小説<ヒバ山僕シリーズ&ヴァリ山>
アイドルを探せ!!  <前編>
 大勢の人で賑わう並盛中学の校舎を、山本武は息を切らしながら時々後ろを振り返りつつ、そして前後左右に注意を払い走り続ける。

 本日11月某日、並盛中学創立50周年記念の文化祭開催中であった――――。




「却下」

 ベン!!と不合格の印鑑を押されて、やりたくもない文化祭の実行委員を押しつけられた沢田綱吉の顔が歪んだ。

「ちょ、ちょっと待ってください雲雀さん!」

 目の前の恐怖の風紀委員長の目を見ることが出来ず、視線を斜めに、内心ビクビクしながらも綱吉はクラスの出し物の許可を求める。
(ここでおとなしく引き下がったりしたらクラスの皆から何言われるかわかんないし〜・・・)
 現在まさに前門の狼後門の虎状態で、行く事も帰る事もいかない状態なのだ。

 大体なぜ駄目なのかが解らない。
やっと決まった2−Aの出し物はただの「喫茶店」で、少し変わっていることいえば 男子がエプロン姿でテーブルサービスする、という位だった。
 既に生徒会の方では「これでいい」と話が通ったので、「あとは風紀委員にきいてみてください」と何故か青ざめた顔で生徒会長に言われて応接室に来たわけだが・・。



「テーブルサービスってつまりアレでしょ、お盆にコーヒーだか紅茶だか乗せて、運び終わったら“どうぞ ごゆっくり”とか言ってニッコリ笑ったりするんでしょ」

「でもってそのエプロンは前掛けじゃなくて腰から下の長ーーーいソムリエエプロンてやつなんでしょ」


 ――――ええそうですが それが何か。


 なんとなーく次に吐かれるセリフがわかってしまった気がして、綱吉は恐ろしいながらもうんざりしてしまう。
(・・・言わせていただけるのならば、それはいわゆる公私混同というものではないのでしょうか。)

「冗談じゃないよまったく。君たちのクラスでやるとなればどうしたって山本武がやらざるを得ないじゃないか。あの子は女受けのいい顔をしているし加えてあの身長だ、ソムリエエプロンなんて着けたら校内の女子が殺到するに決まっている。そんな危険な出し物を僕が許可できるわけが無い」

 やっぱり山本ですか誰にとってどんな風に危険なんですか一番危険なのはあなたじゃないんですかとはとても言えない。―――なにせこの並盛一恐ろしいと評判の風紀委員長が唯一心を許して、本人曰くかわいがっているらしいのが、並盛一人望があり、かつ天然な自分の親友山本武なのだ。

 が、綱吉はここでほっとしながら雲雀を見た。

「山本なら出ませんよ」

綱吉の言葉に、雲雀の少ない表情がわずかに動く。

「・・・・え?(あのお祭り大好き男が?)」

「当日は野球部の出し物の方に行かなきゃならないって言ってました。三年生が抜けて12人しかいないから、絶対手伝わなきゃだめだって・・・」

「へぇ・・・・」



 しばらく考え込んでいた雲雀は、先ほど押したハンコの上に「訂正」と[許可」の印をバンバンと立て続けに押すと、「やった!」と心の中でガッツポーズを決めていた綱吉にニヤリと笑い、凍りついた綱吉にむかって言った。

「今言ったことが口からでまかせだったら、わかり次第噛み殺すから」





 創立50周年記念の文化祭とあって、例年は絵画や工作、PTAの作品展示の他はせいぜいフリマがあるくらいのものだったのだが、今年は全校生徒挙げて各々が出し物を決めることになった。
 演劇部と合同で体育館を借り切り「現代版ロミオとジュリエット」を演じるクラスあり、屋台道具を借りてきて校庭で「お祭り」をするクラスあり。
 催しが大きければその分生徒は羽目を外しやすく危険度も上がるという訳で、生徒会が目を通した催し物をいちいち風紀委員がチェックすることになったのだ。もちろん当日も各校舎に風紀委員を配備し、厳しく目を光らせるつもりであろうことは、不良と言われながらも並盛中をこよなく愛している雲雀恭也を見れば一目瞭然だった。



「で、君たちは何をするの」

 ソファに沈んで体育座りするその膝から、山本は目から上だけ覗かせて何となく言いにくそうな顔をしている。

「・・・ひばり“いいよ”って言って」

「教えてくれなきゃ応えられないと思うんだけど」

「・・・なにも言わずにここにハンコください」

「・・・・・・・・・・一体何を企んでるの・・・?」

 背後からゴゴゴゴと音がしそうな雲雀を見やって(あーあ)とため息をつく。
 野球部の皆は「お前の言うことなら雲雀さん絶対オッケー出してくれるから!!」なんて簡単に言っちゃってくれるけど、この風紀委員長が風紀が乱れそうなことを、例え好かれている(本人曰く相思相愛?)らしい自分が頼んだとしてもそうそう許してくれるワケが無いのだ。そうかといって、部員の人数が少ないので大掛かりなことは出来そうに無く、やっと搾り出した案なのだから簡単にあきらめるわけにもいかなくて・・・。

 ピラリ
「あっ!」

 すかさず山本の手から申請用紙を奪い取った雲雀がその内容に目を通していくたびに、その険がどんどんけわしくなっていく。
 企画の内容自体は山本自信も「おもしろそうだな」と思う物ではある。だがしかし、風紀委員の肩書きを持つ雲雀にしてみれば、大勢の生徒や保護者、来賓客がひしめく校内を走り回るなど、所詮危険行為としか考えられないだろう。
(あちゃー・・・けっこう大勢で楽しめそうな企画なんだけどなあ)
 やっぱり駄目だろうなぁ、ごめんなー野球部のみんなー。
 山本が心の中で野球部員全員に謝りを入れていると最後の一文を読み終えたらしい雲雀が、バンと応接机の上にあった判を押した。

「いいよ」

「ええーーーーーっ いいの!?」

 こんなにすんなりと判がもらえると思っていなかったので交換条件を色々と考えていた山本は、ちょっと拍子抜けしながら雲雀を見つめる。

「だって困るんでしょ?これに判押してもらえないと。」

「え?あ うん」

(いやまあ、それはそうなんだけどそんな簡単にいくとは・・・・。うーーん、でもま、せっかく雲雀が良いって言ってくれてんだから良いや。やっぱ雲雀っていいやつー!)
 もともと天然さんな山本はさして深く考えることも無く、さんきゅーとにこやかに用紙を受け取って「んじゃこれ野球部に持って行って来る」とさっさと応接室を出て行ってしまった。
 もちろんドアを閉める前に「今日一緒に帰ろ」と言うのを忘れずに。


 部屋に一人残された雲雀は、椅子の上で軽く腕を組むとうっそりと微笑む。
――――先ほど山本が見せた申請書の内容はこうだった。



    申請書

催し物:「アイドルを探せ」

内容:アイドルは我が部のエース山本。部員全員(もちろん本人も)が覆面を被り校内を逃げ回る。(校外へ出たら失格)
   本物を制限時間内に捕まえたらその時点で終了し、捕まえた人の勝ちとなる。(制限時間:文化祭終了の2時間前)

参加人数:人数制限は特になし   

優勝商品:文化祭終了までの時間を山本武と楽しく過ごせます!



 途中までは確かに読んでいて気持ちの良いものではなかった。あの子はどうも自分が女子に与える影響の大きさをわかっていない。ジャニーズとまではいかなくとも、あの容姿に さばけて明るく面倒見のいい性格、おまけにスポーツ万能ときているならば もてない訳が無い。つまり無数の女子が校内を優勝商品である山本獲得の為に走り回るのだ。
(野球部もやってくれるね)
 ――――応接室に入ってきた時の山本の表情からすれば、あまり乗り気ではなかったようだけど。

 

 部員が少ない分を企画で何とかカバーしたようだけれど、そうは問屋がおろさないよ。参加は女子に限ってはいないことだしね。


「フフ・・・当日がとても楽しみだ」


最後の一行を思い出して、雲雀は意地悪く微笑んだ。





「それではー!今から三分たった後に、逃げたエース山本武を探しに行ってくださーい!!」


 司会の声に「キャーーーー!!」と黄色い歓声が上がる。文化祭開会式の校長や来賓の挨拶が終わると同時に校門が開き、他校生徒や生徒の家族関係者・近所の子供たちが多数入場し始めた。もちろん校門には我らが風紀委員長がその目を光らせているので怪しい人物は絶対入ってこれない。生徒たちは安心して祭りに興じることができた。体育館では各部の出し物の説明が行われており、ポスターで既に告知してあった為、野球部がゲームを説明する時には体育館の前半分を女子が占領していた。
(なんか女ばっかなんだけど、何で?これって女子限定のゲームだったっけ?)
 すでに自分が景品になっていることなんてすっぱり頭から消えて無くなっている山本は、目の前の光景に小首をかしげた。しかしゲーム開始の合図にはじかれ、「ホラ行くぞ」と後ろから自分より10cmも背の低い山本武に言われると、笑っちゃいけないと思いつつも、のどを震わせながら体育館の廊下を走り抜けていった。

「いたーーーーっ捕まえるわよーーーっ!」

「あっ、あそこに隠れてる!!」

開始時間から程なくして一人二人と山本武が捕獲されていく。ある者は音楽室のピアノの下に隠れていたり、ある者は他教室で生徒と一緒にゲームに興じていたり。しかしまだ誰も、覆面の下に隠れている本物の山本を捕まえることはできていなかった。

 その頃、山本はといえば、実はのん気に屋上に通じる階段の手すりから校内の喧騒を覗き見て「やってる やってる」なんて思っていた。今やっと10時を過ぎたばかりだから、あと2〜3時間もすれば山本を除く11人全員捕まってしまうだろう。(文化祭の終了時刻は4時30分だから、その2時間前まで、つまり2時半まで逃げ切れれば俺の勝ちだ!)
生来負けず嫌いである山本の頭は、捕まった後のことなどこれっぽっちも考えてはいない。というより、自分は誰からも逃げ切る自信があったので、とりあえず見つかるまでは体力を温存しておくつもりだった。
 屋上へ通づるドアを開けて金網越しに下方を眺めると、校門から玄関まで風紀委員が並んで来場客をチェックしている。その中にはもちろん 腕章を付けた学ランを肩からなびかせた我らが風紀委員長が、此処からではいくら視力の良い山本でも見えないがその鋭い眼をさぞや光らせているのだろう。
(あれじゃひばりは文化祭楽しめないだろーな・・・)
彼が並盛中を守ることを一番の信条にしていることはわかっているけれど、中学生活最後の文化祭なのに何だかかわいそうに思ってしまう。少しでも彼が楽しめるような方法は無いかな?と考えて、山本はその身を屋上のフェンスの上から乗り出して雲雀に向かって手を振ってみた。

『おーーーい ひばりーーー』

 上から聞こえるかすかな声に雲雀が空を仰ぐと、笑いながら大きく手を振る愛すべき馬鹿が見えた。(・・・あの子覆面とって何してるの・・・)
ぶんぶん手を振って『大変だなー!頑張れよーー!』とぼそぼそ叫んでいる。小さくて聞き取りにくいのは一応見つからないようにと気を使っているのか。
(だけどフェンスに登ったりしたらその目立つ容姿は丸見えなんだよ)
 手をヒラヒラさせて、向こうへ下がれと合図するが一向に振る手をさげようとしない。それどころか雲雀が見ているのに気をよくしてさらに手を大きく振るものだから身体が今にも金網から落ちてしまいそうだ。(ああ まったく・・・)
雲雀は口元に手を当てて誰にも見えないようにこっそりと笑う。

―――――馬鹿だな君は

「あーーーーーーーっ!!山本くん見ーーーーッけ!!」

 バッと振り返った瞬間、2人の女子生徒はすでに校内に向かって走り出していて、もう一度雲雀が屋上を見やれば、そこににいたはずの山本の影は形も無くなっていた。

「ちっ」

 珍しく委員長の舌打ちする音が聞こえ、副委員長の草壁が「どうかしましたか」と尋ねるが早いか

「僕は校内を見回って来るからあとよろしく」

 そう言い残すと雲雀はしなやかな豹のごとく駆け出
した。

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あきゅろす。
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