キリ番リクエスト
9999上総様リク  君の好きなトコ<後編>
 ―――が、いつまで経ってもその衝撃が訪れない。(おかしいな?)
おそるおそる目を開けた山本は、その場で腕を振り上げたまま固まっている片瀬を見てビックリした。

「・・・片瀬先生、これは何ですか・・・?」

 後ろから太い声がして山本が振り向くと、野球部部活指導教諭の遠藤が、ドアのガラス越しにじっとこちらを見ている。
 ガラリとドアを開けて山本と片瀬の間に立った遠藤は、山本の左手の甲を見てギョッとした。

「・・・どういうこと、ですか・・?この手、まさか・・・」

 ゆっくりと振り返り、片瀬を信じられない、といった目で見つめる遠藤。

「子供に対して、こんな暴行、許されると思っているんですか・・?」

「わ・・私は・・」

「・・・すぐに、学年主任に報告します!!」

 踵を返して山本を連れて出て行こうとする遠藤に向かって、後ろから真っ青になった片瀬が大声で叫ぶ

「遠藤先生!これはその・・山本が悪いんですよ!!そいつが私に暴力を振るおうとしたんだ!これは正当防衛なんです!!」

 苦しい言い訳だ。山本の手の甲は打ち身もあったが、酷いのはそれよりも何か硬いもので何度も皮膚を削り続けてできた深い切り傷だ。正当防衛で何故生徒の手の甲に傷を刻みつける必要がある?

「それは私ではなく、主任か校長の前ででも証言して下さい!」

 はっきりとそう言って山本の手を引くと、直もしつこく片瀬がすがり付いてきて、山本の耳元にボソボソと何がしかを吹き込んだ。
 わずかに顔をこわばらせた山本は、遠藤の大きな手を振り払おうと腕をよじる。が、しかし。

「山本、そいつは何にも知らないよ」

 立ち止まってしまった山本の、進行方向に見えた黒い影。もう耳に馴染んでしまったその声、その人は―――

「そいつはね、ただ君を陥れられれば良かっただけなんだよ。君が「やった」とも「やってない」とも言わなかったものだから『誰かを庇っているかもしれない』とカマをかけた。それに君がまんまと乗ってしまった、それだけなのさ」

 廊下の曲がり角から出てきた雲雀のその手にはスチール棒がギラギラと光を放っている。唇に薄笑いを浮かべた雲雀の、同様に鋭い光を放つ目だけが、笑っていない。

「ね?片瀬せ・ん・せ・い」

 雲雀の鋭い眼光に見据えられた片瀬は、ぶるぶると震えながら四月のあの時の光景を思い出していた。

 ズルンと足を滑らせて、尻餅をついた上に、バラバラになってしまった資料を急いでかき集めようとあせった自分を手助けをしてくれるものはいない。
(こんなに大勢いるのに・・・)
 情けない、恥ずかしい気持ちで一枚二枚と拾い集めていると「ばっかだなー、先生」と笑われた。
(・・・この声、いつも馬鹿笑いして大勢の仲間と楽しそうに遊んでいる、山本 武・・・!!)
 仲間内では人の良さそうな振りをして、こんな風に人の失敗を嘲る―――!!
 ガサガサと上下も整えぬままに振り向くことなく立ち去った片瀬は知らない。その後ろで山本が手をさしのべていたことなど。

 しんとしてしまった廊下を雲雀の革靴の音が響く。ツカツカと歩み寄って片瀬の顎をその鉄棒の先でこづけば、情けなくも哀れな教師はその場にへなへなとへたり込んでしまった。

「・・知らな・・かった・・?」

「・・・・・」

「片瀬先生、ほんとに?」

「・・・・」

「じゃあ、本当に逆恨みだけで・・・」

 山本の視線はどんどん下がっていき、そのうちに肩が震え出したのを見て、まさか泣き出すのかとぎょっとした雲雀が声をかけようとした瞬間


「よかったーーーーーー!!!」


 がばっと顔を上げた山本はそれはもう満面の笑顔で。

「なんだよほんとかよもーーっっ!いや良かった!ほんっと良かった!!なあひばり!!」

「あ・・・いや、うん?」

 何が良いんだろう、あんなに痛めつけられていて、良かったってことはないんじゃないだろうか、この子頭大丈夫?雲雀は思わず山本の額に手を当てようとして、遠藤の視線に気付き、やめた。

「山本?」

 2人のやり取りをぼーっと見ていた遠藤だったが、はっとして声を掛かける。

「ええと、話が終わったんなら、保健室・・・ああ、雲雀に連れて行ってもらえ。俺は主任が来たら片瀬先生のことを報告せにゃならんから。んで、手当て終わったら、職員室に来てくれな?」

 わかりました、と納得いかない顔をした雲雀と連れ立っていこうとすると、また更に遠藤がその2人の背中に声をかける。

「山本、雲雀に礼を言っとけよ」

きょとん、とした山本に遠藤は優しく笑う。

「野球部のエースが球投げられなくなるぞって、教えてくれたのは雲雀だぞ」




「ここの保健医は一体いつ仕事してるんだよ」

 またしても『外出中』の札が下げられた保健室で、ブツブツ言いながら消毒液をビチャビチャと付けていく雲雀を上目遣いに見る山本は、傷口がしみるのか少しだけ眉が下げて歯を食いしばっていた。

「・・・ひばり、なんか怒ってね・・・?」

 雲雀は何も応えずに黙々と治療をしていく。その相変わらずの手際のよさに見惚れていると「怒ってるよ」と一言。
 さすがに今回は雲雀に『ほっとけ』と言ってしまったこともあり、怒られても仕方ないかな〜、としょんぼりしていると、それは大きな雲雀のため息が。

「・・・なんで、君は怒らないの?」

「え?」

「だって理不尽にこんな怪我負わされたんだよ!?生徒達の中にはもしかしたら本当に君がカンニングしたんじゃないかって疑っている奴だっている。何もしていないのにアイツのせいで君だけが傷ついたんだ!!」

 一気に言い募った雲雀は、それでもまだ言い足りないという顔をしている。山本はあっけに取られたが、雲雀の言ったことを反芻すると照れたように笑った。

「俺は傷ついてなんかいないぜ?」

 そりゃ、覚えてもいないことで因縁つけられたのはちょっと頭に来たけど、親父が言うには俺はすっとぼけたトコあるらしいから、もしかしたら片瀬の言ったとおり笑って見ていたのかもしれないし・・・。

「でも、片瀬は俺にしたことがばれちまったから何らかの処分がされるだろうし、俺がカンニングなんてしてないってことはテストの結果が出ればわかることなのな。それに・・・」


   一番大事なことは、守られたから。


「ひばりが全部知っててくれるなら、もうそれで良いんだ」

 晴れやかに言う山本に、雲雀は二の句が継げなくなる。

「ひばりも、心配させてごめんな?・・ありがとう」

 少しだけはにかんで謝られた上に礼まで言われてしまってはもうどうしようもない。毒気を抜かれた雲雀は黙るしかなかった。そしてその山本は、手当ての終わった左手をポケットにしまうと「職員室、行かなきゃな」と立ち上がった。




「・・・まったく、君のその気質にはほとほとあきれるよ。それにしても、僕がもし荒井とかいうヤツの立場になったとしたら君は同じように庇ったりするのかな」

 廊下を歩きながら雲雀がぼそりといった言葉に振り返った山本がぱちくり、と目を瞬かせる。

「変なひばり、庇うわけないじゃん!ひばりだったらそんなことになる前に父親のことぶん殴ってるだろ?」

    ・・・まあね。

 山本は、それでもフム・・・と顎に手を当てて少し考えた顔をすると、如何にもいいこと思いついた!とばかりにその瞳をぱっと輝かせた。

「だけともしほんとにそんなことになったら、世界の果てまで2人で逃げようぜ!!」

「え・・・・」

 満面の笑顔でとんでもないことを言ってくれる君。

「おー、我ながら良い事考えたなー!!」

 大好きな父親を残して?大切な友達をここにおいて?君の腕に抱えたものみんな置き去りにして?僕に何かあったら何もかも捨てて、僕と二人だけの世界に飛び込んでくれるって―――?


「ひばりー?早く行こうぜー」

 楽しそうに笑いながら、まるで何も無かったように右手で僕をチョイチョイと呼ぶ君。そんな君が無邪気にいかにも無造作に僕だけに投げかけてくれる感情をどれ程僕が喜んでいるかも知らないで。




「・・やまもと・・武!!」


「・・・え?ひばり、名前・・・」

 まん丸に目を見開いたその顔を急いで腕に閉じ込めると、愛しさとときめきと多少の気恥ずかしさをない交ぜにして、薄く色づくその唇に僕は心を込めて噛み付いた。

  二学期の終業式、テスト結果が記された通知表が配られ綱吉と「せーの!」で見せ合いっこをした山本の成績は、平均点が65点という今までに無い好成績。(音楽と保健体育は雲雀に教えてもらっていなかったからさぁ・・・むにゃむにゃ)

「数学88点・・すごいじゃん山本!・・でも、荒井は確か満点だったんだよね。やっぱり、山本がカンニングなんてするわけ無いって思ってたよ」

「なー?結果が出ればわかるって言っただろ?」

 点数も去ることながら、応用問題の解き方も二人は全然違っていたため、山本のカンニング疑惑はまったくの誤解だったと、その後学年主任から剛の元に謝罪の電話があった。



「ま、お前は馬鹿だけど卑怯もんじゃねえからな」



 獄寺のその言葉に、綱吉と山本は顔を見合わせて、笑った。



 特別教室棟、応接室の重厚な机を陣取る風紀委員長は、自分の背後の大きな窓を椅子ごと振り返り珍しく晴れ渡った冬の空を眺め、眩しそうに目を細める。



今日はピーカン、僕のあの子がそろそろぬかるんだグラウンドに、トンボを抱えて走り出す。




             おわり


9999上総様からのリク「山本はふつーにしているんだけど、ときめいちゃう雲雀」どうでしたでしょうか?普通にしてても、やはり中学生、色々考えていることあると思うんですよ。ただ笑っているだけじゃなくて、その笑顔の下にはちゃんとした物を持っている子だと思います。それが、山本にとっての普通、で、雲雀さんは結構直情型だと思うので、そういう山本の隠れた部分に惹かれているんだ・・という話になって欲しかったんですが、伝わったか疑問・・ですよね、すみません、この辺が実力不足で・・・(><)うちの雲雀さんはいつでも山本にきゅんきゅんしてるのでそのうちキュン死にするんじゃないでしょうか(笑)なんだか物凄くお話が長くなってしまったのですが楽しんでいただけたら嬉しいです。上総様、リク、どうもありがとうございました!!

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あきゅろす。
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