キリ番リクエスト
3000番  ジョイント!  学校へ行こう!<前編>なつこま&ひば女の子武
 ここナッツハウスでは後二日で開催される「サンクルミエール祭」の出し物の準備のため、皆浮き足立っていた。

「りんちゃんのフットサル同好会はサッカーボールでストラックアウトやるんでしょ?いーなー行きたい行きたい」

「のぞみはクラスの係りだから来る暇無いんじゃない?」

きゃらきゃら楽しそうに二人でかしましく会話を弾ませている。
 その向こう隣で鞄を覗き込み、何故かため息をついているこまちが目に入った。

「こまちは?図書委員も何かするのか?」

 ナッツの声にびくりと振り向いたこまちの手が抱えているのは和風柄の・・・スカート?

「・・・ええ、あの、催し物ではないのだけれど・・休憩所として図書室を開放することになっているの。そこで図書委員の三人でお茶とちょっとしたお菓子を出すことになっているのだけど・・・」

「・・・・その服は?」

こまちの顔がどんどん赤くなっていく。

「わ、わたしは家にある着物を着るつもりだったの!でもかれんが今日これを着なさいって・・」

こまちの手からそれを奪って広げると、「キャーーーーーかわいいーーーっっ!!」りん・のぞみ・うららから歓声があがった。

「うわーっこれ和服のメイドさんですねー」

「ちゃんとパニエもついてるよ」

「高いんだよー。さっすがかれんさん!」

 どこぞかの和風喫茶で「いらっしゃいませご主人様」とか言いながら女の子が来ている いわゆるアレじゃないか!

「だ、駄目だこんなの!」

「えーーーなんでナッツが駄目出しすんの?決めるのはこまちさんだよ。ねーこまちさん」

冗談じゃない。こんなスカート履いて「いらっしゃいませ ごゆっくり」なんてやったら 変な男に寄り付かれるのは必至じゃないか!

「こまち!」

俺は絶対反対だからな という意を込めて彼女の名前を呼んだ。 が。

「でもね、かれんにとってこの学園祭が生徒会長としての最後の仕事で、夏休み中からずっと計画を練ってきたの。だから、かれんがやりたいことを精一杯応援したいのよ」

・・・そりゃ 言いたいことはわかるが・・・。

「せっかくこれが良いって用意してくれたんだもの。少し、は、恥ずかしいけど わたし着ようと思う・・」

・・・・・・着るのか・・・。

「ね?ナッツさん・・・」



・・・・ああ くそっ

「わかったよ!かれんの為にそれを着るといい!」

わっ と皆が沸いた。

「皆でかれんさん最後のお仕事を応援しよーー!決定ーー!!」

ポンとココに肩を叩かれる。

「ご愁傷様」

まったく、せっかく晴れて恋人同士になったというのに、何となくかれんに負けている気がする。

「こまち!だけど条件がある」

三人に囲まれて「試着してみて」とせがまれ、眉根を下げているこまちに向かってナッツは厳しい声で言った。


「ひばりー。サンクルミエール学園って、こっちでいいの?」

 長身のややハスキーな声の女の子は、振り返るたびに人目を惹いた。長い足を惜しげもなく晒して颯爽と歩く彼女の後ろには、これまた涼しげな目元の男がすっきりと背筋を伸ばし歩いている。

「うん。一度だけ車で通っただけだから うろ覚えだけど確かここだよ」

 なんとなく人の流れも同じ方向に進んでいるような気がするので「ま いいか」と大して気にもせず武は歩き続けた。第一、気がかりは他にあるのだ。

「・・・俺一緒に行ってもいいのかなー。八重ちゃんひばりに「来て」って言ってたんだろ?怒らないかなぁ」

 少し浮かない顔で雲雀を振り返る。
 本日学園祭にわざわざ来たのは、このサンクルミエール学園に通う雲雀の妹、八重に雲雀がよばれたから。「もう中学生なんだから兄妹だからって行く必要ないよ」と武とのデートを優先しようとしてくれた雲雀に「でも八重ちゃん 雲雀のこと小さい頃から大好きなんだし、せっかく呼んでくれたんだから行った方が良いって」と答えた武。

「・・・だから別に行かなくても良いって言ったのに」

 武が浮かない顔をしている理由をわかっている雲雀は彼女の性格上そんなことはできないとは解っていつつも、最初の予定通り映画に行っていれば良かったのにと思う。

 雲雀は三人兄妹の真ん中で、三つ上の姉桔梗と一つ下の八重がいる。この八重、年子のせいか小さい頃から「きょー兄、きょー兄」といつも雲雀のあとをくっついて歩いていた。恭弥もまた、友達があまりいなかったこともあってよくこの妹の面倒も見た。そんなこんなで6歳になった頃には 当時既に顔見知りの武に対して「お兄ちゃんのお嫁さんになるのはあたしよっ!」と人さし指をビシッと突き立てていたのである。
 だから雲雀が「武に告白するから」といった時の彼女の怒りと落胆振りはすごかった。決まりきっていた並盛中学の入学を取りやめにして母親の母校であるサンクルミエール学園に入ったほどに。

「同い年とは思えないくらい甘えん坊だもんなぁ」

 長身の武に対して八重は身長が152cmしかなく、顔の造作も幼い為 未だに小学生に間違われるらしい。可愛らしいのでモテるのに、週末は何故か雲雀の為に空けているという極度のブラコンだ。
 その二人が買い物をしているところを近所に住む武はよく見かけるのだが、ほっそりとした白い腕を雲雀に絡ませ 上目遣いに話しかける様は自分よりも恋人らしく見えた。

「ひばりと付き合い始めてからは挨拶も返してくんないし」

 たはは・・と力無く笑う武の隣に 僅かに足を速めて近づいた雲雀が、そっと武の左手をとってそのまま歩き出した。

「少し顔見たらすぐ帰ろう。八重のことはあまり気にしないほうがいいよ。好きな人でもできれば案外あっさり離れていくから ね?」
 
 雲雀がそんな風に優しいから離れられないんじゃないの?とは言えない武だった。



 サンクルミエール学園は女子校なので、運動会や学園祭にはこぞって近隣の学校から男子が集まってくることもあり、そこで彼氏彼女になる確率もきわめて高いと言われている。朝も早くから大勢の人で賑わう学園の中を 生徒会長であるかれんは少しでも落ち度が無いようにと上から下まで駆けずり回っていた。

「会長、少しお休みになりませんか」

 見ると調度図書室の前で、ドアの横には画用紙に書いた休憩室の文字。

「こまちアレ着てるかしら」

 休憩がてら ちょっとからかってやろうと副会長の二年生と共に足を踏み入れた途端。


「な・・・・なにこれは・・・」
 
 休憩室といいながらどこにも座る場所が見当たらないほどの人・人・人。

「いらっしゃいま・・・あ かれん!」

 人垣の向こうから黒地に紅い牡丹柄の和服メイドスカートとひらひらのエプロンをつけたこまちがかれんを見つけて笑顔で手を振った。

「ちょっとこまち!なんでこんなに大勢の人が休憩室にいるの?!」

休憩室とは見学に来て疲れた人が ちょっと一服するために考えたものだ。もちろん対象は作品を見に来た家族や、近所の子供、年寄りなどで こんな元気な、しかも殆どが女子生徒だなんてあってはならないのではないだろうか。
 その女子生徒たちは皆ある一定の方向を熱心に見つめている。

「あ・・あのねかれん、怒らないでね・・」

困ったように微笑んだこまちとかれんの先にいるその人物を見て、かれんは固まった。


「・・・なんでナッツがいるのよ・・・・!!」


和服姿に肩にはタスキ。ご丁寧に腰から前掛けまで下げたナッツが厨房代わりのカウンターで、涼しい顔をしてお茶を入れていた。

「私がこの格好をするなら自分も連れて行けって。仕方ないから手伝ってもらうことにしたら何だか人が集まって来ちゃって。雲雀さんや高田さんはどこかの男子生徒に写真撮らせてくれって連れて行かれちゃって、私一人でお茶出ししていたの」

かれんも飲む?にっこりと菓子舗小町の栗羊羹とお茶を差し出され、かれんは痛むこめかみを押さえながら「あの男は〜・・・」と知らん顔をしているナッツを睨みつけながら熱いお茶を一気に飲み干した。

「じゃあ僕は八重のところに行って来るから。30分後に玄関で待ってて」
 二年生の教室への階段の下で待ち合わせの約束をして、武と雲雀はそれぞれの目的の場所へ向かった。雲雀は教室へ作品を見に行きがてら八重に会うつもりらしい。
(簡単に帰らせてくれりゃいいけど)
 武の目的は校庭で催されているストラックアウトだ。本当は自慢の肩を披露したいところだけれど、フットサル同好会が主催ではそういう訳にも行かないだろう。けれど商品が武の大好きな「牛乳inゼリー」とあっては勝たないわけにはいかない。

「やったるぞー!」

 チラチラ見ている男子学生の視線もまったく意に介さず、武は校庭へと勇んで歩いていった。

 雲雀は廊下を歩き図書館へ向かっていた。八重の教室へ行ったのだが姿が見えず「ねぇ君」と女子に声を掛けたところ

「雲雀さんは図書委員の催しでそっちの方へ行ってます」

同じクラスの女の子が顔を赤らめてそう教えてくれた。
 スタスタと廊下を歩いていて ふと渡り廊下の窓から外を見ると眼下に広いグラウンドが。そこには愛しい長身の彼女がその長い足で最後の一枚のプラスチック板を蹴り破ったところだった。

「すっごーいあなた!もしかしてサッカーやってるの?」

 すべての板を嵌め直しながらりんが感激した様子で武に言った。

「ううん 俺がやってるのはソフトボール。でもスポーツは何でも得意なんだ!」

「全部命中したらさしあげます」とハートマーク付きで書いてあるその商品の入った紙袋を受け取りながら、武はにこにことりんに振り返る。

「へー、もったいないなぁサッカーやればいいのに」

「ありがと。でも俺、小っさいときから野球バカだから他のスポーツってイマイチぴんとこないんだよなー」

同じスポーツ好き同士何となく波長が合うのか二人とも笑顔で話しこんでいると、その背後からいきなり大きな声がした。

「何であんたがいるのよ!!」

 恐る恐る振り返った武の目に映ったのは それはそれは可愛らしい格好をしてるくせに目を吊り上げてにらんでいる、仁王立ちの雲雀妹「雲雀八重」その人であった。


                つづく

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あきゅろす。
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