キリ番リクエスト
8888アゲハ様リクエスト(なつこま激甘!?)ムコ王子編・恋の嵐
 俺がこの秋元家の次女、秋元こまちをもらい受けに行って逆に婿養子に迎えられてからはや数週間。何故かまだ式も挙げていないというのに同じ屋根の下で暮らし始めてしまったが、それはそれで俺としても愛しいこまちの色々な面が見られて嬉しい限りだ。
 一応まだこまちが結婚できる年齢に達していないということで部屋は別々だが、朝起きると真剣な顔で朝ごはんを手伝っている彼女、(実は料理はあまり得意ではないらしい)和菓子修行をしている俺の仕事着の着付けを手伝ってくれる彼女(ただの作務衣なんだが)風呂上りのほんのり頬を染めた浴衣姿の彼女。
 家族の目があるのでうかつに手を出せないのは残念だが、来年の6月に式を挙げるのは決まっているのでそれまでせいぜいこまちの可愛らしさを堪能させてもらおうと思っている。
 こんな腑抜けた様をココがみたらさぞや馬鹿にされるだろうとは思うが、所詮恋する男なんて皆似たり寄ったりのものだ。今までずっと周りにも俺たち自身にもブレーキをかけてきたのだから少しくらい許して欲しい。

 ところで、1つだけ、実は気に掛かっていることがある。

 俺たちは一度、悲しい別れを経験している。それは初めからわかりきっていたことだったのだが、俺もこまちにとってもそれはとても辛い別れだった。お互いのことが本当に好きなのに、大切なのに、どうしても離ればなれにならなければならない大きな理由がそこにあった。あの時、手を伸ばして連れ去りたいとどれほどその手を取ろうとと思ったことか。
 後でかれんに聴いたのだが、放課後になるとこまちはいつも店があった場所に行って、何時間でも立ち尽くしていたそうだ。それこそかれんが「もう帰ろう」とこまちに呼びかけるまで・・・。
 そんなことがあったせいか、「もうどこにも行かない」と約束したにも拘らず、どうもこまちはそれが信じられないらしい。
 いや、信じたくても不安なんだろう、気付くとこまちの心配そうな瞳と目が合うのだ。変な話、夜中にトイレに行きたくなり、小用を済ませてドアを開けたところにこまちがぼうっと立っていて普段冷静な俺もそれはそれはビックリさせられたこともある。

「・・・どうしたものかな・・・」

 彼女を安心させてやりたい。一緒に居ても安らげないのではあまりにも可哀想だ。そうして俺はあることを、とても大切なことを思い出した。




 夕食をいただいた後、片づけをするこまちをお茶を飲み、新聞を読むふりをしながら盗み見る。まどかさんと和やかに談笑しながら、それでも視線はちらちらと俺の方を気にしているようだった。
 新聞をたたんでカタン、とナッツが席を立つとこまちがハッとしたように振り返る。

「片付けはもうすぐ終わりそうか?」

 ナッツの問いかけに、わずかに肩を震わせたが、こくりと頷いたので

「じゃあ少し話をしないか?部屋で待っているから」

 そう言い残してこまちの視線を背中に受けたまま台所を後にした。




「ナッツさん?こまちです、入ってもいい?」

 自室で風呂に入る支度をしながら待っていると、控えめなこまちの声がした。戸を開けて中に入るように促し、小さなソファに二人並んで腰掛け、そっと彼女の肩に手を掛ける。
 そのまま顔を寄せれば彼女の声と同じく、柔らかく涼しげなシャンプーの香りがして俺は軽く目を閉じた。

「・・・こまちは、何をそんなに怖がっている?」

 俺の肩にほんの少しだけ体重をかけてもたれながら、彼女の肩に触れている俺の手にそっと自分の手を添える。

「・・・こうして話して、触れあっていればナッツさんだ、って。ここにいるのは本当のナッツさんだって、思えるの でも・・」

「でも?」

「ほんの少し目を放してしまった隙に、いなくなってしまうんじゃないかって。ううん、もしかしたら私が見ているのは既に幻なんじゃないかって・・・思ってしまうことがあって・・・」

俺はこまちの肩に触れる手に力を込める。

「そんなに心配するな。本当にもうこまちの前から居なくなったりしないから・・」

 俯いたまま俺の手を優しく握り返しながら、それでも寂しそうな声でこまちは言う。

「・・・そうね。でもナッツさんがいなくなってから、私何度も夢を見たわ。何度も何度も夢の中であなたは今と同じように“もう離れないから”って言ってくれて・・・。でも目が覚めてナッツハウスに行くとそこにはもう何も無くて・・。馬鹿みたいでしょう?」

 俺はいたたまれなくなった。俺がパルミエ王国に還る前、こまちは大抵いつも笑っていた。俺が何もかもを諦めそうになった時は優しく諭し、励ましてくれた。彼女の夢を追う姿にどれ程勇気付けられたことか。



(なのに君は)



 自分の寂しさをずっと奥に沈めて、俺が居なくなった後は幸せだった思い出だけ探して――――泣いていたのか・・・・?



「こまち」

 耳元でその名前を呼ぶとそっとこまちが顔を上げた。優しくカーブを描くその眉尻に、薄いまぶたに、柔らかい頬に、ゆっくりと唇で触れるだけのキスを落としながら俺の手に触れている反対側の手をゆるく持ち上げる。そうしてほっそりとした白いその手の薬指にくちづけると俺は用意していたある物を取り出した。
 するりと薬指に納まったそれを見て、こまちが目をまたたかせる。

「あの・・これ・・・」

「なんだかトントン拍子に話が進みすぎてタイミングを逃してしまったんだが」

 こまちの細い指に測ったように馴染むきれいな翡翠色の指輪。

「こまちが不安に思うときはいつでも話しかけて欲しいし触れて欲しい。でもそれができない時でも、俺はちゃんと傍に居るから」

 こまちがあの夏祭りの時の、翡翠色の行灯を今もずっと机の上に飾っているのをナッツは知っていた。
 ダイヤモンドの指輪なんて贈ることはできないけれど、愛しい彼女に、美しい、心のこもった指輪を自分の手で造ってあげたかった。
 何度もデザインを描き直し石を選び、角度を確かめながら削って造った。彼女が自分を想ってくれていたのと同じように、自分もこまちの笑顔を想い出しながらいつか会える日のために造ったのだ。

 ナッツの話を聴きながらこまちはその瞳に溜まった涙をそっとぬぐうと、ナッツの一番気に入っているあの顔でやわらかく微笑んだ。

「ありがとう」

「・・・いや・・」

 あらためて礼をいわれて気恥ずかしくなりそっぽを向くと、その向こうを向いた顔を追い駆けてこまちの手が優しくナッツの頬に触れる。
 そのままソファの上に膝立ちになって見下ろすようにもう片方の手でも触れ、ナッツは顔を包むように抱きしめられた。



「でも、傍に居る時はあなたを感じさせてね?」



 こまちの柔らかい胸とたおやかな腕にからめとられて、暴走してしまいそうな自分の気持ち(と身体)を抑えるのに、必死で理性を総動員させなければならないナッツだった。



 次の日からこまちの心配が無くなったか、と聞かれればそうでもない、と思う。けれど彼女の瞳から不安の色は見えなくなり、代わりに彼女の方から俺に触れてくる回数がぐんと増えてしまった。
(・・・嬉しいは嬉しいんだが・・・)
 触れてくるのは手とか肩とか、どうってことない箇所なんだが、なにぶんこちらも健康な成年男子な訳で・・・。
(この天然小悪魔め・・・!!)
けれどにこにこと嬉しそうな顔で左手の薬指を見つめているこまちを見ると何も言えないナッツなのだった。





           おわり


どうでしたでしょう、激ってほど甘く無かったですかねー・・・(><;)でも砂糖7杯くらい入れたつもりなんですよー。トップの絵と合わせて見て頂くと極甘に・・・だめですかー!?アゲハ様リクありがとうございました!!

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あきゅろす。
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