小説<ヒバ山僕シリーズ&ヴァリ山>
夕焼け物語   <中編>
なーんて言いながら。
それでもやっぱり自分が他人と群れ群れしているとこなんて想像したくなかった雲雀は、往生際悪くも一応山本に気を使ってとりあえず1つだけ、マンションの窓辺にてるてる坊主を逆さづりにしてやった。
(僕を恨んで雨を降らせて見ろ、もしもそれが出来たなら雲雀財団の金を使って素晴らしい祭壇に奉ってやろうじゃないか!)


『雲雀ーーーっ!!すっげえいい天気になって良かったな!!』
「・・・・・だね」
逆さの坊主が恨めしげにこちらを覗いている窓辺で、ちゅんちゅん雀とヒバードが戯れる様子を見ながら雲雀は朝早くから元気のいい声に起こされ少々不機嫌―――いや、まったくもって不機嫌極まりない。
梅雨だというのにカラリと晴れ渡った雲ひとつ無い青空。一体誰の日頃の行いが良いというのか。
『弁当つくり終わったから!雲雀のリクエスト、しっかり入ってるからな!じゃあまた後でなー!』
「なー・・・・」

 ツーツーツーツーツー・・・・ぶちんっっ!!

「じゃないよっっ!!!」
雲雀は携帯電話の通話ボタンを荒々しい手つきで切るとガラガラ勢い良く窓を開け、部屋の主のあまりの形相に驚き飛び去った小鳥達には目もくれず、恨めし気に自分を逆さのまま見上げる(見下げる?)そいつを、ぶら下げている紐ごともぎ取って床に叩き付けた。
「こんの役立たず・・!!」
ああ最悪だ。この雲雀恭弥ともあろう者が一般の生徒と混じって走ったり跳んだりしなきゃならないだなんて!たかが、1つ年下のかっこ可愛い恋人の為に!!
雲雀は手の中で朝日を浴びて煌いている携帯電話を眩しそうに見つめた。いっそ、やっぱりやーめたと言ってしまおうか。自分が気まぐれなのは彼だって知っている、今更1つくらい約束を反故したってどうって事は無いじゃないか。

そうだよ、無いだろう、けれど。


『普通に学校生活してる雲雀、見たいぜ』

『早起きしてすっげえ弁当作る!』

『俺からの頑張れコール!』


例え自分がやめたと言ったって、きっとあの子はまた“そっか”と言ってくれるだろう、お弁当は野球部の皆と食べるさと電話を切って、後日携帯を返しながら『やっぱり雲雀らしいな』なんて笑うんだ。
少しも気にしてない顔をして、僕の前でさえ何でも無いさって顔をして―――。


雲雀はちらりと時計を見て、ハンガーにかけてある学生服の白いシャツをベッドの上に放ると、パジャマのボタンを外し始めた。
「行くよ」
いつの間にかまた窓辺に戻って来ていたヒバードを呼び寄せ、窓の鍵を閉める。いつものように学ランを肩から羽織って鍵と携帯だけをポケットに入れて玄関を出ようとして、ふと何か思い出したように立ち止まった。
「ちょっと待ってて」
ヒバードを玄関脇の備え付けの靴棚に乗せて踵を返した雲雀は、ものの1分もしないうちに姿を現すと、ちょこんと肩に乗ってきた小鳥を確認もせずにすたすた歩き始める。
硬質な音を立てて閉まったドアに鍵を掛けズボンの右ポケットにしまいこみ、足早に階段を下りる雲雀の反対側のポケットには、どちらが表か裏なのか、紅白のはちまきが一本、ちらりと顔を覗かせていた。


学校の校門では風紀委員たちが生徒から携帯電話を没収していた。競技の最中にカチカチやっている姿は来賓客や応援席の親達から見ても好ましい物ではないと先日教師から通達があり、風紀委員としては取り締まらざるを得ない訳で。とは言うものの運動会の最中に一人一人に目を配るのも無理な話ということで、それならばいっそ最初から持たせなければ良いのだという結論に辿り着き。
「委員長・・・あの・・携帯は・・」
「僕はいいの」
「いえ、ですが・・」
「何?」
「・・・・・いえ・・」
ダンボール一杯になった携帯電話の山×3の前で物静かに腕組みしている雲雀のズボン後ろポケットからは、ここ並盛では有名な某水族館の記念品であり、限定品である事から実はオークションで結構な高値がついているイルカの携帯ストラップが堂々と顔を覗かせている―――風紀委員達もご他聞に漏れず各自の携帯を四角い箱に入れたというのに。
(だけどっ元委員長ですら言えないのに俺たちが言える訳がないっ!!自分ばかりずるいだなんてっ・・!!)
並盛高校に入学してまだ2ヶ月だというのに、既に前風紀委員長を蹴落とし委員長の座に君臨した雲雀に、元委員長現副委員ですら苦言を呈す間もなくあしらわれる姿を見つめ、雲雀よりも学年は上であるはずの委員達は後ろを向いてくぅっと悔し涙を流すのだった。


自分の競技以外では一般生徒たちと群れる気等さらさら無い雲雀は、放送部が陣取るテントの下、長机の隅に腰掛けて面白く無さそうに頬杖をついていた。
午前の部での自分の競技は昼直前にある『借り物競走』のみだ。プログラムは順調に進んでおり、このままなら割と早くに自分達の競技に到達するかもしれない、ということは現段階で山本の姿は見えないのだから、上手くいけば自分達の競技が終わってから彼がここに到着する事も有り得るわけで、つまりは彼が見ていないならば自分は走る必要が無い―――。
(今時計の針は10時半を過ぎた所、あの子は11時くらいには来れると言っていたから、あともうちょっとで競技が始まってしまえば・・!!)
腕に顎を乗せ、つまらなそうな顔でそんな事を考えていた雲雀のジャージズボンの後ろポケットが不意に振動を伝えた。
パカリと開いて通話ボタンを押せば、途端に周りの喧騒に負けないくらいの元気のいい声が響く。
『ひばりーーっ!!来たぜーーーーっっ!!』
ああもう来ちゃったよ・・・。
折角このまま出番が無ければいいのにと思った矢先のあの子の出現に、がっくり肩も落ちるというものだ。この声の大きさなら電話で可愛くワンコール、なんてしなくたって充分声援が届くんじゃないんだろうかと疑問に思いながら、耳元から10cm近く離して父兄入り口に視線を移せば、背の高い練習用ユニフォームのままの山本が自分を見つけて大きく手を振っていた。
仕方無しにひらひら手を上げれば、気付いてもらえたことが嬉しいのか、ぶんぶん音が聞こえそうなくらいにまた手を振り返してくる。思わず零れてしまう笑みに慌てて電話を持つ手で口許を覆って、珍しい物でも見るような顔で自分を伺っている周囲の目を誤魔化した。
(まったく・・埒が明かないよ)
このままでは競技が始まるまでずっと手を振らされそうな気がして、雲雀はよっこらしょと多少爺臭くも重い腰を上げると、本来ならば座って応援していなければならない自分のクラスの席に移動する。いきなり現れた気まぐれでクールな美少年クラスメイトに女子達は声援を張り上げながらもちらりちらりと視線を移し、男子達はこんな細身でありながら実は物凄い腕っ節を持っている雲雀が椅子に腰掛けた事で、一体これから何が起こるのか戦々恐々と遠巻きに眺めるのだった。
2年の障害物競走が終わる頃、1年生達は競技の為にグラウンド中央まで体育委員の先導の下歩いていかなければならなかった。ぞろぞろまるで蟻の行列か何かのように誰かの後ろについて歩きながら、頭に締めたハチマキの辺りを押さえつつああ早く終わってくれとまだ始まってもいないうちからため息をついた雲雀のポケットから一度だけ伝わる震動。
ハッとして顔を上げた雲雀が視線を巡らせると、大勢の見物客の中、ひときわ背の高いユニフォーム姿が携帯片手に長い腕を真っ直ぐに挙げている。その頭上に翳されている手は、なんとまあご丁寧にがっちりグーに握られていて。
(頑張れって言うよりあれじゃ“勝て!!”じゃないか)
げんなりしながらも負けず嫌いの彼らしいなと苦笑を漏らし、ここまで来たらやってやるかと肩をすくめた雲雀は、その後すぐにやっぱりこんな運動会山本を泣かせてでも出るんじゃなかったと後悔することになる―――。


「よーい!」
パァン!!
5つのコースに別れて走り出す生徒達の10メートル先には、自分の借りる物が書いてある紙が裏返しに置いてあり、それを拾って書いてあるものを手にしてゴール。内容的に特に難しい物は用意されてはいないし、観客席に借りに行っても生徒達の中から借りても良いことになっている。
「よーい!」
とうとう自分の番になってしまったので白い石灰のラインの前に並んだ雲雀は、まあこの一度さえ走ってしまえば個人競技は終わりだからいいかとぐるりと観客席を見渡した。背の高い山本はただでさえ目立つというのに自分と目が合った途端に嬉しそうに両手をまた振り始める。
(あーもう、わかったわかった)
何となく気恥ずかしくなり額を押さえた雲雀の耳を競技用のピストルの音がつんざいた。
走り寄って紙を拾い表に返すと、黒いマーカーで書いてあるのは『マイク』。
放送席のテントへ向かった雲雀は、ゴツゴツっうわっやめてくださいガシャうるさいよなんていう音がグラウンドに向けて取り付けてある3つのスピーカーから流れているのも気にせずに、長いコードを引き摺ったままマイクを手にしてゴールへと走り出した。見れば同じ位置からスタートを切った他の生徒達はまだ目的の物が見つからないと見えて、観客席の辺りを叫びながらうろついている。
(僕にかかればこんなもの楽勝だよ)
『今のところ白が優勢ですが、立て続けに青が一位を取っています!勝敗の行方はまだまだわかりません!!』
放送席は仕方なくサブのマイクを繋いだらしい。走りながら目をやれば、雲雀の持つマイクの長いコードの端は既に栓から外れていた。
「あははは、雲雀すごいことすんな!!」
後方から耳に馴染んだ声が聴こえ、思わずいつものようにうるさいよと声を返そうとして、はたと立ち止まる。振り向かなくたって分かる。きっと背後に立っているのは、例年通りに日焼けした爽やかな笑顔。
「あれー?どした雲雀走らねーと追い抜いちまうぜ?」
「・・・はぁ・・?」
一時停止してしまった思考をゆるりと巡らす。ちょっと待ってよなんで君がここにいるの、僕が今走っているここは観覧席じゃないんだから、君が伴走しているわけは無いんだけど。
ゆっくり振り返り、自分の背後で誰かに手を引かれて笑っている男の顔を僅かに見上げれば。
「よっ雲雀!何か引っ張り出されちまった」
にこやかにほらこれ!なんて、繋がれている誰かの手が持っていたカードをするりと抜き取って雲雀の目の前に翳す。
『野球部』
・・・なにそれ。
「雲雀!勝負だ!!」
いきなり自分の後ろに現れた山本にあっけにとられて混乱を極めている雲雀の心情など意に介すことなく、青いハチマキを締めた並盛高校一年生より背の高い並盛中学3年野球部所属の山本は、青ハチマキに繋がれていた手をがっしと繋ぎなおした。
「うわ!?」
「いいっすか!?ほらしっかり!行きますよっっ!!」
いきなり走り出そうとしたために足が縺れたらしい青ハチマキを励ましつつ、転んだ男を早く立たせようとする山本が背中にひやりとした殺気を感じてとっさに振り向けば。
真っ黒のおどろおどろしいオーラを垂れ流しまくりの雲雀の手元、べきりという鈍い音と共に手に持っていたマイクが、真っ二つに折れた。
「・・・・こんの・・・馬鹿助・・・!!!!!」
「ひ・・ひえっ!!何やってんだよ雲雀っ!!」
「何やってる・・?ナニやってるはこっちのセリフだよっっ!!」
言うが早いか両手の残骸を投げ捨てた雲雀が凄いスピードで迫ってきて、山本は蒼白になりながら隣の男の腕を引っ張り慌てて立たせる。
「あわわわっ急げほら早く!!追いつかれちまいますってば負けちまう!!!」
ちょっと心配している方向がずれているようだがこの際それは置いておいて。殆ど青ハチマキを引き摺るようにして砂煙上げて目にも留まらぬスピードで駆けて行く山本のそのすぐ後ろを、雲雀は鬼気迫る形相で追いかけていた。
「何逃げてんのっっ!!」
「逃げるかよ!!勝負だ勝負!!!」
「僕は一人で君は2人だ!!僕の勝ちに決まってんでしょ!!いい加減その手を離しなよ!!!」
「手離したら一緒にゴールできないだろっ!!」
「一緒にゴール・・!?誰がさせるとおもってんのそんなこと!!絶対阻止する!!ていうか、僕と競った時点で負けだからいい加減諦めて離れろっッ!!」
「勝手に決めんな勝負の行方はやってみなきゃわかんねえの!!ってほらもうゴール!!」
ぱあんとピストルが弾けて、もんどりうって山本と青ハチマキ、そして雲雀がゴールテープに飛び込んだ。足がもつれ合いに縺れて転んだままの青ハチマキから山本の手を奪い取るようにして外した雲雀は、そのままその手をグイグイ引っ張ってグランド外へ姿を消した。当然そこに転がったままの可哀想な青ハチマキに蹴りを一発くれてやる事を忘れずに。


「痛い痛いってば雲雀!!」
「うるさい黙れ!!何連れ出されてんの何僕以外の奴に手繋がれてんの!!」
まだ競技の半分も終わっていないというのに校舎裏まで山本の手を引いてきた雲雀は、ゴツゴツした壁に山本の背を振り向き様押し付けた。相変らずの馬鹿力で肩を押さえられてしまえばもう逃げ道は無い。山本はかっかして自分を凄い目で―――例えるならばその視線だけで射殺せそうな―――見つめながら押さえつけている雲雀の手を、ちょんと可愛らしく硬い指先でつついてみた。
「いーたーいー。悪かったってば、ごめん雲雀。でも楽しくなかった?」
「何が楽しいの!?」
忌々しく睨み付けドスの利いた声で低く呟いてやったというのに、対する山本はというと少しも気にする風でもなく雲雀に向かって挑むような上目遣い、いたずらっ子が楽しい事を見つけた時のきゅっと上がった口角が憎々しい。
「君・・!!」
腹から込み上げる怒りとも嫉妬ともつかない感情を飲み下せず、いっそぶつけてしまえと眉間の皺を深くした雲雀が口を開きかけた途端、目の前のどうしようもない男が破顔した。
「だって!俺たち運動会で一緒の種目で競走できるなんて在り得ないんだぜ?それって凄いことじゃねえ?俺すっげー嬉しかった!!」
「雲雀と運動会で張れるなんて夢みてーでさ、あの人には悪いけどはりきって思いっきり全力出して走っちまった!!」
あー楽しかった!!
「・・・・・・・」

―――何なんだよそれ。一緒に走れたのがそんなに楽しかったって言うの?この僕と走れたって事が、そんなに

満面の笑顔の山本と対照的に雲雀は肩を押さえつけていた腕をぶらりと力なく落とした。ああくそ、どうしてくれようか、何てことを言ってくれるんだろうこの馬鹿は、いつもいつもいつも――――!!


こんな事言われて、怒れる奴がいたら見てみたいよ―――。


「雲雀ー?何だよマジで怒っちまったの?・・・ごめんってば」
けど俺ほんとに嬉しかったのにな
ずっと俯けていた顔を上げれば、少ししぼんでしまった笑顔と目が合って雲雀は眉を下げて仕方ないなぁとため息をつきつつ笑う。
「・・・しょうがないよね、こんな君を好きになっちゃったのは僕なんだから」
まだまだ覚悟が足りなかったかなぁと一人ごちれば、何雲雀借り物競走あんまり気合い入れて無かったのか?手ぇ抜いてたの?なんてとんちんかんな言葉が出てきたものだから、いい加減黙れとばかりにその頭を引っ掴んで唇を塞いでやった。


そして、戻ってきてみれば―――。

「まだ、やってたんだ」
意外と時間がかかる種目だなと呑気に呟いた山本を観客席置いて、自分の出場種目であるにも拘らずもう出番は終わったから良いだろうと、グランド外れの応援席を通り過ぎ先程まで陽射しを避けていた放送テントまで戻ろうとした雲雀は、後ろからガッシリと腕に縋りつかれとっさに殴りつけようと手を振り上げた、が。
「風紀委員長!!俺と一緒に走って下さい!!」
「・・・は・・?」
いきなりの事に対応が遅れ、振り上げた手もそのままにまたしても中央へと引っ張り込まれてゴールテープを切れば、次の走者が観客席に走っていくのが見える。
そしてその先には。
「君、他校の生徒でしょう!?早く!こっち来て!!」
自分を指差して俺?などと可愛らしく小首をかしげ笑っている背の高い男。
(あ・・あの子またーっ!!)
しかし超スピードで観客席に向かう雲雀は、今度は自分と同じく赤いハチマキを巻いた女生徒に横からタックルするように捕まえられ。
「ちょっと・・!!なに・・」
「雲雀君あのっ!わ、私とゴールへ・・!」
「・・・んなんで・・!?」
とは言え案外フェミニスト雲雀、両の掌を組んで見上げられれば駄目だと強く言うことも出来ず。
「君180センチある?!あるだろ!!一緒に来てくれ!!」
「赤のハチマキ・・雲雀くんっ!!こっち!!」
「おいお前!!鞄持って着いて来い!!」
「この眼鏡かけて私と走って!!」
やっと山本に一言言ってやれると思ったら呼び出され、観客席に振り返る後ろから腕を掴まれ。何だか自分達で無くたって良いんじゃないか、むしろ何でその内容で自分が呼ばれているのか、考える余裕も無いまま何度も呼び出されて。何度も行ったり来たりを繰り返し、只でさえ目立つのにやっぱり運動会になんて来させるんじゃなかったと考えていた雲雀は、実は自分だって充分に目立つ存在である事などちっとも自覚してはいなかった。

ぱあん!

最後の列が走り終わってゴールテープが切られた時には、雲雀も山本も各順位の旗の後ろでゼイゼイ肩で息をしていた。
「・・・た・・楽し・・かった?・・」
「途中までは・・な・・けど、最後の方はびみょ〜・・・」
「ざま・・みろ・・」
「何だよ〜・・それ・・・」
はーっはーっと大きく息をついて隣を見れば、同じように息を切らし自分を見ている山本と目が合う。
「変な顔・・」
「疲れ取る為に部活早く終わったってのにこれじゃ意味無いっての・・」
「・・くくっ」
「・・へへへ」
何故か鞄を担いだままの山本の右肩をトン!と突く。
「まあ、来年の参考になったんじゃない?」
「んーそうかもな!とりあえず借り物競走は自分の番が終わったら逃げるに限るってことは身に沁みた」
「あっはは、ほんとだね。でも君のことだから来年になったらそんなこと忘れちゃってるんだろうね」
「ひでえ!でもその辺りは確かに自信ないんだけどな!」
顔を見合わせたまま荒い息を整えつつ笑い合っていたら、先ほどとは違う音楽が流れ出した。知らないうちに次の種目に移っていたらしくて、俺らあんなに皆に引っ張りまわされて活躍させられたのに置き去りかよなんて言いながら山本が笑う物だから何だかもっと可笑しくなって、この高校に入学してから今まで、誰かの前でこんなに笑うの初めてなんじゃないかって位自分としては笑った気がする。


ねえ山本、君が一緒にいてくれるからなのかな。こんなつまらない行事でも君が言うように楽しいって思っている僕が、ここにいるよ。



 つづく。まだつづく。次で終わるかな(汗)

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あきゅろす。
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