キリ番リクエスト
2000番自分祭り! なつこま 翡翠の告白
今年の夏は忘れられない夏になる
こまちは夏休みの宿題をチェックしながら、ふと机に置いてある翡翠の色をした美しい行灯に目を留めた。
祭りの日、氷が無いせいで開けなくなりそうになった屋台のために東奔西走してくれたかれん、新しいメニューを宣伝するためにお客様を呼び込んでくれたりん・のぞみ・うらら。飾り付けに困っていた時に「任せろ」と言ってくれたココと、そして ナッツは「こまち」の名の入った綺麗な行灯を手渡してくれた。
色の美しさにも目を奪われたが、なによりあの短い時間でこれだけの物を作り上げたのかと感動した。
彼の長くうつくしい指は、何を思い浮かべて紙を切ったのだろう。繊細なまなざしは何を想いながらこれを組み立てたのだろう。
(「菓子舗小町」ではなく「こまち」と描いてあるのは、私のために作ってくれた、と少しは自惚れても良いのかしら・・・)
夏祭りのちょうど一週間前、流星群を二人で見に行った。その時「たった一つでいいから私との思い出を忘れないで欲しい」と泣きながら訴えたこまちに、「一緒に沢山の思い出をつくろう」と言ってくれたナッツ。そしてあの人は涙でぐちゃぐちゃの自分にキスの雨を降らせてくれたのだ。
「・・・・・・」
ーーーーそこ迄考えて、こまちは はた と気付いた。そういえば、一緒に思い出を、とも言われたし幾度もキスをしたけれど
「わたし・・・好きって言っていないし、・・・・・言われてもいない・・・」
思い出して赤くなっていた顔がサーーーッと青くなる。
たいがいぼんやりしているが、此処までだったとは・・と自分で自分が恥ずかしい。
ガツン!!!
と、後ろから頭を殴られた気分だった・・・・。
こまちがボーゼンとしてかたまっていると、階下からまどかの呼ぶ声がする。
「こまちー!かれんちゃんから電話よー!」
フラフラとした足取りで姉から受話器を受け取り電話に出たが、そのひどく落胆した声に
「今行くから!」
そう言い残して かれんがこまちの自宅に来るまで、受話器を置いてからなんと5分と経っていなかった。
「えーーーーーーーーっっっ!!!!あなたたちキキ・キスしたのーーーーーーーー!!!???」
「かれん声が大きい!!!」
かれんの口を両手で塞いで真っ赤になったこまちが涙目になりながらこちらも負けずに大きな声で言った。
「ちょっと待ってよ・・・!私初耳なんだけど。大体あなたたち付き合ってるなんて聴いてないわよ。と言うよりこまちがナッツを好きそうなのは薄々感じてたけど ナッツもあなたのことを?・・・あーーー、あんな「色男金と力は無かりけり」を地で行ってるみたいな男にこまちを任せるなんて無理!絶対無理無理!!」
早口で一気に捲くし立てたかれんに唖然としたが、黙っていればひどい言われようだ。
「ちょっとかれん、そりゃナッツさんは元が王子様だから少し貧弱に見えるかもしれないけど、男の人だからそれなりに力はあるのよ。それに今はアクセサリーショップも軌道に乗ってちゃんと生活できるくらい稼いでいるじゃない!」
はぁはぁと息をつきながら こちらも負けてはいられないとナッツをかばって反論するこまちを、何故かかれんがやんわり微笑んで見つめていた。
「か・・かれん?」
「あーあ、ホントに好きなんだ、ナッツのこと」
フフと笑って 冷たい麦茶を手の中でくゆらせ、一口、口に含む。
「こまちがナッツのこと、ただ憧れてる、っていうのだったら止めさせようって思ったんだけどね」
慈しむような眼差しでこまちを見つめてかれんが言う。
「だってこまちが泣くのは嫌だもの。断られて泣くのも、遊ばれて泣くのも・・・ね」
「彼は人の心をもてあそぶ様なことはしない!」そう言おうとして、口をつぐむ。
ーーーああ。気持ちはわかる。自分だってかれんがどんな事ででも泣いたり、悲しい顔をするのは見たくない。優しい親友、ナッツへの気持ちとは違うけれど大好きなかれん。
そんなこまちにことのほか明るい声でかれんが聞いた。
「でも、キスまでしたのなら話は別だわ。ちゃんと好き合っているのよね。それで?どちらから告白した訳?」
興味津々の顔できいてくるかれんに、こまちはきょろきょろと目を彷徨わせるとため息をつき、うつむいて口篭ってしまった。
あの後、「なにあのトーヘンボク!!何にも言わないで唇だけ奪っていったの!?やっぱりろくでもないわよ!!こうなったら私が一発ハッパかけてやる!!」といきり立ったかれんを あの手この手でようやくなだめ、帰る姿を見送る頃にはすっかり疲れ切ってしまった。とは言えそれもこれも自分のためだと思えば悪い気がするどころか嬉しいくらいだったけれど。
ぬるくなった麦茶を手に取り、同じ色の瞳を思い出す。あの時、真剣な目に嘘偽りの色は見えなかった。言わなかっただけで同じ気持ちだったと信じたい、いや 信じている!
「・・・会わなきゃ、会ってちゃんと気持ちを伝えなくちゃ!」
だって一緒に思い出を作ると約束したのだ。言いたいことがあるなら自分に言って欲しいと彼は言ってくれたのだ。
「こまちどこ行くの!?」
玄関から出て行くときにまどかの声が聞こえたような気がしたが、こまちは振り返らなかった。
「もしもし」
閉店の準備をしていたナッツは電話の音にその手を止め、誰も出ないと知ると やれやれと受話器を上げた。
「もしもし?私かれんです!ちょっとナッツ あなた一体何考えているの!?女心のわからない朴念仁!!」
耳をつんざく大声に思わず受話器を落としそうになったが、聞き捨てならない言葉が聞こえたことで何とか持ち直し、受話器を耳にあて直した。
「ほんとうに何て阿呆だ!」
ナッツはイライラしながらあせる気持ちを抑えて、こまちの家を目指して走っていた。
「あなたがこまちを好きだってことちゃんと伝えないままキスなんてするから こまちが変に悩むことになるのよ!!」
かれんから聴いた言葉は まさに寝耳に水だった。
ナッツにしてみれば、自分的にあれだけ甘い言葉を吐いて、それこそ数え切れないほどに口付けたのだから、てっきり気持ちは伝わっているものだとばかり思っていたのに。
「初恋なのよ こまちは。恋をしたのも初めてならキスなんて未知との遭遇よ!これ以上こまちを悩ませるようなことをしたら私が絶対に許しませんから!!!」
未知との遭遇なんて君はいくつだ 映画オタクかとか、嫌味の1つも言ってやりたいところだが 「初恋」と聞いてしまっては何だかこちらの分が悪い。
(こまち大事のかれんだから 何されるか、たまったものではないしな)
初めての出来事に心を痛め、ふるえながら唇を差し出すことしか出来なかった愛しい少女。
あの子の方から告白するのを待っていようと思っていたのに
(とんだ番狂わせだったな)
それもこれも 自分の立場も忘れさせてしまうほどの恋をしてしまったせい。
「恋に落ちる、とはよく言ったものだ」
ナッツは湧き上がってくる愛しさに口元がほころんでしまうのをどうしても抑えることが出来ずに、ただ 今すぐこまちに会いたい、と走るスピードを目一杯上げた。
(すぐに会いに行くから)
(あの角を曲がればあなたがいる)
(君の顔を見たら)
(あなたの顔を見たら)
(真っ先に言うよ)
(真っ先に言います)
(きみが)
(あなたが)
すき
おわり
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