小説<ヒバ山僕シリーズ&ヴァリ山>
愛していると言ってくれ!
 偉そうにふんぞり返る頑健な体躯をじろりと半目で睨むと、ボンゴレ10代目沢田綱吉は、ハァといかにも仕方無さそうなため息をついた。

「人を呼び出しておいて話もせずにため息とはいい度胸だな」

 それが話をする態度ならばとうに切り出しているんだと言いたい所をグッと堪える。―――何よりも、ここにはいない自分の守護者である山本武の為に。

「なぜここに呼び出されたのか貴方にも心当たりがあるんじゃありませんか?」

含みのある言い方をする綱吉を鼻で笑う。

「仕事の用件以外でこんな胸糞悪い場所に呼び出される謂われはねえな」

「じゃあどうして仕事以外のことで呼び出したのに貴方はここに来たんだ」

綱吉の問いにザンザスの目が不穏な色を滲ませる。

「ついこの間までちょくちょくヴァリアーに顔を出していた山本が一週間前から来なくなった。だからでしょう?」



 とある任務で同行することになった二人だったが、山本の落ち度からザンザスが怪我をし、自分のせいだからとザンザスの看病を買って出た彼。
 そこから何がどうなったというのか、何故かザンザスを気に入ってしまった天然彼氏は、事あるごとにザンザスの元へと顔を出し、その数ヵ月後にはしっかりザンザスを堕としてしまったらしいという噂がまことしやかにボンゴレ内を駆け巡っていた―――山本本人は何も言わないが。



 ところが、そこから問題が発生した。実の所山本武という守護者は、ボンゴレファミリーの中でもその飾らない性格と屈託の無い明るさ、併せ持つ屈強さから非常に人気があり、そのテの部下から『抱かれたい男』bPだったりするのだ。
 それでも今までは天然さに助けられていたこともあって冗談の域で済んでいたものが、冥府の王、あのヴァリアーの首領たるザンザスとデキちゃいましたと聞いたものだから、皆こぞって我も我もと山本の元へ押し寄せた。それでも山本怯まずに「俺、抱くんだったら女の方がすきなのなー」なんぞと、ふざけたものかそれとも本気の言葉だったのか、そう言い放った途端「なら、抱かれるのは男がいいんだな」と山本の前に立った頑丈そうな部下二人。山本は自分のフレンドリーさを、この時ばかりは呪ったと言う。
 そんな騒ぎから程なくしてボンゴレ恒例の幹部会が開かれ、今度はそこで老齢の幹部に吊るし上げられる羽目になった。大勢の幹部が囲むように座っている中、たった一人その中心に後ろ手を組んで真っ直ぐ視線を上げた山本。「またザンザスのおふざけが始まった」だの「身分違いも甚だしい」だのと罵り、嘲りの中で、山本はその時まで一言も反論などしなかった。



「父親を殺そうとするような危険な男に面白半分で近づくなって言われて山本なんて答えたと思う?」

 

 それまで仕方無さそうにやんわりと微笑んでいるように見えた山本の目が急に険しくなった。

「ただの親子喧嘩じゃありませんか」

ざわざわし始めた広間に野球部で慣らした山本の、よく通る太い声が響く。

「反抗期のちょっと行き過ぎた親子喧嘩を、いつまでもぐちぐち言われるのはザンザスも気の毒だ。あいつは割り切れないまでも前に進もうとしてます。いい加減認めてやったらいいんじゃないんでしょうか」

 いつまでも16歳の子供のままではないのだから。
(あんた達にとっちゃその方が都合がいいのかもしれないけど)
人を助けようとする心も、好きになろうとする気持ちも育っている―――・・・はずだ。
 山本が言い切ったとき、一人の老獪が静かに口を開いた。

「ならば次期当主になれぬまでも、ヴァリアーの長として、九代目の息子として、恥じぬよう生きてもらわねばならんの」

一介の守護者の、それも男となど噂があってはならぬと言外に滲ませて。

「貴様がそこまで言ったのならば自分の言葉に責任を持てるな?」

 ザンザスのために、自分から離れろと。
 
 そう山本に告げ静かに老人達は席を立ち、会場を後にしようとドアに手を掛けたところで、天然山本首を傾げながら口を開いた。曰く「大人同士なんだからその辺は自由じゃないすか?」―――瞬間、ピシッと空気が凍りついたのは気のせいではなかったはずだ。真っ青になって『ガーン』と口を開けた綱吉の目の前で、親友山本は謹慎処分を喰らってしまった。




「・・・・・あほだな」

「うんほんとにね。でもまだ続きがあるんだよ」

多少うんざり気味に、ザンザスから視線を外して。


 どこで覗いていたのやら、幹部連中にキッパリと言い切ったその姿が格好良かったと、またしても『抱かれ隊』に山本人気はうなぎのぼり。また、頭の固い老幹部に自由恋愛を主張したところが、見かけによらず年相応で可愛らしいと『抱き隊』にも大変好評で、謹慎中資料室の整理を仰せつかった山本の元へ、俺が次は俺がとひっきりなしに手伝いに訪れているらしい。



「そういう訳でね、山本は今とっても危ない状況にあるんだよ。いいの?仮にも一応恋人なんじゃないの?」

「それ位良い様にあしらえるだろうが」

「・・・ねぇ、一般の部下達から山本が何て言われているか知ってる?山本はボンゴレとヴァリアーを繋ぐための人身御供だって。あなたの慰み物だって言われているんだよ、貴方に恋愛感情なんてあるはずが無いって」
「上の幹部だって貴方には何も言わないでしょう?全ては山本に行くんだよ。あなたに言えない分、黙って受け流す山本に全部が被さって行くんだ・・・!」

 搾り出すように言った綱吉の言葉を遮って、ザンザスは大きな音を立てて立ち上がった。

「・・・・知るか」

「ザンザス!!」

 厚い扉が音を立て、ザンザスの足音が遠ざかっていく。

「・・・くそっ・・!」

 綱吉はやりきれなさに、クシャリと前髪を掴んだ。




「ほら武」

「んー、サンキュ」

 ファミリーに入ってまだ二年目のニコロと共に、資料室の整理をしていた山本は、彼の手から数冊の冊子を受け取る。積みあがった資料に目を通しながら分類をしていく作業は、気が遠くなるほど膨大な時間を要するものだった。
(ボンゴレって秘書とかいねぇんだっけ?・・まぁいたらこんな事にはなってないわなぁ・・・)
 一週間にもなるというのに未だ半分も終わっていない。罰当番としては最適な仕事だろう。
(一週間か・・・ザンザス、どうしてっかなぁ)
 キスはした。けれどそれ以上の発展をする前のこの謹慎であり、幹部の言った言葉も微妙に山本の心に影を落としていた。

『ザンザスのお遊び』

 もともと自分は男に興味があった訳ではなく、興味を持った相手が男でありザンザスだった、というだけの話だ。それはまたザンザスも同様であり、当初は見向きもされなかった。なのに何故か追いかけずにいられなくて、追いかけて追いかけて、やっと傍にいることを許された矢先―――。

「手強いのなー・・」

「え?なに武」

「あ、いや何でも無い。もういいぜニコロ後は一人でやるから」

 ニコロの手から資料一冊を取り上げ書棚に移すと、山本はまた別の資料を開き熱心に読み始める。

「武は見かけに寄らないよね」

声を掛けられて顔を上げると楽しそうに笑うニコロと目が合う。

「へ?」

「こういうの苦手そうに見えるのに、武ってば凄く楽しんでやってるみたいだから」

「はは、よく言われる」

 常に体を動かしているイメージが強いらしい自分ではあるが、本を読むのはともかく、こうして誰かが製作した報告書や資料を見るのはとても興味深いものだった。パソコンで作るものが主流ではあるが、中にはまだ手書きのものもあって、字の書き方にもそれぞれ味があるものだなぁと感心したり、分かりやすく書いてあるもの、わざわざ難解な書き方で、只の報告書なのに捻りを入れてある物など、読んでいるととても面白く、そのせいで一向に進まないというのも事実だ。

「・・それに、ザンザス様のことも」

「ザンザス?」

「あんなに恐ろしい方なのに、どうして自分から近づいていこうと思ったの?それに、武はもともとノーマルな男だろ?ザンザス様のこと好きだなんて、抱かれたいなんていつから思っていたわけ?」

ニコロの素直な問いに、自分でもなんでかなぁ、としばし考える。
(いや、好きだけど抱かれたいと思っているわけじゃ・・いやでも、付き合ってりゃいずれはそうなるんだろうけど、そもそも俺たちって付き合ってるうちに入るのか?)それが分からないうちにこんな処分を下されてしまって。
 山本が首を捻っていると、その山本の手の中の資料がニコロによって取り除かれた。

「ん?」

ニコロの、自分より少し小さな体がそっと胸の中に入り込んでくる。

「俺にしておきなよ、武。どうせザンザス様は武のことなんてすぐに飽きてしまうに決まってる。あの人に手に入らないものなんて何も無いんだから」

 それは男の自分なんて捨てられて、新しい女性に乗り換えられると言いたいのだろうか。

「んー・・まあそういう可能性は充分あるだろうなぁ。俺が見てただけでも二人の女の人と関係があったし、キスされたのだって殆ど気まぐれみたいなもんだと思うし・・」

「じゃあ、なお更・・!・・」

「ニコロ」

 山本は自分より背の低い彼の目をじっと見つめた。およそマフィアらしくない、綺麗な茶色い巻き毛が影を落とす熱を帯びた瞳には、自分の顔が映っている。思わず目を細めて笑ってしまった山本に、ニコロが怪訝そうな顔を向けた。

「ああ、わるい。いやそういえば俺さ、男に告白されたの前にもあったなって思って」

 はは、とどこか遠くを見るような目つきで、山本は話し始めた。



つづく

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