キリ番リクエスト
6666hitリクエスト 彼らの事情<10年後ヒバ山>
 長く広く薄暗い廊下を長身の2人の青年が音も無く足早に歩いていた。
 一人は黒尽くめの上下に更に帽子を被り、手には愛用の銃チェコ製のCZ75−1STを無造作に光らせている。もう一人はこちらも上下黒のスーツに身を包み、両の手に長いスティールの棒を携え、口元には微笑を浮かべながら、しかしその目は少しも笑ってはいなかった。
 長身の、ともすれば絵になりそうな二人だったが、なされている会話はとてもじゃないが常人であればあまり聞きたくない話だった。



「なぜ、彼が怪我をしたことを僕に言わなかった」

「お前に言うまでもねえ、取るに足らねえ怪我だからだ」

「・・・あの山本が、集中治療室に入るほどの怪我が?」

「ちゃんと病院から出てきたのを見りゃわかんだろ」

「・・・・・そうだね。で、彼が怪我で動けないのをいいことに彼を犯した――――と?」


 しんとした廊下に一瞬殺気がみなぎる。チキリ・・・と撃鉄が起こされる音とともに雲雀の持つトンファーはリボーンの喉元へ。だがボンゴレ邸内でのファミリー同士の私闘は禁じられている。2人は構えたお互いの武器をそっと下ろした。

「犯したって言い方は気に食わねえ・・が、抱いたのは確かだな」

 目深に被った帽子の下で口元をわずかに歪め、無敵のヒットマンは言い捨てるように言葉を吐く。

「まったく忌々しいほどに誰かさん好みに仕上がってる感じだったぜ。抱き心地は良かったが・・・あれじゃお前以外にゃ持て余しちまうだろうよ」

 雲雀は不機嫌そうに鼻を鳴らすと、ヒュッとトンファーを一振りし、袖にしまってまた歩き始める。
 その後ろを歩く最強の元家庭教師はあの夜のことを思い出しながら、苦々しげに銃を懐へと戻した。




 集中治療室を出た山本は、ボンゴレの擁する病院をとっとと出てボンゴレ邸内に宛がわれている自室で療養中だった。
 今回の怪我で出来た傷は銃創が三つ。部下を庇って敵の懐に飛び込んだところを後ろから撃たれ、運悪くその1つが肺に突き刺さった。
(突き刺さっただけで良かった。貫通してたら俺今ココにいなかったな)

 
 朦朧とする意識の中で考えたのは何故か雲雀のことだけだった。それも、俺が死んだら泣いてくれるかな、とか、ちゃんと飯食えるかな、とかじゃなくて
 ―――――ただ「会いたい」と。
(夢、だったのかな・・・)
 ただうわ言のように「ひばりに会いたい」と繰り返す自分の手を強く握り返し、抱きしめてくれた誰かがいたような気がする・・・。ずっと雲雀だと思っていたけれど、目が覚めた時、獄寺に尋ねたら雲雀はまだ任務から還っていないという返事だったから、自分がこんな風になっていることすら知らないだろう。


「知られて無いならそっちの方が好都合だけど」

「何が好都合なの」


 開いてもいないドアの向こうから耳に馴染みすぎた声が聴こえて、動かない身体がわずか飛び上がった。

「ひ・・ひばり!?」

 ガチャリとドアが開くと同時に抱きすくめられ、山本は呻いた。

「ひば・・り・・・痛い・・・っ」

 肺以外は致命傷ではないとはいえ、銃で撃たれた傷なのだから痛くないわけは無い。けれど雲雀はその腕を決して緩めてはくれず、それどころか珍しいことに不埒な腕がわき腹をなぜている。

「・・・・・?」



 山本が怪我をすると雲雀は大概「ばかだね」と言ってその硬い手のひらで頬を軽くたたいたあと深く深く口付ける。そうして気持ちよさに意識を手放した自分を決して抱くことなく寝かしつけるのだ。
(再び起きたときはものすごいことをさせられるのだが)


「?どしたひばり」

 傷は痛むが、常と違う雲雀の様子の方が気に掛かって、わき腹を撫で続けるその手にそっと自分の手を重ねて言葉を促す。

「君から、いつもと違う匂いがする」

 雲雀の言ったことを反芻しながら山本は、そういえばしばらく病院にいたせいで、消毒薬のにおいが沁み込んでしまったかな?と思った。

「わり、ちょっと・・いや大分怪我しちまって雲雀がいない間入院してたもんだからさ」

 雲雀はわずかに顔を離すと山本の目をじっと見つめるが、嘘や冗談を言っているようには感じられない

(―――覚えて・・・いない?)

「あー、でも良かった」

 雲雀が腕を緩めてくれたおかげでやっと安堵の息をつくことができた山本は すり、と自分から雲雀の首筋に顔を寄せる。

「あのまま目が覚めなかったらどうしようかと思った」

 朦朧とした意識の中で、会いたいと願った恋人が今ここにいる。

「俺さ、ひばりが傍にいてくれるんなら世界がこのまま終わってもいいよ」

 傷のついた頬を自分に摺り寄せた山本がほわりと笑うその様を見て、雲雀はいきなり腑に落ちる。


 ―――そうか あのヒットマンが苦々しく言い捨てた訳はコレか。



 傷だらけの山本に無体を働く気はさすがに起こらず、いつも雲雀は自分でもおかしいのではないかと思う程に優しく暴言を吐いた後、「もう気を張る必要は無いんだ」とわからせるように頬を軽く叩いて深く甘く口付けを施す。
 山本はいつも自分を省みずに前線に出て、誰かを庇って怪我をする。それはひとえに彼の強さを過信しすぎる仲間や部下、そして彼自身にも非はあるのだけれど、雲雀にはそれがやるせなかった。守るべきは守護者である彼の役目であり、庇護されるものの弱さを責めたとて仕方の無いこととはわかってはいるが・・・。
 彼の口内を味わいながらゆるく背をさすれば、安心したようにその身から力は抜け、ゆったりとたゆたう様に深い眠りに落ちていく。それはまるで1つの儀式のように――――。

 きっと、山本は無意識にその手を伸ばしあの殺し屋教師に雲雀と同じことをねだったのだろう。
(それは、可哀そうにね・・・)
フ、と笑った声が山本に聴こえたらしく小首を傾げる。10年前と変わらぬそのしぐさに雲雀は微笑み、

「・・・まったく、君のおかげで寿命がわずかに縮んだ気がするよ」

そう言って山本の身体をベッドに横たえると「ほんとに、ばかだね」と頬をたたく。
 いつものしぐさにほっと息をついたその唇に、雲雀の山本より少しだけ低い体温が触れると、それだけで身体はけだるさを呼び起こし、いつの間にか山本は雲雀の腕の中静かな寝息を立てていた。



「リボーン」

 その声に顔を上げたヒットマンは、ソファに腰を降ろした自分の太ももの上に乗り上げた美貌の女をわずかに見上げる。

「ビアンキか・・・」

 女は誰もが恐れるその男の唇にそっと指で触れた。

「山本武を犯しただなんて、どうしてそんな嘘を?」

 男は女の顔から視線を外すと内ポケットからタバコを取り出し、すると女はどこに持っていたのかスッとライターを近づけ火をつける。そんなしぐささえいちいち様になるいい女だった。

「・・・あなたが山本武を10年前から大切にしていたのは知っているのよ」

呪いを受けて赤ん坊の姿になってしまった愛しい男。“bPヒットマン”“最強の殺し屋”誰からも恐れられ畏怖の念を持って敬われてきたその彼を、あの山本武は「小僧 小僧」と馴れ馴れしく、そして親しみを込めて呼んだ。

彼の笑顔を何よりも好きだったのは、彼の笑顔を誰よりも守りたいと思っていたのは――――。


「欲しいものは奪うんじゃ・・・なかったの?」

タバコの煙をくゆらせながら男はそっと目を閉じ、ソファの横に置いたはずの帽子をまた目深に被る。



――――あの時、「会いたい・・・」と必死につぶやく山本の手を握った瞬間に今まで抑えていた欲望は一気に噴出し、強引にその唇に触れた。
ずっと手に入れたくて、諦める気なんざさらさら無くて、今のうちに寝取ってしまおう、と。

鬼のいぬまに、と笑わば笑え。卑怯者と言われようとそれで欲しいものが手に入るのならば甘んじてその言葉、受けようではないか!

山本の唇は思ったとおり弾力があり、その中は熱があるせいもあったが溶けるほどに熱く、そして甘やかだった。
 何度も何度も角度を変えては余すところ無くむさぼりつくしながら、だが肝心の山本の反応がどうも薄い。頭が朦朧としているからだとは思うものの、何人もの愛人をその舌技1つで陥落してきた最強の色事師は惜しみながら唇を離し、薄目を開けてその顔を見つめた。
 すると、熱のせいで赤くなっている頬を自分の手にいとおしそうに擦り付けてほわりと溶けている山本が目に飛び込んできて、続いてその口が呼んだ名前に愕然となる。

「ん・・・ひばり・・」

 彼から手を離すことを、そこには居ないはずの誰かに強要された気がしてギリギリと歯噛みしながらその身体をベッドへ戻す。

(あいつ・・・離れてもなお山本を独占する・・・!)

 山本の心は既にもうたった一人の物なのだと思い知らされて、殺し屋は山本を見つめたまま、その手だけを握ったまま、立ち尽くすしかなかった。



「高嶺の花ってーのは、手に入らねえのがいいんだって、誰かが言ってたっけな」

 自分を膝に乗せたまま、自分以外の誰かを想うぼんやりとした男の顔を眺めながら女は思う。



(――――だから私はあの男が嫌い)
 誰も彼をも虜にする魅力を持ちながら決してそれをひけらかすことは無い男。そして、沢山のものを抱えながら、実は本当に必要としているたった一つの物にしか興味の無い男・・・。
 いつか、近いのか遠いのかわからない未来に、彼の為に自分はあの男を殺してしまうかもしれない。手に入らないからいい、なんてらしくない言葉を聴きたくないばかりに―――――。


 けれど彼女は知っている。もしそうなったときには仲間に手をかけること等考えも及ばぬその男の為にボンゴレ最強の雲の守護者が、彼女の前に立ちはだかるであろうことを。
(愛のために死ねるなら私は本望よ)
そして、死ぬ直前に目に入る物はあなた以外にいらない・・・。



 膝の上の女をゆるく囲った腕がその力を取り戻すまで、女はかの男に口付けを施し続けた。まるで母のように恋人のように、永遠の愛だけをその胸に描きながら――――――。






              おわり






何だかヒバ山←リボ←ビアンキみたいになってしまいましたが・・・これでも私的には三つ巴・・・。きゃーーーっ!!衣柚様の落胆が目に浮かぶようですーー(><)でも精一杯かつ楽しく書かせていただきました。素敵なリクどうもありがとうございました!!

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あきゅろす。
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