よろず小説
願いごと一つ 前編
 かれんの別荘を訪ねてからというもの、こまちはいつも心に気に掛けていることがあった。

 あのとき、「ここは パルミエ王国から見る風景に似てる」と言ったナッツの愁いを帯びた それでいて懐かしい、愛しいものを見るような横顔。
それを思い返すと、少しでも早く王国を復活させてあげたいと思う。そして同時に、少しでもこの世界で思い出に残る風景を見せてあげたい・・・と。

 

自分の部屋でテレビを見ていると、こまちの姉まどかがヒョイと顔を出して

「ねぇこまち 11日くらいからペルセウス流星群が見られるよ あんたも友達誘って見てみたら?」

と声を掛けてきた。

そういえばこの姉は星とバイクが大好きで、よく仲間とツーリングに行っては どこどこの星空は最高だったとか、どこそこから見る星が一番綺麗だとか報告してくれる。
こまちは姉の、その男の子顔負けの行動力に似合わずロマンチストなところが実はとても好きだった。

(そういえば、ナッツさんて流星群・・ううん流れ星を見たことはあるのかしら)


去年の夏、こまちはまどかにバイクの後部座席に乗せられて、「ここが一番見やすいのよ」という小高い丘に連れて来てもらった。まばらにいる人影はどの人たちも流星群を見るために草の上に寝転がり、ひそやかな話し声と 少しの虫の声の他は何の物音も無かった。
闇の中、星がひとつ、またひとつと流れる様はとても幻想的で美しい思い出として こまちの中に刻み込まれていた。
 
男勝りでロマンチストのまどかに対して、こまちは童話作家を目指しているため夢見がちな女の子と思われがちだが、以外にも現実的だ。現実をわかっているからこそ、お話に夢を求めたいと思う。

(パルミエ王国が復活すればプリキュアはもういらなくなる。そうしたら、優しくてひたむきなあの人は 王国の再建のために一生懸命尽くすはずよ。そうして私のことは忘れて、いつかきれいな人と・・)

今現在は 慣れないジュエリーショップでアクセサリーなど売っているが、もともとは王子様で それこそ、あちらに帰ってしまったら本当に「住む世界が違いすぎる」人、なのだ。いや、一生 会えない可能性の方が大きい。

(だから、せめてほんの少しの思い出を共有したいと思うことは 私のわがままかしら・・・)
  こまちは「どうしたの?」といぶかしむ姉に

「お姉ちゃん、教えて欲しいことがあるの」

と決意を秘めた顔でそう切り出した。




 14日の夕方、店を閉めようという時間にナッツハウスの電話が鳴った。

「もしもし」

ナッツが電話に出ると耳に心地よい涼やかな声。

「もしもしナッツさん?私こまちです」

ナッツは片付けていた手を止めて、電話の声に聞き入った。

「どうした?ここ3日くらい顔を見ていないな」

一日と置かずに来ていたはずのいとしい子の姿が見えなくて、内心何かあったのではないかと心配してはいたのだが、自分の性格上かれんに聴く訳にも行かず まして電話などできるはずも無く・・・。受話器の向こうで何か言いにくそうにしているこまちの沈黙にしばしこちらも黙って付き合う。すると

「あの・・、ね ナッツさん 星は好き?」

 自分の問いには答えず そう切り出されて俺は返答に困った。


 俺の故郷パルミエ王国の夜空はそれは美しい。漆黒の闇に宝石を散りばめたように星がまたたき その美しさに誰もが心をうばわれる。ココともよく星空を眺めながら、自分たちの国が如何に素晴らしいかを語り合ったものだった。こまちはきっと自分たちの住む世界の星空を俺に見せたいと思っているのかもしれない。けれど俺の胸の中に広がるあの星空よりも美しいものはもう観られるはずはないと思っている たとえそれがどんなにいとしいこの子が見せてくれるものでも・・・。

 俺が返答せずにいることに「星が好きではない」と踏んだのか こまちが言った。

「あの ね、姉に聞いたんだけれど、流星群が見れるの」

 お姉さんと言うのはあの女(ひと)か。顔は双子のように瓜二つだが、性格のまるで違う快活な女性の顔が浮かんだ。

「まどかさんが?」

「姉が言うには今日が一番良いんじゃないかって。それでね、ナッツさんさえ良ければ 夜中から朝にかけ
て流星を一緒に見ませんか?」

・・・ちょっと待ってくれ、それってもちろん二人でなんだろう?俺ははやる胸を抑えつつもしもの為に聞いてみる。
(喜び勇んで行ってみたら皆一緒でしたーーーなんてことじゃ、話にならないからな。)

「あの こまち、俺と君と二人で・・・?」

しばらく黙り込んでいたが、恥ずかしそうな小さな声が

「ナッツさんが 嫌じゃなければ・・・」

と言った。


   

   今夜もしも何かの予定が入りそうになってもキャンセルしよう。


「必ず 行く」

「よかった!実はもう二日前からどう誘おうかって悩んでいたの。何も持たずに、行く場所も心配しないでいてね 今夜九時に迎えに行きます!」

 電話の向こうのこまちの顔が見られないのが少し悔しい。きっとかわいらしくほころんでいることだろうに。まぁ仕方がない、今夜会えるまでのお楽しみにしておこう。
 電話を切った後、九時の約束に遅れないために ミルクに気付かれないよう細心の注意を払いつつ、後片付けの手を早めた。

 
  

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