素敵な頂き物
僕は世界を救わない ヒカル様より3万リクエストヒバ山小説
[苦しくてせつない、いとおしい詩(うた)]





はっはっはっ、はぁ、はぁ…

はぁ、

はぁ、


はぁ………





ぽたぽたとコンクリートに沸き上がった汗が染みを作る。まだまだ蒸し暑い。そんな夜はコンクリートでさえもまだ熱を内包しているようで、かなりの量の染みはすぐに消えて無くなった。
それを見ながら、こんなに必死に流した汗でさえもすぐに消えてなくなるなら、俺なんて。すぐ近くにある歩道橋の手摺にもたれ、幾分力無く息を吐く。もうあんなに乱れていた息も整ってきたようで、肩からではなく胸の運動だけで出ていく。賑やかな車のエンジン音と夜空の星を全て隠してしまう夜でも明るいネオンたち。そんな俺の生活している街を見下ろす。そしてもう一度、今度は小さく息を吐く。吐きながら、見えるはずはないけれど、見えたら幸せだな、と歩道橋の、少し離れた真正面に立つビルに目をやる。
このところずっと続いている後ろ向きな感情は、きっと今夜がピーク。
明日はもう旅立ちだ。
綺麗に片付けられた部屋に一つのスーツケース。




今までありがとう。
ヒバリ。








  …………………………………






「山本?」
「あれ?ここお前んとこの会社入ってたっけ?」
奇遇だなぁ!俺は珈琲を片手にエレベーターへ乗り込もうとしたところでヒバリに捕まった。
「何も言ってなかったじゃない。」
「いや、単に気付いてなかった。」
「ふーん?」
「あ、すみませんっ!昼、一緒ムリ?」
「メールして。」
待たせていたエレベーターに慌てて乗り込んだ俺はヒバリに手を振る。ヒバリは白の、パリッとプレスの効いたシャツに黒地に細かいグレーのドット柄のネクタイを絞めていた。俺がかなり前にプレゼントしたやつだ。
そういえば、今朝絞めてたな…俺は思い出した。ちょっとした幸せを噛み締めていたら後ろから声を掛けられた。顔だけ振り向くと、可愛い小柄な女性が二人頬を染めてモジモジとしていた。
「雲雀さんの、お知り合いですか?」
「へ?ヒバリ?」
「さっき話してたの、雲雀さんですよね?」
「あぁ…」
俺はなんとなく次に続く言葉がわかってしまった。
「…一緒に食事とかは、無理だぜ?」
「え?」
「『咬み殺される』から。」
「?」
キョトンとしている二人を置いて、俺はエレベーターが10階に到着してゆっくりと扉が開いたと同時に「じゃぁ。」と軽く挨拶して降りた。
俺がね、と俺は苦
笑しながら、相変わらず女性にモテるらしいことをこの目で確認した。そのうえ近寄らせることもないらしい。そのことに俺は気を良くして先週から派遣されている部署へと急ぐ。朝の挨拶をすれ違う人と交わしながら俺は自分の席に着いた。珈琲を袋から出しながら腕時計で時間を確認する。まだ始業までには少し時間があった。携帯でヒバリへメールを打つ。
今日の、いやいやヒバリが出勤の時はずっとランチ代が節約出来る!俺は嬉々として昼休憩の時間をヒバリに知らせた。



「おかえり。」
「おー、ただいま!ヒバリもおかえり!!」
玄関まで出迎えてくれたヒバリにちゅっと軽いキスをして、帰宅後の、日課のジョギングでかいた汗を流す為に風呂場へ直行する。するとヒバリも後から付いて来た。脱衣所で俺たちはもう一度キスをした。今度は挨拶じゃなくて、もっとしっかりと、お互いに感じ合う為のキス。
「ヒバリも?」
「悪い?」
「全然。」
顔を傾けてもう一度しっかり合わせて、脱がせてくれよ?と言うように、俺は万歳をした。そんな俺にヒバリはクスリと笑いながら、汗で湿ったTシャツを脱がせてくれる。
「色気がない…」
「そんなこと、今だけだろ?」
「まぁね。下は自分で脱ぐ?」
「嫌、だ。」
ヒバリもダメ。俺はニヤリと笑ってまだシャツも脱いでいないヒバリの前にしゃがみ込んだ。カチャカチャとベルトを外してからスラックスのジッパーを下ろす。
「今夜はそんな気分?」
「うん…」
「僕もそんな気分。」
「へぇ?」
ヒバリは俺の頭をクシャクシャとかき混ぜ、近くの壁にもたれたようだ。俺は鼻で茂みを掻き分け、辿り着いたモノをペロペロと舐め始めた。少しずつ硬く立ち上がってくる姿や、上の方から聞こえてくる息遣いが俺をひどく興奮させる。
今日、職場でヒバリに会って嬉しくて。なんだかすごく今夜は甘えたい気分。
勿論最後は俺の中で達してほしいけれど、俺が与える刺激で興奮していくヒバリも見たい。きっと今夜は見せてくれる。
お互いに、今夜はそんな気分。俺たちは、思いがけずにもらったプレゼントを喜ぶ子供のようだった。



「やっぱりさ…」
「ん?」
「ラッキーっていうか、なんていうか、縁があるっていうか…」
「そうかもね。」
まだ髪が濡れたまま、俺たちはテーブルをはさんで遅い夕食をとる。
俺は2年程派遣社員として3ヶ月から半年を期限にプログラマの仕事をして
いる。働けるなら短期で、しかも体力のつく土方の仕事でも良かったのだけれど、大学時代から一緒に住んでいるヒバリに勧められてこの『派遣』という道を選んだ。
俺は、一度諦めた野球への道、大リーグへの道を歩みたいと思っている。そのために今年、トライアルを受けにアメリカへ渡る決心をした。勿論アメリカで活躍するつもりだ。けれど、どうなるかなんてわからない。だから、万が一、こちらへ戻った時に社会復帰しやすいようにと力説され、納得出来た俺は大学時代に必要な資格を取り始め今に至る。
ヒバリというのは、俺の10年越しの恋人であり、俺の強力なサポーターだ。野球をやめてしまった時は何も言わなかったけれど、もう一度挑戦したいと言った時にはとても喜んでくれた。そして、全面的なサポートをしてくれている。
「昼飯、ヨロシクしていい?」
「…僕は君のお財布代わりなの?」
「だってもうちょい金貯めたいし…」
「し?」
ニヤニヤし出したヒバリに、俺はテーブルの下で足を軽く蹴ってやった。
「お前にっ」
「僕に、何?」
「おっっっっ、お前に逢いたいからに、決まってんだろ!」
ばか!俺はもう一度バシッとヒバリの足を蹴った。
今回の契約は3ヶ月。契約が終了すれば、俺はすぐにアメリカへ渡る。
「僕も逢いたいよ。」
「…。」
プイ、と横を向いて口を尖らせて拗ねる俺に、ヒバリは手を伸ばして頬をゆっくりと撫でる。
「明日は何食べる?」
「……考えとく。」
「うん。」
ゆっくりと味わいながら夕食をとって、その後は二人並んで後片付けをする。それからソファで寛いで、身を寄せ合って眠った。



一日というモノは、意識をしていなければ感じないのだけれど、カウントダウンを始めた俺にはとても短く感じられてたまらない。
本当は毎日体を繋げることはお互いに辛いのだけれど、どうしても求めてしまいヒバリに苦笑される。休みの日などは歯止めも効かずある時間だけヒバリを求めてしまう。触るだけの時だって、抱き合うだけの時だって勿論ある。けれど、離れてしまう時間を考えたくなくて、ヒバリに触れてしまうのだ。
気持ちが別れるワケではない。それはわかっているつもりだ。けれど、10年いつも傍にいたヒバリがいなくなるのだ。
アメリカへ行くと決心した時よりも、実際にそれが現実に迫ってきている今、俺にはとても大きな不安となっている。
そんな俺を気遣ってなのだろう
。ヒバリは俺から伸ばす手を決して振り払わない。全て受け入れて、一時的にも幸せな気持ちを味合わせてくれる。
その一時的な密度の濃い触れ合いがお互いがいなくなった時にとても辛く感じさせる…そんなこともわかっているのに止まらなかった。






  …………………………………







「ヒバリ…?」
いきなり鳴り出したポケットの中の携帯が俺を現実の世界へ呼び戻し、画面に表示された名前に、もしかしたらもう家に着いたのかな?と思いながら応答した。
「何してるの?君、こんな所で。」
「へ?」
あまりにも近くで声がしたと思ったら、ヒバリが横に立っていた。
「そんな顔、向こうでしないでよね。」
「……どんな顔だよ。」
ヒバリは俺と同じように手摺に持たれてクスクスと笑いながら俺を見る。
「襲われたら承知しないよ?」
「だったら、ヒバリが………見張ったら………いいじゃねーかよ。」
「……」
「……。」
やっぱり俺、ヒバリと離れたくねーんだ。
怖いんだ。
一日一日と、アメリカへ渡る日が近付くにつれ、俺は本当は後悔し始めていた。
俺の決断は本当に自分の為に良かったことなのか?本当はヒバリの近くで暮らすことが一番幸せなことなんじゃないか?
ヒバリに怒られるであろうことをいつも思っていた。
俺はどっちをとるのが後悔しないのだろうか?そんな結論の出ないことを考えて、どうしようもなくなる。
「行けたら、良いんだけね。」
「…うん、ごめん。」
なんだかヒバリの顔が見れなくて、歩道橋の下をひっきりなしに移動する車を眺めた。
バカだな、と思う。
当分逢えないヒバリの顔が見れないようなことを言うなんて、ホント、バカだと思う。そう思っていると、ツンと鼻の奥に痛みを感じて、目にもジワジワと熱く込み上げてくるものを感じた。
ヤバい。泣いちまう。
「2ヶ月、待っててくれる?」
もっとヒバリから逃れるように、反対側へ向こうとした瞬間、顎を掴まれ無理矢理ヒバリの方を向かされた。
そして、何を言っているんだろう?
「へ?」
俺は間抜けな返事をしてしまった。
そんな俺の目尻に親指を這わせ、優しくヒバリは撫でてくれる。
「やっと辞令がおりてね。」
「?」
「ニューヨーク支部部長補佐として9月から行くことになったから。」
「はぁ?」
だから、泣かないでよ。ヒバリはそう囁いて、まだ人通りもある歩道橋の上で俺にちゅっとキスをした。
「君がしてたように、僕も準備をね。」
「おまっ」
「今回の人事で辞令が出なかったら、辞めてやろうと思ってたんだけど。」
「そっ、そんなこと、一言もっっ!」
ヒバリに泣くなと言われたって、無理だと思う。俺だって滅多に泣くことはない。けれど、これは反則だ。拭うのはヒバリがすればいいのだ。
ヒバリは次から次へと溢れ出す涙を優しく指で拭ってくれていたけれど、邪魔臭くなったのか、きりがないと思ったのか、舌でベロリと舐め出した。
「こんなとこでっっ」
「じゃぁ早く帰ろうよ。」
ヒバリは俺の手を取って、走り出す。歩道橋を降りて、車道へ向かって手を挙げる。
「エリートめ…」
「今更、なに?」
「3年目で課長に大抜擢されたと思ったら、4年目はニューヨーク支部部長補佐だぁ??」
「次は、大リーグスター選手の恋人になりたいんだけど?」
「うわぁ…」
停まったタクシーに二人して乗り込む。
渋滞に捲き込まれながらも、刻一刻と俺たちの部屋へと近付く。早く触れたくて仕方ないけれど、今は繋がれた手だけで充分でもあった。
次に逢う約束もままならない状況から一転。


とりあえず。
明日の飛行機の時間まで、離さない。

覚悟しろよ?
ヒバリ。














オマケ

プラスマイナスの法則(※)




※『苦しくてせつない、いとおしい詩(うた)』の続き
性的表現がございます。責任ある観覧を希望致します。







『今日はイイ感じ〜!明日もう一回来いって言われたぜ!』


『ダメだった。でも諦めないぜ?』


『違うとこでトライアル受けれることになった。』





『米の飯、食いたい。』










『ヒバリ。逢いたい。』














メールが飛び交う世の中だ。
いつでもどこでも見えないラインで世界中の人々と繋がっている状態だ。
なのに山本は、ハガキを僕のところに送り続けてきた。
いつも僕は何日か前の山本しか知ることが出来なくて、気が気じゃなかった。しかも山本は自分の住所を書かずに送っていたものだから、何処にいるのかすらわからない。
確かに色んな所を転々としているのだろうし、メールより直筆の方が僕だって嬉しいのは嬉しい。
それに、毎日メールか電話をしていたら逢いたくて仕方なくなってしまう。

2ヶ月待てとは言った。
けれど、だ。
これはないんじゃないかい?



僕はベッドヘッドへ大きな枕を背もたれにして、今まで送られてきた山本からのハガキを読み返してした。
最後の方なんて、野球のことは関係無くなってきている。
しかも『逢いたい。』なんて…
勘弁してほしいよ。
はぁ、と溜め息をつく。
けれど、僕は嬉しさの方が勝っていることもわかっていた。









「…山本?」
「ヒバリ。」
広い空港で、山本は僕を待っていた。ニコリと白い歯を見せて笑った山本は、さらに日に焼けて、見ているだけで太陽の匂いがしてきそうだった。
山本と離れてから、まだ2ヶ月しか経過していない。けれど、僕たちはやはり離れることなど出来ない運命なのだ、と思えた。
引き寄せられることを止めることが出来なかったからだ。


ニューヨーク支部部長が手配してくれたホテルの部屋はとても広く豪華なものであったけれど、僕たちには全く意味のないものであった。
二人とも、お互いしか見ていなかったのだから。








「……ヒ、バリ…。」
「気がついた?」
「ん…」
「……まだ足らないの?」
「2ヶ月分、全然足らない。」
僕の隣で気を失っていた山本の手が僕の足の間で怪しげな動きを開始する。そして、ノロノロと布団の中へ潜り兆していない僕のモノをペロペロと舐め始めた。
僕はクスリと笑った。
「そんなことより…」
「んぅ…?」
僕は布団を剥ぎ取って、山本を僕の上へ引っ張り上げる。そして、不思議そうにしている山本の唇に吸い付いた。ペロリと唇を舐めようとしたら口を開かれ口内へ引き込まれてしまった。
部屋へ入ってからずっと求め合っていた。だからもうそろそろゆったりと求め始めても良いのではないかとも思うのだけれど。
グチュグチュと奪い合うようなキスを続けながら、お互いのモノを擦りつけるように腰を振る。
「こっちの方が、気持ち良いだろう?」
僕は充分に育った自分のモノをやんわりと握り固さを確かめ、勿論キスは続けながら山本の足を開かせる。そしてまだ柔らかいだろう山本の最奥へと指を這わす。
「ぅんっんっ……ふっぁ…ヒバリっ」
キスを解いて、下から貫こうとしたのだけれど、止められ、欲を含んだ濡れた瞳で山本が僕を見た。
「ヒ、バリっ」
「何?」
「スター選手の、恋人に……してやるからな?あぁっ!」
「……っ楽しみにしてる、よ。」
二人で一つになって揺れながら、僕たちは本来は繁殖という意味を成す行為を続けた。
子孫など残せない。
けれど、本来一つであったのだという証であるように、僕たちは繋がる。
それが、自然なことであるように。






僕も逢いたかった。


















END

『苦しくてせつない、いとおしい詩(うた)の続き





エリートサラリーマン×派遣というリクエストをして、見事応えて頂きました!
雲雀さんカッコいい〜惚れ惚れします〜(*^m^*)

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