素敵な頂き物
Ti Voglio Tanto Bene! KILO様から 正山
30000Hit&1st Anniversary
(正山)



『君想う花』










「なんか…さびしいのな」
―ぽつり、と呟かれた言葉。

「なにが―ですか?」
「へ?」
傍らに立つ入江正一の問いかけに、山本武はきょとんと眼を丸くした。

此処はパフィオペディラム内にある研究室のひとつで、主に匣兵器の開発を行っている。
山本は、ボンゴレの雨の守護者として視察に訪れていて、正一は責任者として案内役を務めていた。

室内に視線を巡らせていた山本が、不意に零した呟きが―彼らしくもなく、とても哀しげなものだったから。
正一は反射的に問いを口にしていた。

「なにが“さびしい”んですか?」
「え? オレ、口に出してた?」
正一が重ねた問いに、山本は驚いたように問い返した。―どうやら、無意識に零れ落ちたものだったらしい。
「はい」
「あー…別に大したことじゃねーんだけど…」
山本は、困ったように笑いながら―無言で先を促す正一から、ふいっと顔を逸らせた。
「…あのさ、匣兵器ってあんなに小っちぇーのに、魔法みたいなすっげー力があるだろ?」
「―ええ」
「それが―戦い以外に使われないのは…なんか、さびしいなって思ったんだ」
ぽつっと―山本は、独り言のように呟いた。
「―――」
その言葉通りに―寂しげに表情を翳らせる山本の横顔を、正一は声もなく見つめた。
なんとも形容しがたい衝撃を感じながら。
「―ごめんな。匣兵器開発者のあんたに言う事じゃなかったな」
気ぃ悪くしてないか?―正一に視線を戻して、心配そうに眉尻を下げて笑う山本に、
「いえ…そんなことはないですよ」
正一は、安心させるように微笑んで見せた。


―そんなやりとりをしたのが、一週間前の事。


「山本さん!」
白蘭の執務室へ通じる廊下の曲がり角へと消える背中に、正一は慌てて声をかけた。
「ん? どうした? 入江」
「あぁ、間に合ってよかった…。あの―これを」
そう言って正一が差し出したのは、何の変哲のない匣だった。
「匣?」
「はい。―あ、山本さんは晴の属性持ってますか?」
山本は無言で首を横に振って否定を示した。
「じゃあ―」
「正チャーン。プレゼントするなら、そこら辺はちゃんとしなきゃダメだよー」
続けようとした正一の声は、後ろから圧し掛かってきた白蘭によって遮られた。
―いつの間に背後に現れたのだろうか。
「僕が開匣したげようか?」
白蘭は正一の手から匣を取り上げて、にっこりと無邪気に微笑んでみせた。
「白蘭サン、重たいから退いてくださいっ! ―これは、僕が開匣します」
正一は、匣を白蘭の手から取り返して―邪魔される前に、リングに炎を灯して匣へと注入した。
―ポンッと軽い音を立てて開いた匣は、
「わっ!」
存在感のある大輪の花を咲かせていた。―鮮やかなオレンジ色の向日葵の花を。
「―へぇ、ジラソーレか」
肩の上で呟かれた白蘭の意味ありげな一言は綺麗に無視して―正一は、山本へと言葉を続けた。
「―この間、さびしい、と仰っていたでしょう?」
「…あぁ。それで、これを?」
「はい。晴の“活性”を利用して花を咲かせるだけの匣なんですけど…。ついでに、雨の“鎮静”で蕾に戻せますよ」
「………」
「あの、すみません…こんなのじゃ…」
正一の手から匣を受け取って、無言でそれを見つめている山本の様子に、正一は急に不安になってしどろもどろに謝罪を口にしたが―
「すっげー! 入江ってほんとにすごいのな!」
山本は、にっこりと―大輪の向日葵にも見劣りのしない笑顔を浮かべた。
「―っ!」
「あれから一週間くらいしか経ってないだろ? それなのに、こんなにすごい匣作れるなんてなー!」
「そうだねぇ。流石は正チャンだねぇ」
山本の素直な称賛に、白蘭もまるで自分が誉められているかのように頷いている。
「なぁ、入江。これ借りてってもいいか? ツナ達にも見せてやりたいんだ」
「あ、それは差し上げます」
「えっ? いいのか? だって、これ貴重なものなんじゃないのか?」
「はい…問題ありません」
―貴方の為に作ったものですから。流石に、本音は気恥ずかしくて言葉にできなかったが。
「ありがとな!」
正一の言葉に、山本は更に笑顔を輝かせた。


匣のお礼は後日に。
そんな言葉を残して、山本はボンゴレへと帰っていった。


「―武君、小さな子どもみたいに喜んでたねぇ…」
「そうですね。あれだけ喜んでもらえると作った甲斐がありますね…」
「ねぇ、正チャン」
「―兵器転用はしませんよ」
「まだ何も言ってないんだけど…。でも、それって勿体無くない? 匣兵器開発でイニシアチブ取れるんじゃないの?」
「いいんです。あの匣のためだけの技術ですから」
だって―僕は、あの笑顔を見たかっただけ。
匣兵器のあり方を“さびしい”と言って表情を翳らせていた彼を―いつも通りの笑顔にしたかっただけなのだから。
「ふぅん…。まぁ、正チャンがそう言うなら、それでいいけどね」
「ありがとうございます」
「でもさ、武君のあの様子じゃあ、正チャンの愛の告白が無事に伝わったのか微妙だよねぇ」
「―は? 告白ってなんの事ですか?」
「え? だって、そのつもりでジラソーレを選んだんじゃないの?」
―ジラソーレってあたりが、オクテな正チャンらしいなぁって思ったんだけど。
「―――」
白蘭の言葉が意味する所に思い至って―
「ち、違いますっ! そんなつもりじゃないですよ! ただ、日本人に馴染みのある花のほうがいいかなって思っただけです!」
正一は、半ば叫ぶように否定した。―断じて、告白だなんて大それた真似をしたかったわけではない!
「ふふっ。僕相手に弁明しても意味ないと思うけど? 問題は、武君がどう受け取ったかでしょ?」
「―って、えぇぇ!? いや、でも、そんな…うわぁ…どうしよう…!?」
情けない声を上げて、廊下の真ん中で頭を抱えて悩みだした正一を―上司にして友人の白蘭は、生温い眼差しで見守っていた。



おまけ

『君想う花〜後日譚〜』





柔らかな陽差しが降り注ぐ午後。
ボンゴレ本部の一角にあるテラスに、山本武の姿があった。
白いテーブルの上には、季節外れの向日葵が誇らしげに咲いていて―その鮮やかなオレンジ色の花弁を、開匣された雨燕が興味深げに突いて遊んでいる。
その様子を、山本はニコニコと楽しげに笑って見ていた。
―傍から見ていると、なんとも微笑ましい光景だった。


「綺麗な花ですね」
その穏やかな空間に、不意に涼やかな声が響いた。―なんの前触れもなく姿を現した六道骸のものだ。
「お! 骸、久しぶりな!」
山本は、突然の闖入者に驚く素振りも見せず―にこり、と笑顔を向けた。
「お久しぶりです。山本君」
骸も同様に笑みを浮かべると、断りもなく山本の向かい側へと腰を落ち着けた。それから、華やかに自己主張している向日葵へと手を伸ばした。
「―おや…? これは―匣、ですか?」
鉢植えの花かと思っていたものが、小さな立方体から生えているのを見て―骸は軽く眼を瞠った。
「おう! すごいだろー!」
山本は、大輪の花を前に―それに見劣りすることのない笑顔を咲かせて、朗らかに弾んだ声を上げた。
「…すごい…というか、なんというか…」
正直な所、なんて無意味な匣だろう…と思ったが―
「…そうですね」
骸は曖昧に笑って頷いた。下手な事は言わないほうがいいだろう、と判断したのだ。
―山本の屈託のない笑顔を見てしまっては、それを萎れさせるような真似はできなかったからだ。


「―山本様。ドン・ミルフィオーレから贈り物が届いています」
メイドが持ってきたのは、鉢植えの淡い青色の花だった。それに、ミルフィオーレの紋章の透かしが入ったメッセージカードが添えられていた。
「白蘭から?」
「…アガパンサス、ですか。あの男らしい気障なプレゼントですねぇ…」
「ははは。あいつ、花好きだもんなー」
厭味混じりの骸の言葉に軽く笑って返して、山本は添えられていたカードを開き、そこに記されていたメッセージに目を通した。
「………。―なぁ、骸。ヒマワリの花言葉って知ってるか?」
「向日葵ですか? そうですねぇ…『私はあなたを見つめています』とか、『私の想いに気づいてください』…一般的なのは、そんなところでしょうか?」
他には、“偽りの富”とか、“にせ金貨”なんてものもありますよ。―と、続けた骸の言葉を聞いているのか、いないのか―
「―――」
山本は、ただ向日葵の花を見つめていた。
「どうかしましたか?」
「―オレ、ちょっとパフィオペディラムに行ってくる!」
そう言って、骸に止める間を与える事なく山本は駆け出していった。
その背中を追いかけるように、雨燕が悠然と飛んでいってしまい―
「―――。久しぶりに会ったというのに…」
一人残された骸の寂しげな呟きは―向日葵とアガパンサスだけが聞いていた。



※ ※ ※ ※ ※



―パフィオペディラム内にある入江正一専用の研究室。
そこで、正一は沈んだ表情でモニターと向かい合っていた。
先日の一件を、山本に他意はないのだと弁明する事ができず―悶々と悩み続けていたのである。
白蘭は「ちょうどいいから、そのまま告白して来なよ」なんて軽く言ってくれたものだが―それが出来れば誰も苦労はしないだろう。
様々な葛藤を抱えて色々と思い悩んでいた所に、正一の悩みの種―山本は突然やってきた。


「入江!」
「ぅええ!? ―って、山本さん!? どうしたんですか?」
「ごめん! オレ、全然気づけなくて…」
「―はい? え、ちょ、ちょっと待ってください! 一体なんのことですか?」
顔を合わせた途端に山本が勢いよく頭を下げたものだから―正一は状況が飲み込めずに面食らった。
「え? 白蘭が“あのヒマワリは正チャンの気持ちだよ”って…」
「あの人は…余計なお節介を…」
大体の事情を察した正一は、頭を抱えて項垂れた。―何故あの人は余計な事ばかりするんだろう!
「だから、オレ、」
「待ってください。山本さん。ちゃんと僕から言わせてください」
―白蘭にお膳立てされたまま流されるのは、嫌だった。
この想いは―自分の口から、自分の言葉で伝えたい。
「入江…」
「山本さん。僕は…あなたが好きです。この気持ちだけは、誰にも負けません。どうか―」
僅かに顔を赤らめて、こちらを見つめる山本の瞳を真っ直ぐに見返して―正一は言葉を続ける。
「僕だけのものになってください。山本さん」
「…オレ、で、いいのか…?」
「あなたがいいんです。あなたでなければ―ダメなんです」
「………」
「返事がノーなら、このまま此処から出て行ってください。もし…イエスなら―」
「―――」
「このまま…僕を受け入れてください」
正一は、甘く甘く囁いて―山本の唇に己のそれを優しく重ね合わせた。
唇が触れ合った瞬間―山本は、一瞬身体を固くしたが―そろり、と瞳を閉じて正一のくちづけを受け入れた。





end.





March, 2009
Ti Voglio Tanto Bene!/KILO


うふふふふふふ。KILOさんとこの正山は可愛いんですよぉ〜!!!ずっと読みたいと思っていたので、30000ヒットのフリーリクエストで思わず正山を!!と手を上げてしまいました。あ、おまけも頂いてしまいました!!
KILOさんありがとうございますーっ!!

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