小説<ヒバ山僕シリーズ&ヴァリ山>
もっと泣いてよ My Dear     <前編>
 山本武 14歳、誰からも愛され、誰からも天然とあきれられる男ーーーーー。


(まったくもって腹が立つ)

 あんな告白まがいのことをされて数日、こちらの方が赤面してしまったという事実はそこら辺に置き去りにして、では其処から二人の何かが変わったかといえば・・・。

「おはよ ひばりーー!」

 背中を叩こうとする手を避け、じろりと見やる。
山本は「おー、相変わらずおっかねーな」と少しも落ち込むようなそぶりも無く、同じクラスの草食動物を見つけて駆けて行ってしまった。そこにはあの時、嬉しそうに、少し照れたように雲雀に向かって笑っていたあの顔の面影はまったく無い。

「・・・・・・・気に食わない」

 雲雀は風紀委員が遅刻検査するために立っている校門の内側で ぼそりとつぶやいた。気になる相手にあそこまで言われたら嬉しいに決まっている、が、問題はそこではなく、言った本人が「俺はこんなにひばりが好きだ!」と告白めいた事を言った事実を、全然まったくこれっぽっちも自覚していないということだ。


「いくら天然だからって程度問題だよ。まさか、もしやとは思うが素で誰にでもあんなことを言っているの?・・・・いや、というより、あんなこと言っておきながら・・実は僕を好きだって自覚して・・ない・・・とか・・・・・」

 背中に暗雲をしょいながら、一つの考えに行き着く。
 子供子供していない顔立ちで身長もでかいし、考え方も意外にしっかりしているようだが、少し前の事件の時のように、年相応の表情を見せることもある。野球一筋だったと言う彼なら、多少そういうことにうとい面もあるかもしれない。

「・・・・・無自覚ほど性質の悪いものは無いからね・・・。そう、君がそう来るなら僕にも考えがあるよ」

 先程のうろんな表情はどこへやら、人相の良くない笑みを浮かべると、チャイムと共に締め出された遅刻者の名前をチェックするべく、雲雀は手の中の鉛筆をくるくると回した。


「ありがとうございました!」

 解散の大きな声がグラウンドに響き渡り、今日も一日が終わろうとしている。山本は着替えもそこそこに鞄を担ぐと応接室へと足を運んだ。
 11月初冬の 早い日暮れになんとなく心がせいて「廊下は走ったらいけないって知らないの?」怖くて優しい委員長の顔を思い出し、いたら怒られそうだな、と独りごちながら階段を一気に駆け上がる。
 最近ではいつも顔を出す山本の為に「無用心な気はするけど、まぁなにかあっても君、大抵のことは対処できるでしょ」と、自分が見回りでいない時でも鍵を開けておいてくれる。そんな気遣いがとても嬉しくて、雲雀の側にいるとつい顔がほころんでしまうのだが、いかんせん山本本人はそれに気付いていなかった。
 
「アレ?」

 ガチャリとドアノブを回して、鍵が開いていないことを不審に思いながら、雲雀がもしかしたら中にいるのではないかと、山本はドアをノックした。

トントン

返事は無い

トントントン

やはり中からは何の物音もしない。

「おっかしーなー」

居留守使ってんじゃないよなー、もしかして具合が悪くてぶっ倒れてたりして!?

ドンドンドンドンドン!!!!


「うるさいよ」

 静かな低い声に瞬時に振り向く。
心配のあまりか、眉が下がっている山本を横目に、ポケットから鍵束を出すとその中の一つでカチャリと応接室の鍵を開ける。

「な・・なんだよひばりー!俺鍵が開いてないからすっごくびっくりしたんだぜ!中で何かあったんじゃないかって・・・」

 凄く心配したーーーそう言おうと思っていたのに、雲雀があんまり冷たい顔であんなこと言うから・・・。


「ああ、忘れてた」



 俺はその日、「何してるの?早く入りなよ」と雲雀がコーヒーを淹れて俺の前に差し出してくれるまで、応接室に入ることが出来なかった。



 昨日の雲雀はどこか虫の居所が悪かったんだ、きっとそうだ。山本は単純にそう考えて朝練の為に早々に家を出た。
 日一日と太陽の昇る時刻が遅くなっているのを感じながら、あともう少ししたら、雲雀も卒業してしまうんだな、なんて考えていた。
(そういやあいつって高校どこ行くんだろ。もう受験勉強しなきゃ駄目なんじゃないの?随分余裕だなぁ)
頭は悪いほうじゃないとは思うけれど、いざとなったら権力に物を言わせて何とかしそうだけど。

「学校行ったら聞いてみよ」

 吐く息が少しずつ白くなって行っている気がする。今年の冬は厳冬らしいとテレビの天気予報で言っていたから、グラウンドで練習できるのはあと僅かかもしれない、山本は一分一秒を惜しむ野球少年らしく学校へと猛スピードで走った。
学校に着くがまだグラウンドには誰もいなくて一番乗りできたことに少しウキウキする。部室に向かう途中見上げると、応接室に明かりがついていて、不良でまじめ(?)な委員長が其処にいるのだとその存在を誇示しているように見え、野球部員が集まり始める僅かの間、顔でも見てこようかと山本は校舎内に足を踏み入れた。
学校の中は廊下の電気などもちろん点いておらず、これが夜であったならさぞや恐ろしいことだろう。
応接室からは明かりが漏れている。
(珍しいなひばりがちゃんとドア閉めてないなんて)
もしかして、俺が来ると思って開けておいたりして なんて他の誰かなら考えもしないことを思いながら、ドアをあけると。

「うわ〜・・・ほんっとめずらし」

煌々とついている明かりをものともせずに、雲雀は重厚な机の上に足を乗せ、椅子の背に頭を乗せて眠っていた。両手はきちんと胸の前に組まれている。
(疲れてんのかな。骸と遣り合ってから大分経つとはいえすげえ怪我だったのに ひばりってばすぐ病院から出てきたんだよなぁ・・・並盛中が心配だとか言って)
 何でそんなに並盛に命かけちゃってんだろ、と思わないでもないけれど、其処が雲雀のいいところだとも思う。
 ふと、まぶたにかかる髪の毛がうるさそうに思えて、手を伸ばした。
(そういや、雲雀の髪って触ったことねぇな。柔らかそうに見えるけど)
 するりとまぶたの上を滑らせ、横に払った、その瞬間。

「なに?」

冷たい声と共にその手を叩き落され、山本は絶句した。

「あ・・あの、ごめん前髪が邪魔そうだなーと思ったから・・さ」

 叩かれた手よりも どこか他の場所が痛むような気がするけれど、とりあえず手を擦りながら雲雀を伺うと、雲雀は頭を起こし、こちらを睨みつけるようにしながら言った。

「僕は他人に触れられるのは嫌いだ」

「ついでに言うなら何で君がここにいるの?」

 足を机から下ろして山本に向き合うと、雲雀は無断で応接室に入っていたことを非難してくる。

「その・・朝練に来たら応接室に電気点いてたから、ひばりがいるんじゃないかと思ったんだ。勝手に入ってごめんな?」

 困ったように眉根を下げて言う山本に少し満足したのか、ふう、と一つだけため息をつくといつもの人の悪そうな笑顔で席を立つ。

「一人でいると寂しいから僕のトコに来たんだ」

 雲雀は「へ?」と不思議そうな顔をしている山本の前を横切って、何故か設置してある冷蔵庫から山本愛飲の牛乳in ゼリーを投げてよこすと、「そろそろお仲間が集まってきているようだよ」そう言って山本をグラウンドへと追いやった。

 雲雀からもらった牛乳inゼリーを片手に廊下を足早に歩きながら、何故か山本はドキドキする胸を抑え切れなくて困った。
(なんか、ひばりやっぱりいつもと違う。昨日もそうだったけど、あんな冷たい声聴いたこと無かった・・・(と思う)なんで?俺何かしたっけ?)
 日頃から獄寺にも馬鹿馬鹿言われているけど、雲雀が自分を呼ぶときはもっと、こう、・・・・。
 
 ーーーーなんだよひばりこの間一緒に帰った時 何かの拍子に手が触れ合って「ごめん」って謝ったら笑ったくせに。


「あーーーーーーーーーーっっ!!!」


 モヤモヤするこの気持ちが何なのかさっぱり理解できず、廊下に大きな声を響き渡らせ、同じく大きく足を踏み鳴らして山本はグラウンドへ走った。

 同じ頃応接室から密かな笑い声がもれていたことも知らずにーーーー。





「あれ ひばりだ」

 土曜・日曜、そして祭日が重なった三日間、練習試合の為に他校に赴いてた山本は、雲雀と顔を合わせるのがとても久しぶりな感じがして嬉しくなった。(思えばツナや獄寺とも三日ぶりなのだが。)
 山本たち三人は体育の授業のため、体育館の渡り廊下を歩いている途中だったが、その窓から体育倉庫の横に立っている雲雀が見えたのだ。
 声を掛けようとした山本の肘辺りを掴んで綱吉がすばやく止める。

「?なに ツナ」

「山本、ちょっと待ってよホラ・・・」

 綱吉がそっと指差す方向に目をやると、体育倉庫の影になる形で、もう一人誰かが立っていた。二人がよく見える位置に移動すると、雲雀と相対しているのはリボンの色から雲雀と同じ三年の女子だということがわかり、綱吉と獄寺は怖いもの見たさで、山本は興味と一緒に数日前のもやもやをまた感じて、その場から動くことができない。
 女生徒はどこか夢見るような、緊張しているような表情を雲雀に向けている。
 
 窓越しなので言葉は聞こえないものの、何度か自身がこういった場面を経験しているから何となくわかる。


   ひばりが  告白  されてる


 山本は息苦しさを感じて俯くと 自分の体操服の胸の辺りをギュウっと握り締めた。ーーーーーーだからその一瞬、雲雀がこちらを向いて嬉しそうに笑ったのを山本は知らないーーーー。
 そしてその一部始終をめんどくさそうに見ていた獄寺が、苦虫を潰したような顔をして盛大にため息をついた。


                つづく

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