小説<ヒバ山僕シリーズ&ヴァリ山>
Holly nightにくちづけを (29×19)
 
そのつぶやきで一気に夢から浮上した。


 12月、世界中が聖なる光に包まれるその夜に、慈善事業の一環として綱吉が当主になる以前から毎年ボンゴレが行っている『養護施設へのクリスマスプレゼント』の為に、京子とハル、そしてボディガード兼荷物運びとして山本が、獄寺には『悪ノリすんな!』とたしなめられながら、真っ赤な衣装を身につけてにわかサンタになり、楽しげに連れ立って行った。
 小さな子供達は山本サンタの背中に担がれた真っ白で大きな袋を目をキラキラさせながら見つめ、プレゼントを今か今かと待っている。
 キレイで優しげなお姉さん2人からきらびやかなプレゼントを渡されて はにかむ少年、照れが頂点に達し山本の背中にしがみつくようによじ登る子供達、嬉しそうに受け取って二人の女性にお礼のキスを贈るのはまだ4〜5才の少女―――。
 ボンゴレの拠点地区には大小あわせて10程の養護施設があり、全ての施設を回りきったころには夕方6時を過ぎていた。もちろん帰ればこれまた恒例行事であるボンゴリアン・クリスマスパーティーなるものが待ち受けているので、3人は休む間もなく山本の運転する車に素早く乗り込んで帰路に発った。―――ところが。
 10メートルと行かない所で珍しい顔に出くわして山本はブレーキを踏んだ。

「ザンザス!?」

 ピッタリと横につけて窓ガラスを降ろすと、ザンザスの険しい瞳の中に僅かに焦燥の色を見つけて、山本は『ああ』と誰にも聴こえないくらいに小さくつぶやき、突然車のエンジンを切って外に出た。
 長い足でザンザスの隣に近づくと、後部座席の窓をコンコンと叩き「これ、ハル運転できるよな」そう言ってドアを開けてほっそりとした手に鍵を握らせる。

「ちょっ、ちょっと山本さーん!」

 叫ぶハルにゴメンと1つ拝む仕草を見せ、いきなりザンザスの腕を掴み駆け出した。

「おい!」

 看板を下ろし始めたとはいえ、まだぽつりぽつりと人陰のある繁華街を凄いスピードで駆け抜けていく高身長の男二人。普段であればこんな目立つことは遠慮したい所だけれど。

「だって、こんな日に一緒にいなかったらバチ当たっちまうだろー!?」

だって今日はクリスマスだし。

「あんたが、折角迎えに来てくれたのに」

 山本が嬉しげに笑みを浮かべれば、その体を強引な腕に路地裏の壁に押し付けられ、降り注ぐキスのシャワーに山本は更に笑みを深くしてそれに応えた。



 いくら主役ではないクリスマスパーティーとはいえ顔位は出しておかないと。勿論アンタも一緒に。
 事後のまだけだるい体を起こせば、またその手をとられベッドに引きずり込まれる。『もう一度』と低い声で囁かれ背筋を撫でられると、先程まで濡れ合っていた身体は容易に熱を持ち始めすぐに抵抗など忘れてしまう。
 乱れたシーツの上でもう一度。さらにシャワーブースで、ガタイの大きな二人にはこころもち狭いソファでと二度三度と交わって、流石にもうだめだとベッドに沈みいつものようにザンザスの胸の音を聴きながらまどろんでいた。
 とろとろと、眠るでもなくうつらうつらしていた山本の耳に低く響いた、いつもむっつりと黙って眠っているザンザスにしては珍しい寝言。

「・・・・なんだって?」

 ザンザスの口から出てきたその呟きが、山本の聞き間違い出なければ、それは確かに―――。


(誰だよ“マッリーア”って・・・!!)


 先程まであんなに高揚していた気分がどんどんと下降して指先が冷たくなっていく。
(はー・・そうなん・・俺は引っ掛けられなかった女の変わりな。クリスマスにヴァリアーのボスともあろう者が一人じゃカッコつかないから?だから俺を誘ったって訳か)
 山本はじとりとした目で、不機嫌そうな顔で眠る野獣を睨み、その傍に転がっていた半分だけ空けたワインのコルクを噛み千切らんばかりの勢いで開けると、一気にそれを飲み干した。
 そして、ふと殺気を感じて起きたらしいザンザスの枕にボスリと激しく空瓶を突き立て、脱ぎ散らかした衣服をさっさと着込むと静かにドアを開けて出て行ってしまった。

「・・・なんだありゃ」

 後には、自分のしでかしてしまった事の大きさなどちっとも解っちゃいない裸の男が、空になったワインの瓶を目の前でぷらぷらと振って恋人の閉めたドアを見送っていた。




「メリークリスマース ツナーーーっっ!!」

「うわっ山本酒くさっっ!」

 ボンゴレ邸のクリスマスパーティーも既に終わりの様相を見せ、使用人たちが後片付けをしている中、ごく近しいものだけが残って和やかに談笑している最中だった。

「テメェこの馬鹿!遅れてきた上に出来あがってるとは上等じゃねーか!!」

 ボンゴレの自称右腕獄寺が、今頃のこのことやって来た山本にがなり立てる。が、そんな事にはもう慣れっこの山本、相手の肩をぐいと組み。

「おっ!獄寺メリクリ!まあ待て!俺お前に話があるのな!」

「はなしーーーー!?」

 ぎゃーーー!となった所で近くにいた数人が避難体制を取って、皆一様に山本の手元にぶら下がっている酒の瓶を凝視していた。
(今日の犠牲者は獄寺くんだーーー!!)
 この山本、酔っ払うと何故か出てくるお説教。いつもはすぐに酔いつぶれて眠ってしまうのだが、何かストレスがかかるような事があったりすると、眠れなくなるためか説教癖が顔を出すらしい。
 『じ、10代目ーーー』と声すら上げられずにアイコンタクトで訴える獄寺を無視して、綱吉達は隣の部屋へと各自の飲み物を持ってさっさと避難してしまった。


「だいたいなーあ、お前右腕つーんなら、もっと周囲に気を配らなきゃだめだろー?」

 カルヴァドス片手になんだか呂律も怪しくなってきている山本を、胡坐をかいた右ひざに腕を立て顎を乗せて胡乱気に見つめる。
(たく、ブランデーごときで酔っ払ってんなよ)

「ハルはなぁ、お前と行きたかったんだぞ今日の慰問。なのに、10代目10代目って、ハルの気持ち考えてやれよ」

「んだよ、ハルハルって。言われなくたって考えてるっつーの」

「いーや!ならもっと優しくできるだろ?女なんだぞハルは!ごつくて頑丈な俺たちとは違うんだぜ?」

そこで、獄寺の瞳がくるりと瞬いた。

「―――なぁ!もしかして、女でもできたのか?!」

「はぁ!?」

 何でそっちに話が行くんだ?と一瞬おかしげに笑った山本だったが、しかしいきなりクシャリと眉をひそめたかと思うといきなり声のトーンがおちる。

「・・おんな・・・寝言で名前呼ぶほどのおんなって・・・」

 なにやらブツブツ言い始めた山本に、何だコイツ中学時代から人の話聞きゃしない奴だが、独り言いう癖あったっけ?と獄寺が気持ち悪く思いながら「おい!」と肩を叩くと、そのまま毛足の長い絨毯に突っ伏して、まだうにゃうにゃ言っている。

「・・・なんだっつーんだよ」

べしりと頭を叩けば、いてぇと呟いて、やっと黙ったかと思えばすぐに寝息を立て始めた。

「こーいーつーはー・・・」

 酔っ払いに絡まれた挙句放置されて、もしかして俺がコイツの後始末すんのかよ!?と憤慨しそうになった獄寺だったが、突然背後に何か冷たいものを感じて恐る恐る振り向くと、殺気をビシバシ放出しながら立っていたのは悪魔共の首領。

「・・・そいつをここまでへべれけにしたのはテメェか?」

ぶんぶんぶん

「この部屋借りていいな」

こっくんこっくんこっくん

 絨毯に突っ伏している山本を置いて脱兎のごとく駆け出した獄寺は、ザンザスが開け放って入ってきたらしいドアを物凄い勢いで閉めて、詰めていた息をぶはーーーーっと一気に吐いた。
(ウワ―ウワー来ちまったよ!アイツ明日の朝冷たくなってっかも!!)
 中の様子は気になりつつも、わくわくする気持ちが抑えられない獄寺、10代目に報告だー!!と一目散で駆け出した。


 突っ伏した拍子に手から転がったらしいブランデーの瓶をつま先で軽くつついてから、ザンザスは山本の隣にゴロリと寝そべった。

「大して強くねえくせに、一体どんだけ飲んだんだ」

 呆れてつぶやくと、気配に気づいたらしい山本がうっすらと目を開け、その色素の薄い瞳にザンザスを映す。

「・・・・あほザンザスがいる・・」

 真っ赤な顔でまだ夢現でいるらしい。

「・・・人の顔見るなりいい度胸だなぁてめぇは」

 酔っ払いの戯言、本気で怒ったりはしないが。
然し山本、ふふんと笑って

「あほだろー。人を女と間違えて名前呼ぶなんてよー」

「・・女?」

「マッリーア!だって?熱烈に呼んでたぜー」

 ザンザスの顔色が僅かに変わったのを見て、山本は眉間に皺を寄せながらも、競り上がる笑いが止まらない。
 はははと乾いた笑いを残して、いつの間にか手から離れていたブランデーの瓶を引き寄せようとして、その手をザンザスに捕らえられる。

「んで自棄酒か。ガキ」

 さすがにその物言いにはカチンときた。さんざん良い様に喘がされ、奉仕させられ、挙句の果てには女の替わりだと現実を突きつけられて―――クリスマスのこの夜に。

「・・・どうせ、アンタから見りゃガキだろうけど、でも俺は少なくとも身代わりで誰かを抱くことはないし、抱いてる相手と違う名前を呼ぶような・・・ヘマはしねえよ・・」

 あくまでもヘマだと、それは罪ではないからと逃げ道を残してやろうとする山本に、くくっと咽喉の奥で笑う。
 頑丈な腕の中に囲い込まれ身動きできないまでも、どうにかその手を逃れようと身を捩ればいきなり仰向かされ、窒息しそうな口付けに襲われる。
 もともと酔って力の入らない体は、ザンザスの無体を拒むことなど出来るはずもなく・・・。
 抵抗むなしく降参した山本は口内を蹂躙する獣が去るのを大人しく待った。

「・・・っはぁ・・」

クラクラする視界に一杯に広がる、不機嫌そうな、それでいて楽しそうな、語彙の少ない山本には何と表現すればいいのか分からない様な表情のザンザスを見て山本は首を傾げる。

「おい、今日は何の日だ」

「――え・・・・クリスマス・・」

もうとうに怪しい呂律で懸命に答える山本にザンザスが薄く笑う。

「Natale con i tuoi e pasqua con chi vuoi」(クリスマスは家族と、復活祭は恋人と)

 耳に響くバリトンでゆっくりと囁かれ、はからずも山本の背筋は震えた。

「そんな夜に、何で他の女と過ごさなきゃなんねぇ?」


 カトリック教徒の多いイタリアでは、クリスマスは一年で最も重要な祭日だ。24日深夜にはヴァチカンを始め、イタリア各地の教会でミサが行われる。そしてクリスマスというのは家族が揃って敬虔に過ごすための日でもある。
 まだ何を言っているのかわからない山本の耳に、今度は物騒な色を滲ませてザンザスがボソリと囁いた。

「いいか?笑ったらお前をこの銃の餌食にするからな。―――マッリーアは俺の母親の名前だ」


 ザンザスの母親は6歳の時に九代目に彼を養子に出した。そうして彼女の未来は永久に保障されたものとなった。だが母は毎月届くその金を湯水のように使った挙句、野垂れ死にしたのだ。ザンザスは陰で嘲られ、母を呪い恨んだ。しかしそんな女でも九代目は手厚く葬り、小高い丘に墓まで立ててくれたのだった。


 そこまで聴くと、今まで大人しく腕に収まっていた山本がいきなりガバリと起き上がったかと思うと絨毯に頭を擦り付けるように頭を下げた。

「ザンザスごめん!!!」

「・・おい」

 突然のことに多少也とも驚いて、いつも半開きの目が丸くなる。
「お・・俺、女の人の名前だってだけで勘違いして・・まさか、お袋さんだなんて、思わなくて・・・みっともなく嫉妬したりして・・ほんっっとにごめん!!」

 例えば夢の中に出てきたからといって自分ならはたして父を『剛』と呼ぶかどうかということは考えもせず、山本は自分の短慮に呆れ、深々と謝った。

「いや・・別に俺はわかりゃいいっつーか・・」

ザンザスの言葉におずおずとその頭を上げる。

「怒ってねぇの?」

 上目遣いで自分を見つめる山本の薄茶色の瞳に、仕方無さそうにため息と軽い拳骨を1つ落として。

「どっちかっつーと怒ってたのはテメェだろうが」

「いてて・・あ、そーか」

 やっと落ち着いたらしい山本をもう一度抱き寄せて、すっきりとした襟足に腕を回せばかちりと目が合いザンザスは真剣に見つめた。

「さっき言ったこと分かったか?」

「・・・んー・・つまりファミリーで過ごすのがクリスマスの全うな過ごし方だってことなのな?」

「・・・・違う・・!!」

 ガックリと肩を落として恨みがましい目を向けるものの、山本は既に睡魔に引きずり込まれるように、とろとろとまどろみに身を任せている。然し山本がこんな風になってしまった理由の一端(どころか二端、三端も)に心当たりのありすぎるザンザス、無理に起こすわけにも行かず。
(・・おい、俺はさっきすげえことをお前に言ったはずなんだがなぁ・・)
 苦笑しながら、山本の身体を抱き寄せ自分の胸に引き込む―――いつもの、彼の定位置に。
 夢の中でザンザスは、ボンゴレの屋敷から遠く離れた素晴らしく見晴らしの良い丘の上、母親の名が刻まれた墓の前に立っていた。
 死んだと聞いてから墓を参ることも、いやそれ以前にボンゴレに養子に来てから、その後一度も会うことのなかった彼女。
 けれど自分はその墓の前に立ち・・・その後ろには片手に美しい花束を携えた山本が立っていたのだ。
 ―――少し寂しげに、それでも微笑んで。
(なあ、あれはどういう意味だったんだ?)


 いつか、もう少し時間が経って、お前が俺の前から絶対にいなくなったりしないと思えるようになったらその時、今夜見た夢の話をしてやろう。そして、二人であの場所に―――。
 胸にひたりと耳をつけて心音を子守唄に聞きながら眠る山本を、野生の少年を外敵から護る大きな獣のごとく、その身体にしっかりと硬く武骨な腕を回してザンザスはゆるく目を閉じる。
 窓の外はイルミネーションが輝く聖夜。大きな部屋のパチパチと炎はじける暖炉の前、大きな身体をお互いに向き合うように丸めて、二人は寄り添って眠った。



 翌朝そんな二人が一緒に朝食の席に現れたのを見て、獄寺から話の一部を聞いて心配していた綱吉が「山本が無事でよかった」と、陰でコッソリ安堵の息をついていたとか。





   おしまい

 山本は「お母さん」に弱いと思う。ラブラブ幸せザン山(笑)プロポーズは遠まわしな言い方では山本に伝わらないですよボス!!

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あきゅろす。
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