よろず小説
スイートハニー
 「毎日こう暑くっちゃ、やってらんないよー。」

夏休みの宿題をナッツハウスに持ち込んで二人でやっつけている最中、とうとうのぞみがプチギレ始めた。
普段はそうでもないのだが、こと勉強が絡むとイライラしてくるらしい。

「暑いのは夏だから!終わったらアイス買ってあげるからがまんしな!。」

りんはそう言うと、自分の数学のプリントの二枚目をやりはじめた。

「ずっるーいりんちゃん!!自分ばっかりどんどん進んじゃって、少しは友達を手伝ってあげようって気持ちが無いの!?。」
「なーーーーんであたしがダラダラ文句ばっか言ってるあんたを手伝わなきゃなんないのよ!!。」
「ダラダラしてないもん!わかんないから悩んでるだけじゃない!!。」
「さいしょっから一問も進んでないじゃない!わかる問題からやっつけてけばいいでしょっ!!。」

ただでさえ暑くて頭痛がすると言うのに、二人のエスカレートする会話にさらに痛みが酷くなってきたそのとき。


「こんにちは。」

白地にピンクの小花を散らしたワンピース姿に、手には見慣れた箱を持ったこまちが、涼やかな声で入ってきた。二階からの喧騒に

「暑くなると、どうしてもイライラしがちよね。」
と眉根を下げて微笑み、

「ナッツさんは、何だか具合が悪そうだし、お店は私が見ているから皆でこれでも食べて?。」

そう言って差し出された箱は、ナッツの大好物であるこまちの実家のもので。

(さすがにこう暑いと、いくら好きな豆大福でも食べたくなくなるものだな)

ニコニコ笑うこまちを横目に見ながら箱を受け取り、ナッツは痛む頭を振りながら階段を上がっていった。
ドアを開けてエキサイトしている二人の間に箱を差し出す。

「こまちからの差し入れだ。」

にらみ合っていた二人のうちの一人(もちろんのぞみだ)の顔が一気に緩み

「ぅわーーーーい!さすがこまちさん!!。」

と、俺の手の箱を取り上げた。その早業にあっけに取られ、するすると紐解いていくその手を見つめた先に現れたのは

「あー!これこまちさんとこで夏限定で作ってるアイスもなかだー。」

半分に切った丸い最中の皮に色とりどりのアイスが挟んである。

「えーとこれはバニラ、抹茶に、イチゴに、へぇ流行のマンコ゛もある。」
「あ、これはきっとナッツ用だね。ほら小豆だよ。」

目の前に「はい」と差し出されたもなかを受け取る。ドライアイスが入れてあったおかげで、ひんやりと冷たい。一口かじると柔らかい甘さとなめらかなクリームの舌触りで、飲み込めばその冷たさが身体に染み渡っていくようだった。

(おいしい・・・)
「おいしいねー!。」
「ちょっとのぞみ、いちご一口頂戴。」
「いいよー、じゃあそっちのマンゴひとかじりねー。」

さっきまでのケンカが嘘のようになりをひそめ、二人とも笑顔満面でもなかを美味しそうに食べている。
不思議なことだけれど、俺の頭痛も少し和らいだ気がした。

(あの子は今日は、かれんが生徒会の仕事があるから一緒に学校に行って図書館で本を読むと昨日電話で言ってなかったか?)

階下に行くと自分の姿を見止めてこまちが立ち上がった。

「ごちそうさま。うまいアイスだった。」

素直にそう言うと、こまちの顔がほころんだ。

「よかった!ナッツさんも、少し顔色が良くなったみたい。あまり無理しないでね。」
(俺はそんなに酷い顔色だったのか・・)
「それより今日は学校へ行ったんじゃなかったのか?。」
「ええ。朝起きたらあんまり暑かったものだから、きっとのぞみさんが大変なことになるんじゃないかと思って、かれんと学校に行く前にお店にアイスを作っておいてくれるよう頼んでおいたの。うちのアイスって作りおきじゃないから、アイスを挟んで個包装して・・ってやってもらってると時間がかかっちゃうから。で、一回学校に行って戻ってきたの。またこれから行くつもりよ。」

なんてことないように微笑んでいるが、この暑い中、自宅→学校→店、を往復するのは大変だったはずなのに。

(ほんとに君は・・・)

「ナッツさん、あんまり酷いようなら薬飲んでね。それじゃあ。」


「待って。」

ドアを開けて出て行こうとする腕を引き寄せて頬に軽く口付けた。


「・・な・・なななななナッツさん!?」

真っ赤になってしまったこまちに

「お礼だ。」とそっけなく言ってみる。

 ゆるく腕に囲うと、恥ずかしそうに目を伏せて
・・・ああそんな顔をしないでくれ。アイスじゃなくて君を食べてしまいたくなるじゃないか。(なんてことは絶対言わないが)

「か・・過分なお礼をご丁寧にどうもありがとう・・。」
「ああ。できればまた、あのおいしい小豆もなかをご馳走してくれるとうれしい。」
「! 父に言っておくわね、ナッツさんの評価けっこう気にしてるのよ。」

もう少しこの手の中にいてほしいけれど、君を待っているのは俺だけじゃないから。それに君はまだ俺の気持ちに気付いてはいないだろう?(君が俺を気にしていることは、もう随分と前からバレバレだけれど)まわしていた腕を惜しみながら外すと、すぐに逃げてしまった。

「じゃあ行くわね。」
「かれんにも よろしく。」

 幾分か薄くなったけれどまだ赤い頬が、角を折れるまでドアの内側で見送った。


 こまちが早く自分の気持ちに気付くといい。そして俺に「好きだ」と言って。


 「俺も好きだよ」


     必ずそうこたえるから。



                   おわり



  ナッツは王子様なので結構平然とこういうことをしてくれるのではないかと・・。で、こまちは「あいさつよね あいさつ」とかあせっていればいい。でもそんなことするのはこまちにだけ。

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