キリ番リクエスト
7250なつこま番!!  桃色吐息
 サンクルミエール学園中等部の、のぞみにとって貴重な貴重な昼休み。カシマシ娘3人組は聡明なる生徒会長かれん、優しくてちょっと天然なこまちが来るのを待って ともにお昼ごはんを食べようとしていた。



「っくしゅん!」

お弁当の包みを開けようとしていた4人の手が一瞬止まる。

「こまちさん風邪ー?」

「大変、保健室に行かなきゃ!」

 ガタリと椅子を立ったかれんをあわてて制して、こまちは困ったように微笑んだ。

「違う違うの!かれんを待っている間少しだけ図書館で本の整理をしていて、ちょっと埃っぽかったものだから沢山くしゃみが出ていたのよ。今のは その名残よきっと。全然風邪なんかじゃないの!」

 あせったように言い募るこまちにかれんはいぶかしんだものの、本人がそういうのであればそうなのだろう。確かに自分が図書館にこまちを迎えに行ったとき、くしゃみの音が何連発もしていたから。


「よほど埃が積もっていたのね」

「ええ、ちゃんとお掃除しないと駄目よね」

 こまちはわずかに赤くなった頬を隠すように両手で挟み込むと、そっと、誰にも聴こえないほどに小さく息をついた。




 放課後、生徒会の引継ぎをするかれんとフットサル同好会のりんを残して、3人でナッツハウスへと向かう。
 日一日と太陽の出ている時間は短くなり、4時30分現在、陽が落ちかけてやや薄暗くなってきている。

「こーんにーちはー!」

 元気な声でのぞみがドアを開けるといつもそこに居るはずのナッツの姿が無く、三人は顔を見合わせた。

「私二階を見てくるわね」
 
 こまちはそう言って、階段を心なしか足取り重く上がっていく。と、すぐにナッツがレジの下から顔を出した。

「あれー?どうしたのそんなところで」

「いや・・・実は・・・」

 いつになく歯切れの悪いナッツに うららとのぞみが「?」を浮かべていると、チョイと窓の外を指差した。
 2人がそちらを見やると、小学校低学年くらいの小さな女の子と目が合った。

「たまたま店の前で落としたハンカチを拾ってあげたんだ。そうしたら・・・」

「・・・・は〜ん、ナッツに惚れちゃったんだ〜」

「きゃー!小さな恋のメロディ(?)ですねー!」

「このこのーっ女泣かせーっ!」

 にんまりと笑って楽しそうに言うのぞみに同調したうららが歓声を上げている。

「人事だと思って・・・!」



「でも、あんなに小さいから冷たいことも言えないのよね?ナッツさんは優しいから」

 ハッと顔を上げるとこまちがこちらもまた眉根を下げて微笑んでいる。

「・・・楽しんでいるだろう」

 ちょっと拗ねた顔をして横目でこまちをねめつける。

「そ・・・!」

「そんなことない」と言おうとして、こまちはガクンと階段を踏み外してしまい、そのまま尻餅をついてしまった。

「こまち!?」

「こまちさん大丈夫ですか!?」

 すぐさまナッツとうららが駆け寄って、床にぺったりと腰を降ろしてしまったこまちを心配そうに見ている。

「あ、だ、大丈夫 大丈夫 ちょっとびっくりしたけど」

 踏み外したのはたった一段だったので、別段痛いところも無く、こまちはすぐに立ち上がろうとした。が、そのこまちの手を取り上げたナッツがいきなり怖い顔をして彼女を抱き上げた。

「なっ!ななナッツさん!?」

 いわゆるお姫様だっこにどぎまぎして、こまちのもともと少しだけ赤かった頬は更に赤みを増して行く。

「えー、どうしたのー?足でもくじいたのー?」

 憮然とした表情で階段を上がりながら、階下でナッツの突然の行動を不思議そうな顔で見守っているのぞみとうららに一言。

「熱がある」

 2人が「え?」とお互いの顔を見合わせている間に、こまちを抱えたまま、さっさとナッツは自室に潜ってしまった。




「まったく、こんな高い熱があるのに何でここに来たんだ」

 ブツブツ文句を言いながらもその手は優しくこまちをベッドに横たえ、毛布と軽い羽根布団を掛けてくれる。そうして冷たく濡らしたタオルをこまちの少し汗ばんだ額に乗せると、「薬を買ってくる」と言って素早く出て行ってしまった。




(怒られちゃった・・・)

 毛布の端を握り締めて、ほてった顔の鼻から上だけを覗かせたまま、部屋の中をぐるりと見回す。
 ――――もしかしたらこのベッドで彼も眠っているのだろうか、このベッドに腰掛けて本を読んだりするのだろうか・・・。
 毛布からふわりと漂う清潔な香りはナッツの衣服にしみこんでいる、いつもこまちを包み込むあの香りと同じもので、何故か急激にそれを思い出して恥ずかしくなった。
(わ・・・私熱のせいで頭がおかしくなっているのかも・・・)
 熱だけのせいではなくドキドキと高鳴っている胸を片手でぎゅうと押さえ込んで、こまちはのぼせてしまいそうな頭から毛布をばさりと被った。




「のぞみ済まないが店番を頼む。うららは一緒に来て必要なものを選んでくれ。俺一人では何を買えばいいのかわからない」

 ツカツカと足早に階段を降りてきたナッツは、二人の間をすり抜けざまそう言って、うららの腕をひっつかむと驚いているのぞみには目もくれず、珍しく乱暴にドアを開け放ってうららを引きずって行ってしまう。

「・・・はあ・・・?」

 後にはぽかんとしたのぞみと、張り付いていた窓から顔を離してナッツの背中を見送る少女だけが残った。




 やんわりと頭を持ち上げられて、こまちは自分がいつの間にか眠っていたことに気付いた。
 なんだか咽喉が酷く熱い
(ああ 熱が出ているんだったわね・・・)
 昨夜、書きかけの小説をどうしても書き上げてしまいたくてついつい根をつめすぎた。
(ナッツさんに読んで貰いたかったのに・・・)
 背筋を這う寒気に目が覚めたのが朝方の4時過ぎ、結局書きあがる前に眠ってしまったらしい。文机に伏せってうとうとしてしまったせいで、どうやら風邪を引いたようだった。それでも三限目までは何ともなかったのだけれど・・・。
 ――――“図書館で本の整理をしていてくしゃみが出た”なんて嘘だ。
 ああでも言わないと心配症のかれんに引きずってでも保健室に連れて行かれただろうし、熱があるとわかった途端、校内では使用禁止と決められているにも拘わらず、それを決定した生徒会長自らが禁を破って携帯電話で爺やさんを呼び出した挙句、あの恐ろしげなリムジンで我が家へと送られてしまっていただろう。
(・・・こうなることまで考えてたわけではないんだけど・・・)
 今、自分の頭の下にはナッツの大きな手によって氷枕が差し込まれ、額には熱取りのシートがピッタリと貼られてしまっている。おまけに何故かベッド横のチェストには桃の缶詰が二切れ、ガラスの器にちんまりと鎮座ましましているのだ。
(桃の缶詰って・・・)
なんとなくナッツと桃の缶詰の組み合わせが思いつかなくて、切ない吐息と一緒に笑い声を漏らしてしまったこまちの頬を冷たい何かが触れた。

「あ、すまない 驚かせてしまったか?」

 こまちを挟んだチェストの反対側に腰掛けて、ナッツが熱に浮かされて真っ赤になっているであろう自分の顔を覗き込んでいた。

「薬を買って来た。起き上がってのめるか?」

 咽喉が痛くて声が出ないので、こくんと首を上下に動かす。億劫な身体を無理矢理起こすと、ナッツがその背を支えるように自分の肩にこまちの頭をもたれさせ、そうして「口あけて」と言う。



「・・・・・・・」



 言われた意味がよくわからなくてナッツを見上げると「・・・だから、そんな目でこっちを見なくていいから」と見間違いでなければわずかに頬に赤を引いたナッツに視線を戻され、そのこまちの口元に薬を摘んだ長い指があった。

(・・・ええと、これは・・・)

 働かない頭で懸命に考え答えを導き出そうとするこまちにナッツが低く甘い声でささやく。

「くち、あけて」

 気の無い女でも堕としてしまうのではないかと思われる、鼓膜を震わせるその声に こまちのけだるい身体は更に力を奪われて、ナッツの胸に顔を埋めてしまった。
(ま、待って!こ・・こんなときに、そんなプリンスボイスで・・・!)
ドキドキどころの話ではない。もう心臓は今にもこまちの胸を突き破って出て行ってしまいそうだ。

「こまち?」

 もしかして具合が悪くなって顔も上げられなくなっただろうかと「大丈夫か?」と声を掛ければ、俯いたままこっくりと頷く。

「・・・仕方ないな」

 ナッツは指に持っていた二錠の薬を水と一緒に自らの口に含むと、俯いているこまちのほっそりとした顎に手をかけ上向かせておもむろに流し込んだ。

「・・・っ!」

 瞳を見開いたまま、熱で力の入らない腕で何とか縋りつくようにナッツのシャツに手を掛けるが、それ以上どうすることも出来ない。
 口内に流れ込む薬と共に、水で冷たくなったナッツの舌がスルリと入り込み、こまちの熱い頬の内側をゆっくりとひと撫でし、優しい音を立てて去っていく。 その一連の動きが、あまりにも手馴れているような気がして、こまちは何だか泣きたくなった。
(私がナッツさんの動作一つ一つにこんなにドキドキするのに、この人は王子様で大人で、子供の私なんて軽くあしらってしまえるんだわ)
 こんな思考になってしまうのは明らかに熱のせいだったが、それをそうと自覚するには こまちはまだ幼かった。訳も無くイライラして、目頭が熱くなる。(泣かないって、笑ってるって決めたのに)
 潤んでしまった瞳を見られたくなくてギュッと目を瞑っていると、更に具合を悪くさせたかと勘違いしたナッツはこまちの首元と両足をわずかに浮かせて再びベッドに彼女のその身体を横たえた。

「そういえば・・」

 キシリ・・・とベッドを軋ませて、こまちの汗ばんだ額に張り付いた髪をよけてやりながら、少し楽しそうにナッツが話し始める。

「うららが言っていたんだが風邪には桃缶がつき物だそうだな。俺たちの国には風邪という病気自体がないから、そういうものを食べるのが良いというのは初めて知った」
「うららは風邪を引くと必ずお祖父さんが桃缶を買ってきてくれるそうだ。さっき一口食べてみたんだが結構美味いな」


・・・薬と一緒に甘い味がしたのは桃のせいだったのね。


 美味しいもの大好きのナッツは一口かじってもっと食べたかったに違いない。でも自分に食べさせるためにちゃんと残してくれたし、薬を飲ませるためにすぐにここに来てくれた。―――はず。
 こまちはちょっとだけ気を取り直してナッツの方へ身体ごと向き直ると、先程の小学生のことをかすかにしか出ない声で聞いてみた。

「ああ、あの子にも丁重にお断りしたぞ」

 何をいまさら、といった風に答えるナッツにこまちの目が丸くなる。

「申し訳ないが心に決めた女性がいる、と言ったらすぐに帰って行った。さすがにあの年頃の少女と付き合うのは犯罪だろう?」

 珍しく冗談を言って口元を緩めたナッツを潤む瞳でじっと見つめる。――――そうなのかしら、でも私も考えてみたらまだ15になったばかりなのよね。そういえばナッツさんてほんとの歳はいくつなのかしら。あら?だいたい心に決めた女性って誰のこと?

 また上がってきた熱にうかされながら、ぼんやりと取りとめもなく考えていると、いつの間にかほんの数センチも満たないところにナッツの顔があって、やっと静まってくれた心臓がまた高鳴りだす。

「・・・・・・っっ!!」

「なにもしやしないから」

 ナッツはただこまちを抱きしめるように覆いかぶさって、彼女の熱い頬に自分のそれを触れ合わせた。

「さっき家の方に電話しておいたから。まどかさんが迎えに来るそうだ。心配していたぞ」

 ゆるく抱きしめる腕が心地よくて、薬も効いてきたせいか、だんだんとまぶたが落ち始める。

「―――こまち?・・・・なんで、具合が悪いのをおしてまで此処に来たんだ?」

 いとおしそうな、少しさみしさの混じったような心地よいナッツの低い声に意識はたゆたう。

「・・・・」

 途切れてしまいそうなそれを懸命につむぎながら、こまちは咽喉を震わせて微笑んだ。



「・・・あなたに、どうしても、あいたかったから・・」


 それだけ言うと、くたりとナッツの腕の中でこまちは意識を手放した。そのこまちを抱えたまま、ナッツはまるでこまちの風邪がうつってしまった様に真っ赤な顔をしてベッドに突っ伏した。





「・・・・勘弁してくれ・・・」


 どんなに王子様然としていたくても、この少女はたった一言でこんなにも自分を無防備にしてしまう。
 色気のある女性でも、知的な大人の女性でもなく、ただ彼女だけがそうすることができる、ということを彼女はまったく気付いていない。



「まったく、君には勝てないな」

 抱きしめていた腕をはずして きちんと毛布を掛けなおすと、ナッツはこまちの少し濃い桃色に色づいた唇に羽のようなキスを一つ落とした。


「もう少しおやすみ 俺の眠り姫」



 王子様がお姫様にするような優しく甘いくちづけを――。



                 おわり







一番リクの多かった「あまあま」!私的には極甘だったつもりですが・・・どうでしたでしょうか。やきもちはこまちが焼いちゃいました!ココナツみたいなふんわり甘いキスになっているでしょうか?!なつ攻め×天然こまちです!コメントくださった方のご要望に一応沿っててんこ盛り!!です(^^)アンケート投票してくださった皆様どうもありがとうございました。書いててとっても楽しかったです

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あきゅろす。
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