素敵な頂き物
 【Save Our Souls】 後編
***


 いつの間にか信号は赤から青へと変わり、自分も自然にまた前進をしていた。
 記憶と現実が、グチャグチャと入り混じる感覚に、頭が痛くなった。
 いつもの並木道が、視界の端で流れていく。
 葉の初夏特有の青さを、太陽の光がより一層輝かせるが、俺の心は未だにぼんやりと晴れない。街路樹が、嫌な思い出の林を思い出させたからか…と考えて、少し気が滅入った。
 普段はそんなことは考えたことがない。俺も、きっと助手席に座るあいつも。
 思いがけず浸ってしまった過去への回想が、感傷をよんでいるだけだ、とハンドルを握りながら思う。

 吐き気がするほどの嫌な思い出。だが、これは同時に、ようやく足を進めるきっかけでもあった。
 血を吐くように苦しげであったが、初めてあいつが、本音をこぼした日。

 左折するために、ちらりとサイドミラーを確認すれば、やはりもれなく件のジャージが目に入った。
 何故か今は、過去のあいつでも現在のあいつでも、笑顔が思い出せなかった。


***


「やまもと」
 搾り出すように名前を呼んでいた。
「このごろ、みんなそう言う。女だから無理だとか、女だからやめろとか、女だから我慢しろって」
 言葉を切るごとに、唇がきつく噛み締められる。真っ赤になった下唇。
 山本は、乱暴に目を拭う動作をして、涙が零れていないことを確認すると、少し安堵した。
「野球だってそうだ。地元の高校しか行けねぇけど、高校でも野球したいと思った。でも、みんな言うんだ。女だから無理だって。女子の入れる野球部はないって。俺だから無理って言われるなら、諦めがついた。俺の実力がないって言われるなら分かった。だけど、女だから出来ないって言われた。俺のほうが、野球部の奴よりまだ速い球投げられるのに…。ヒットだって打てるのに…」
 少し憐れになって、「山本」と声を優しい声をかけた。だが、それを山本はきつく睨み返して、また目元を拭った。
「そうやって、女扱いされるのが嫌だ。嫌いだ」
 だがすぐ後、鋭い睨みが悔しそうな瞳に変わった。
「………でも、俺の身体がみんなより小さくなって、俺の力がみんなより弱くなってるのは確実で…。それが一番嫌だ…悔しい。力押しで、ヒットにされること多くなってきた。走れるけど、ホームでクロスすると押負けるようになってきた。どんどん、女だって思い知らされて…たまんない…。だから、みんなよりもっともっと練習しないと、すぐに追い越されて、本当に俺だから野球できないって言われるようになっちまう」
 血を吐くように言葉は続いた。
 こんな山本をこの時はじめて見た。
 俺には計り知れない苦悩の種類。支離滅裂な言葉の中で、頑なに女であることを嫌悪し、男に負けないように、男らしくあろうとする、小さな女が見えた。
「だから…毎日練習してた」
 右手はいちいち動かすのが面倒になったのか、目の上で動かなくなった。右手を抱えるようにしていた左腕は、ぐっと身体を抱いている。ぶるぶると震えだす身体を必死に隠しているようだった。
 今日のことを思い出しているのだろう。
 話を聞いて分かった。女である欠点を補おうと必死になった結果、今日はそのせいで女であることを最も酷い形により、突きつけられたのだ。
「嫌いだ」
 左手は、自分の身体を抱きしめている。必死に自尊心を守り、頑なに女であることを拒絶しているように見えた。
 その時、俺の中には言いようのない蟠りが胸のうちを渦巻いていた。このモヤモヤとした感覚を解消する言葉をただ捜していた。浮かんでは消える思いを必死に繋ぎとめる。
「…山本」
「……」
「お前の言いたいことは何となく分かる。…でもよ、まずお前が女である事実はちゃんと受け止めるべきだろう。それもお前の一部なんだ。れっきとした山本武の一部なんだ」
 ぽつりぽつり、ゆっくりと落ちていく言葉。
 山本はそれで傷ついた様に、項垂れた。目元は右手で見えないが、引きつるような呼吸が喉から漏れる。
「お前は、野球できないっていうけど、できるだろ。女でも。どんな形でも。俺の知ってる山本は、そう言う奴だと思ってた」
 一つ息を吸う。自分でも自分の思考の中を探り探りで、必死に言葉を繋いでいるのだ。偽らないために。誰かに価値観に言葉を取られないように。
「どうしたんだ?このごろのお前。女だとか、男だとか、世間の壁を気にしているように見えて、一番壁作ってんのお前のように見える。何でそんなに拘ってんだよ。何に捕らわれてんだよ」
 項垂れた肩がブルブルと震えて、嗚咽に似た声が出てきた。だが、それを山本は噛み殺そうと必死になっている。
「泣きたいなら、泣いてみろよ。別に男だって泣くときゃ泣く。泣いたからって女々しいわけじゃねぇ。そうやってお前が必死に壁作ってんだ」
 自分の思いを言葉にするのは、とても難しい。そして、それを相手に伝えるのは、ますます難しい。
 山本の膝が折れて、フローリングの床にぺたりと腰が下ろされた。そのまま両手で顔を覆って、控えめな嗚咽が隠れることなく漏れ出す。
「どうしたんだよ。何に拘ってたんだ?何がそんなに嫌だった?何が怖かった?」
 一緒にしゃがんで、頭を撫でてやれば、山本の嗚咽はますます大きくなった。ボロボロと指の間から雫が伝う。
 洗濯してソファーに置きっ放しだったタオルを渡すと、それに遠慮なく顔を埋めて涙を流す。山本は、その合間で必死に何かを紡ごうとしていたが、結局こちらが聞き取れるほどの言葉にはならない。
 だが、俺には焦る気持ちはもうなかった。


***


 ただ、心配だっただけだ。女らしくないからとか、男らしくないから、なんてものではなく。山本武が少しぐらぐらと揺れて、俺が憧れたあいつが消えようとしていた。
 何かに拘ることで、大切なものを落としそうになっている。あいつらしさが消えようとしている。
 それが、心配だっただけだ。

 あいつらしさを保つためには、女であることを狙う敵がいることを、あいつに理解させなければならない。危ないことを教えなければならない。
 女だけれど、山本武だ。しかし、それは、山本武だが、女だ、ということにもなる。
 あの頃の自分の抱いていた不安や焦燥。今でも、言葉に表しきることなんて出来はしない。
 ただ、あの時の俺は、出来なくても必死にあいつに伝えたがっていた。


 左折の先には、少し時代を感じる商店街のアーケードが待っていた。その一番手前に、和風の店が建っている。通いなれた場所だ。
 その正面より少し行き過ぎた道路の端に車を停める。ハザードランプを点けて、エンジンも切った。ほんの少しの間だ。道路に面する家の住人は、慣れたのか最早咎めることもない。
 少し後ろを向いて、寿司屋を確認するが、まだ人が出てくる様子はない。
 その時、ふと目に入ったのは、自分が行きしなに放り投げた後部座席の荷物だった。
 ちらりと軍手が袋から覗いていた。

 焦ることは何もなかったのだ。少し汚れた軍手が、過去から現在までを教えて、手を振っているように見えた。
 頭痛が治まってきた。


***


 あれから、数日。何かがはじけたように、受験勉強とやらを山本は始めた。何故か俺に家庭教師を乞うて。そのせいなのか何なのか、二人でいる時間は多くなった。勉強を見る合間に、時々キャッチボールに付き合ってやる。そんな日々。
 思いつめたような顔をすることもあったが、らしい笑顔を見せることもあった。

 山本に呼ばれて、秘密でやってきた学校の屋上。
 視界のいたるところに、色付いた木々が見えている。いつの間にか秋が更けていた。
 薄い雲を刷いた高い空をバックに、前を歩いていた山本が照れたように少し笑って振り向いた。このごろで一番奴らしい笑顔。久しぶりに見ることが出来た。
「何だよ?」
 あの時は助けてくれてありがとう。山本は改めてそう言った。あの日以後、その話をするのは初めてだった。
「そんでさ、獄寺があん時きいたこと、ちゃんと答えねぇーとな、って思ってて」
 真っ直ぐに、目を見つめられる。秋空のようだった。
「親父には言わねぇでくれな」そう前置きをして、山本は話し出す。
「俺の名前さ、不思議に思ったことねぇ?」
「は?」
「やまもとたけし。まるで男みてぇじゃん」
「あぁ…そう言われれば…そうだな…」
 そういえばだって、と山本は軽く声を出して笑った。どこが笑いどころだったのかはいまいち分からない。
「あのな、俺さ、生まれながらの殺人鬼だったんだ」
「は?」
「俺の母親、俺を産んだときに、死んだんだ」
 苦く笑った表情がやけに白んで見えた。罪悪感がありありと浮かぶ。本当は笑いたいだなんて思っていないだろうに、そんな顔が浮かぶこいつが酷く憐れだ。
「…殺人鬼なんていうもんじゃねぇぞ。母親に失礼だ」
 小さく睨めば、山本は驚いたように目を見開き、少し困った顔をした。
「そうだな…。ごめん…」
 こちらの視線を少し流して、小さな言葉が落ちてくる。
「でもさ…俺がいなけりゃ、あの人はあんなに早くいなくなったりしなかったと思う」
「おい」
「だからな、俺、すごく嫌だったんだ。苦しかったんだ。母親が俺を産んだせいで死んじまったこと」
 そんなことねぇだろうが、と俺が口を出す前に、急ぐように山本は続けた。
「でもさ、親父とあの人、子供が出来たこと、すごく喜んでたんだって。初めての子供でさ」
 山本は、少し嬉しそう言った。綺麗な笑顔が浮かんでいる。
「姓名判断の本とかいっぱい買ってさ。生まれるずっと前から名前考えてたんだって。俺ずっと生まれる前は、男の子だって言われてたから、男の名前二人してつけててさ」
 武ってのは、「矛を持って、足で堂々と歩く人。ないものでも自分の足で見つけにいけるような人になって欲しい」って意味で付けられたんだってさ、と山本は誇らしげに笑う。
「でも、生まれてきたのは女の俺だったわけ。そんで、母親は俺と変わりばんこでこの世からいなくなっちまった。親父はさ、女の子の名前考え直さずに、母親と二人で決めた『武』って名前を付けてくれた」
「考え直さなかったのか…。あの親父」
「うん。俺が見ることも、抱かれることも出来なかった母親が、俺に残してくれた最初で最後の贈り物だから、って。名前ってさ、親が出来る一生物のプレゼントなんだって。この名前には、親父と母親の愛情、すげぇこもってるんだ」
「そうかよ」
  幸せそうに自慢げに言う言葉があまりにも可愛らしい。
「そんでな…俺の母親、息子が出来たら、甲子園に連れてってもらうことが夢だったんだって。高校時代からの夢。びっくりだぜ?卒業文集の将来の夢に『息子と甲子園』って書いてあってさ。笑っちまった」
 声を立てて笑ったが、その顔は少し寂しそうに歪んでいた。
「俺…あの人の夢叶えたいって小さい頃から思ってた。ずっとずっと…。俺が、奪っちまった人生だから。あの人の夢、俺が叶えたいって…。俺の願いになって、いつの間にか甲子園は、俺の夢になってた」
 甲子園は男の子しかいけないって訊いた日は、悔しくて一日中泣いた、と山本は口を尖らせる。
「そしたら、どんどん女であることが嫌になった。何も出来ない自分が、悔しくて堪らなくて嫌いになった。だから、男より強くあろうって必死にがんばった。なのに、年経つごとに、どんどん身体は女じみてくる。太くなんない腕も、肉がつく身体も嫌だった。周りは男女の差がちゃんとでき始めて、もう無理なんだって突きつけられた気がした」
 だから、俺と十代目といたのか。不意に2年足らずの思い出が溢れてきた。女子と一線をかく山本の様子も。
「分かってたけど、悔しくて諦め切れなかったんだ…。母親の望んだ通り、男に生まれたらどれだけ幸せだっただろう、ってこのごろずっと考えてた」
 語尾が弱くなり、ぽつりと切れた。しあわせそうに笑っていた顔が少し曇って、自嘲の笑みに変わっている。
 それを見て、ふと、自分の母親の姿が頭を過ぎって消えた。
 また、胸につっかえが出る。実はさっきからずっと溜まっていた。ごろごろと言い様のない何かが。
 だけど、焦って出すと碌なことにはならないと知っていたから、落ち着けるように大きく深呼吸をした。
「やまもと」
 呼びかければ、ちらりと視線がこちらを見る。
「俺の考えだから、正解とか不正解とかじゃねーけどよ。俺がもしもお前の母親の立場だったらな、少し悔やんじまう。自分の存在が、必死に愛そうとした子供を苦しめてるみたいでよ。俺なら、自分の言葉になんて縛られず、好きなことを好きなように、好きなだけして欲しい。お前のしてることを否定なんてしねぇよ。野球ももちろんいいと思う。お前がしたいことだからな。でも、少しだけ母親のことを新しい目線で考えてやれよ。お前が自分自身を嫌ってる姿なんて、母親は悲しいんじゃねぇか?自分の愛する子供には、自分自身が好きだって大きな声で言って欲しい。……俺はそう思っただけだけどな。お前はどう思うよ?」
 少し言葉に照れた。でも、誰かの借り物じゃなく、自分の言葉を必死に探した結果、そんな言葉しか思いつかなかったのだ。
 どれだけ不様で、臭い言葉でも、伝えなければいけない、そう思った。だから口にした。幸いにも、ここには、俺と山本しかいないのだから、別に気負うことはない。
 山本は少しだけ肩を震わせて、ゆっくりと両手で顔を覆った。
「おい?山本?」
 心配げに覗き込むと、涙混じりの「好き」という言葉が掌の奥から聞こえた。
 山本の強情さに少し笑ってしまう。

 秋の空は、いつの間にかはっきりと澄んでいて、薄い雲はさらりと流れてしまっていた。


***


 コンコン、と運転席の窓が叩かれた。
 驚いて視線を向ければ、先ほどまでの記憶の中よりもいくぶん大人びた山本が手を振っている。パフスリーブのTシャツに、スキニーのジーンズ。靴はグリーンのスニーカーパンプス。どこか、垢抜けていた。
「遅せーぞ」
「ごめんごめん」
 窓を下ろしながら、車の鍵を開けてやる。山本はそのまま運転席側の後部座席を開けようとするから、「危ないだろう」と叱って左のドアを指差した。
 少し苦笑いをして反省した後、山本は左の後部座席に紙袋の荷物を置いて、助手席に乗り込んだ。唯一後部座席に置かれなかった、カーネーションの花束が、その手と膝に抱かれている。
「親父さんはいいのか?」
「うん、店あるし。それにさ今日は…」
 言葉の変わりに膝のカーネーションが軽く揺れた。
 そういうことか、と笑って、エンジンキーをアクセサリーからスタートまでまわす。ブォンと軽い音と振動でエンジンが正常にかかったことが分かる。
「久しぶりだからな。ちゃんと道案内しろよ」
「って言いつつ、ちゃんと道順しっかり覚えてるよな、いつも」
 にこにこと笑いながら、山本は軽口を叩く。確かに、目的地に迷わずいける自信はあった。

 方向はどんどんと、町の中心部から離れ、山へと向かう。
 山本が「窓を開けたい」と強請るので、エアコンを止めて窓を開けた。山の涼しく爽やかな風が、一気に吹き込んでくる。
 楽しそうに笑い声を上げる助手席を見やれば、サラサラと肩に付くくらいの髪が風に弄ばれて揺れていた。
「スピード出しすぎじゃない?」
「そのおかげで、もう着くぜ?」
 見えてきた小高い丘。その手前の少し広いところに車を停める。
 けらけらと笑っていた山本は、早々に助手席を飛び出し、後部座席に荷物を取りに行く。その様へ呆れたように視線を投げるその途中で、ちらりと紺色の忘れ物に気が付いた。
 呆れた。先ほどまであんなに考えていたのに、山本が来た瞬間忘れていたのだ。それよりも、もっと呆れたのは、アレに気付かずに堂々と助手席に座っていた山本だ。
「おい、山本。コレ、忘れていっただろう」
 助手席で萎れていたジャージを手に取り差し出せば、山本は「あ、探してたんだ!!」と喜んで受け取る。
「ありがとう」
「お前なぁ…」
 その様に呆れて溜息をつけば、空の太陽のような笑顔が返る。
「だって、今日は草抜きするしな!」
 まるで見当違いな答えを返して、左手に荷物の紙袋を提げ、右手で大事そうに花を抱えて、ゆっくり歩き出した。
 こちらも、運転席からやっと降りて、自分の荷物を持ち、後ろに置いてあった、茶色のストローハットを被る。余っていた、青のストローハットを少し先を歩く山本の頭に被せ、左手から荷物を奪う。
「あ、」
 山本がこちらを振り向いていたが、俺はさらに後方の車へ振り向いて、キーレスの鍵を向けていた。カチカチと2回ランプが点灯して、施錠を教える。
 それを確認して、足を進行方向にもう一度向ければ、少し照れたように笑っている女がいた。
 ジャージを羽織った両手でカーネーションの花束を抱いて、笑っていた。
「ほら、行くぞ」
 生憎と両手は荷物で塞がっている。さくさくと歩けば、真横に青い帽子が並んだ。それを横目でちらりと見る。
「今日の服、意外と可愛い」
「ははは、照れる」
「服かわいい」
「服だけかよ…」
「その服にジャージ着てるの、なんか笑える」
「うるさいぞー」
「でも、お前らしくて結構好き」

 不意に隣の帽子が止まった。
 真っ赤になった顔に、にやりと笑みを向ける。

「…ありがとう…馬鹿野郎……」

 行く先にちらほらと見えてきた、黒光りする四角の大きな石。その周りは、既に夏草が勢い良く、茂り始めていた。
 目的地は小さな丘の一番頂上。日当たりが良いせいか、一番草の量が多い。
 ふぅ、と溜息を吐いて、荷物を隅へ下ろし、二人して軍手をつける。お互いの軍手は、緑と茶色で薄く汚れていた。
「よっし!今年もやりますかっ!」
 四角い御影石に二人で頭を下げた後、一心不乱に草を抜く。
 夏を思わせる、強い日差し。青い空。流れる汗を拭いながら、過去が現在と繋がり、穏やかな思い出として頭の中を過ぎていった。いつの間にか眩暈も頭痛も感じなくなっている。
 隣の女は、しあわせそうな笑みを絶えず浮かべ、騒がしく草を抜いていく。時折楽しそうに御影石に何かを話していた。

 このジャージをよく着ていた頃のあいつの不思議な笑顔。
 あいつは、不思議な人間だった。そして、歪な女だった。
 そうだ、過去形。

 今は、同じ服を着てもしあわせそうに、笑っている。暑苦しい太陽のようだ。

 そこまで考えて、少し自分の発言に照れた。なんだそれは。
 誤魔化すように、持ってきていたスポーツドリンクに手を伸ばした。

 夕方過ぎ、赤い夕焼けに照らされながら振り返った御影石の周りは、綺麗になっていた。
 中央で、ゆらりと線香が細く白い煙を吐き、石と空を繋ごうとしていた。その両脇には、白と赤のカーネーション。
 目的を終えた山本は、軽くなった荷物を抱え、少し先を歩いている。「暑いなぁー」と両手を広げて。
 瞬間、前から風が吹き、ヒラヒラと、ジャージの裾が背中で舞った。
 まるでどこへでも飛び立てるような羽に見え、一瞬後ろの御影石を振り返ったが、石はただそこに石としてあるだけだった。
 何となく頭を軽く下げて、前の影の隣に並ぶ。
「帽子、飛ぶだろ。なくすなよ」
 青が乗ったままの頭を軽く撫でるように押さえる。山本は笑った。綺麗に笑った。
 風は依然、夕焼けに染まる小さな丘を吹き抜けていた。





***
30000hit記念
リクエストを下さった沢木様へ感謝をこめて捧げます。



大好きなんです。サイトを始める前からファンだったんです。このお話の前のにょ武を読んで、是非続きを・・!!とリクエストした所、こんなに素敵な獄にょ武が・・・。もう私の方が感謝感激でした!!
蒼山さんありがとうございますー!!!

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