくなに口を閉ざすところがある。(だけど言わなければ自分の立場が危ないってことも、わからない訳ではないだろうに)
きっと今彼の目の前にはあの片瀬が陣取り、周りで他の教師達が困り果てているに違いない。

「あの子も要領がいいって訳じゃないしね・・・」

 周りと衝突しないのは笑顔の下で一歩下がって見ている事と、やはりあの天然さによる所が大きいだろう。雲雀をごく普通に心配し、他の者と同じように声を掛け、そうして信頼している、と心を預ける。
 そのことがどれ程雲雀を喜ばせているか、もちろん本人は少しも気付いていない。
(参るよほんと、可愛すぎて。今更手放せって言われても―――絶対無理。)
 可愛い彼氏がどんな目に合わされているか、顔には出ずともやはり心配な委員長だった。



 山本のことは当然すぐに職員会議に掛けられた。山本は「それだけは止めてくれ」と哀願したらしいが父剛も呼ばれ、担任と、学年主任と、テストを監督していた片瀬の4人で何とか山本に口を割らせようとしたが、「やりました」とも「俺はやってない」とも言わなかったという。
 とはいえ来年には高校受験も控えており、テストを受けさせないのはまずいだろう、ということで、テスト期間中は一人別の教室で監視を付けて受けることに決まったそうだ。




「・・つっかれた〜・・・・」

 翌日目の下に隈を作って応接室に現れた山本を見て雲雀は驚いた。左頬がどす黒く腫れている。

「ああこれ?」

 雲雀が何も言わずにその頬を凝視していたことに気付いた山本が、まだ痛いのか、しかめっ面をわずかに崩して笑った。

「昨日帰ってから親父に殴られた」

 説明の出来ない女々しい真似すんなーって、ガンってさ。親父もわりと白と黒、はっきりさせたい人間だからなー。
 父親のまねをして怒った振りをする山本に、大して悲壮感は無い。

「お父さんにも、言わないんだ」

「うん。もう俺の処分も決まったんだし、いいよ。」

 ―――こうなってしまったこの子は、たとえ僕だろうと親友だと言う沢田綱吉だろうと頑として口を割らないだろう・・・。

「せっかく、勉強教えてもらってたのに、こんなことになってごめん」

 そんなところだけ声のトーンを落として、一人でテストを受ける部屋に向かうために山本はドアを開け、閉める瞬間

「ほんとにゴメン」

と雲雀を見て切なげに目を細めた。



 生徒達は皆二学期の締めくくりのテストに戦々恐々としていた中、前日にあんなことがあったため教室を監督する教師が1人から2人に増えたこともあって、みな一様にやり辛さを感じていた。
 大方の生徒は山本に同情的だったが、やはり「山本がカンニングなんて馬鹿な事しなければ」などと噂し合う者も居ない訳ではなかった。
 そうして、そんな山本の話が耳に入ってくるたびにいたたまれない思いをしている者が一人、いた。



              つづく

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