キリ番リクエスト
3000番 ジョイント! 学校へ行こう!<中編>
「や・・・八重」
「あんたにそんな風に呼び捨てにされる覚えは無いわ!」
「・・・・・・八重ちゃん」
げんなりしながら、らしくなく長身をやや縮めて小さく八重の名前をつぶやく武。せっかく会わないように校内を出たというのに、神様ってやっぱりいないのかな〜、なんてキャンキャン喚いている八重を上目遣いで見ながら ぼやっと考えていると、あちら側から走ってくるのはーーーー
「神様仏様ひばりさまっっ!」
「恭兄様!」
二人同時に雲雀を呼んで顔を見合わせると、八重が思いっきり武に向かって「あっかんべー」をした。
「何で八重がここにいるの」
武に寄り添ってやや険しい声で妹に問う雲雀に 先程武に向けていた顔はどこへやら 八重は愛らしい笑顔を浮かべて言った。
「だって、男の子たちが可愛いから写真一緒に撮ってくれって言うんだもの。恭兄様が来るってわかってたから これでも早めに切り上げたのよ。そしたら山本さんがうちのクラスの夏木さんとしゃべってるんですもの、私びっくりしちゃって」
(わぉ 山本さんだって)
その変わり様にほんとに同一人物かと疑いたくなる。
「僕と武はデートの時間を削って此処に来たんだから居るべき所に居て貰わないと困るよ」
・・・仮にも小さい頃は可愛がっていた妹に その言い方はどうなのとは思うが、でもまぁ気分的には同じ気持ちなので黙っておく。
雲雀の言葉にちょっとムッとしたらしい八重は それでも大好きな兄の言うことだから口答えするのは耐えたらしい。
「・・・そうね、ごめんなさい恭兄様。大切な時間をわざわざ私の為に割いてきてくださったのに。そうだわ!私今日は図書室でお茶出しをしているの兄様もいらして!委員長の秋元先輩はあの和菓子の老舗「菓子舗小町」の娘さんなのよ。恭兄様の好物の栗羊羹をお茶請けに出しているんだから」
「菓子舗小町」なら自分も知っている。・・・何を隠そう亡くなった母がここのうぐいす餅が大好きだったので命日には必ず父剛が仏前に上げているのだ。
「行きましょ兄様」
そう言って武の反対側からするりと腕を絡ませ連れて行こうとする。(相変わらずだなぁ・・・)もう何も言うことが無くて立ち尽くしていると、ふと左手に感じる自分より低い体温。
「なにしてるの 行くよ武」
目だけで優しく微笑んで ぐいとその手を掴んだまま雲雀は歩き出した。
「ひ・・・ひばり」
少し斜め前にはこちらをチラチラと睨みながら歩いている八重が見える。居心地は悪いけれど、繋がれた手はやっぱり嬉しくて。
(もうどうにでもなれっ)
これからまた八重に何をどうされるのか多少の不安を抱えながら、武は雲雀兄妹と連れ立って、休憩所となっている図書館へと向かって行った。
そして
その後姿を見送りながら、
「へーー。雲雀さんにあんなかっこいいお兄さんがいたなんてねー。山本さんって子も面白い子だったし、何より雲雀さんておとなしいお嬢さんかと思ってたけど、あんな激しいとこもあるのねー」
と密かにフットサルやらせてみたら案外面白いかもとほくそ笑む夏木りんがいた。
三人連れ立って向かった先の図書室は、先程までの混雑が嘘のように人影まばらだった。
「ここは疲れた人が立ち寄るための休憩室です!いい若者が男性鑑賞のためにいていい場所じゃありません!!」
生徒会長の鶴の一声で皆散り散り、と言うより一目散に逃げてしまったためだ。
「あ、雲雀さんおかえりなさい」
ナッツとカウンターを挟んで和やかに話していたのをやめ、にこにこと出迎えたこまちは、八重の後ろにいる男女に目をくるりとまたたかせた。
「秋元先輩、私の兄です」
こまちとナッツに向かって雲雀だけを紹介する八重。
「そしてその彼女の山本 武でーす」
だがしかし雲雀の横に立った武はまったくめげずに大きな声でにこやかに二人に挨拶をした。
「あんたになんて何も聞いていないわよ!!」
「まぁまぁ、雲雀と手つないでんのが名無しのゴンベさんじゃお二人とも呼びようがないじゃん。名前くらい名乗ったってばちは当たんないだろ?」
うなる八重を軽く受け流して「じゃ俺あっちにいるから」と武はさっさと本棚の前のテーブルに移動して行ってしまった。武が席に着いたところを見計らっていつの間に用意したのか
「こまち、お茶」
ナッツがカウンターに黄金色の煎茶と食べやすく切り分けた栗羊羹を置いた。
「はい」
こまちはほんのり微笑むと、それを盆に乗せて運んで行く。そのあまりにも自然で流れるような雰囲気は、何故図書委員以外のしかも女子校に男が?という疑問などみじんも湧かせないものだった。
図書室の中は重厚な本棚が並んでいるが、天井から大きく垂らされた生成りの布がいい目隠しになっていた。その布の大体目の位置にあたる場所にセピアカラーの写真がところどころ貼り付けてある。
(「大正ロマン風カフェ」って感じかな?女の子の格好も和風のメイド姿だし、なかなかかわいいじゃないか)
「どうぞ」
ぼんやりと図書室を見回していた武の座るテーブルにことり、と置かれたそれ。濃い小豆色は図書室の淡い日差しの中で美味しそうにつやつやとしていた。武の目が懐かしさに和らぐ。
「ありがと。この栗羊羹雲雀の爺さん好きだったんだよな。遊びに行くと色んなもの食べさせてくれるのにさ、これだけは「わしのだ」とか言ってたべさせてくれないの」
二年前 自分の母親と同じところへ逝ってしまった雲雀のお祖父さん。師匠である父親は しょっちゅう雲雀を連れ出す武にあまり良い顔をしてくれなかったけれど、あのお祖父さんはとてもやさしかったし、母親が亡くなってからも「竹寿司」を贔屓にしてくれていた。
「武、お前はいい女だ」自分にそんな風に言ってくれるのは、父剛と、あの爺さんくらいなものだ。
「ありがとう うちの栗羊羹をそんなに褒めて頂いて。それにしても山本さんて、とても背が高いのね」
先程自己紹介されたとき、目線が自分の頭1つ違った気がしてこまちは尋ねた。
「あー・・・。俺また伸びたかもしれないんだよねー。春に計ったときは172cmだったんだけど、2〜3cm高くなったかも」
「本当に!?足も長くてモデルさんみたいだもの。うらやましいわ」
「いやいや、女の子はこまちさんくらいでいいんだよ。そのメイド服とっても似合ってるもん。俺みたいに馬鹿でかい女には無理がありすぎるでしょ?」
似合っていると言われてなんだか顔が赤くなってしまう。
(へ・・変なの 山本さん女の子なのに)
「八重もさ、ちっちゃくて可愛いだろ?あの二人小さい頃、並んでるとお人形さんみたいってよく言われてた」
カウンター近くで兄を見上げて嬉しげに話しかけている姿を目を細めて見つめる。
「お兄ちゃん取らないでって 何度泣かれたかなぁ」
武は滅多に泣かないが、なんとなく泣くのは女の子の特権という気がする。根が男勝りな武は やはり女の子の涙は苦手なので 泣かせずに済むのならそれに越したことは無いと思うけれど、・・・それでも譲れないものはある。
「こまちさんはあのカウンターのトコに居る人とカレカノなの?」
いきなりの問いかけにこまちの心臓が跳ねた。
「な・・なななななな」
「あ やっぱそうなんだ」
楽しげに指摘されてどんな顔をしていいかわからない。口をぱくぱくさせながら一所懸命言葉を探す。
「二人の一緒に居る姿が至極当然って感じだったから。いいんじゃない?凄く似合ってるよ」
じっと目を見つめられて屈託の無い笑顔を向けられると、女の子だとは解っているのにどきどきしてしまい、こまちはあせった。
(この人が男の人だったらものすごくもてるんじゃないかしら、宝塚の男役とか似合いそう)
「秋元先輩!」
ホワンとしていると後ろからお呼びが掛かった。カウンターの向こう側ではナッツが何故か渋い顔をして見ている。
「秋元先輩、どうしたんですか?」
真っ赤になっているこまちに八重が怪訝そうな顔で尋ねる。
「な・何でもないの。それよりなにかしら?」
あわてて手をパタパタと振りながら八重を見て、その後ろの顔を見た途端こまちの赤かった顔が一気に青くなった。八重の兄だという雲雀恭也が物凄い形相でこまちの後ろ、つまり武を睨んでいたからだ。
「ひばりー、ねぇこれ食べた?」
雲雀の顔などちっとも見ちゃいない武は、無邪気に栗羊羹を楊枝にさして雲雀の前に差し出すと、今にも「ハイあーん」などとやってしまいそうな雰囲気だ。そんな武から「あーん」の言葉が出てくる前にパクリと羊羹を口に入れてしまうと雲雀がゆっくりと武の腕を掴んだ。
「・・・いい加減にしなよ、この天然タラシ」
その地の底から響くような声に、横で見ていたこまちも、文句を言おうとしていた八重すらも恐ろしくてぶるぶるしながら黙るより他無かったのだが、当の本人はあっけらかんとしながら
「ひばりって時々訳のわかんないこと言うよなー」
カラカラ笑い、眉間にしわよってるぞーなんて言いながら雲雀の眉と眉の間をぐりぐりして雲雀を脱力させている。
(・・・天然強し!)
自分のことは棚に上げて感嘆の意を表するこまちだった
つづく
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