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綺麗なお姉さんは好きですか?
「綺麗なお姉さんは好きですか?」

 そんな某電気機器会社のCMを見たことがあるかときかれれば、この世界に来てどれ位経ったかわからないシロップだったが、多分自信を持って『そんなの見たことあるか!!』と答えただろう。
 けれど、シロップがこまちに会って少しだけ話して、持った印象といえば―――。


 『綺麗なお姉さん』


 某月某日またもやパルミエ王国ミルクからの、ココ、ナッツ宛の大量の手紙を袋に入れて、シロップはナッツハウスのドアの前へと着地した。
 まったくここ最近は、この店とパルミエ王国との間を行ったり来たりしてばかりいる気がする。ココとナッツの両王子の事をあまり良く思っていないシロップとしては、彼らと馴れ合うようなつもりは全く無かったので、ミルクが書く大量の手紙を本当はこうしょっちゅう届けたくは無かったのだが・・・。

「メルポが受け取っちまうから、仕方なくだ!」

 ぶつりと面白く無さそうに呟いてナッツハウスのドアを開けようとしたシロップは、後ろから聞こえた涼しげな声に思わず振り返る。

「シロップさん?」

「・・・・あんた」
 制服姿でシロップの後ろに佇んでいたのは、優しげに微笑んだこまちだった。

「ナッツさん達にまたお手紙?シロップさんもも毎日大変ね」

 ふわりと目を細めたこまちに、シロップは何故かどきりとしながら、「これが俺の仕事だからな」と踵を返しもう一度ドアを開けようとドアのノブに手を触れると、ちょっと待ってと声が掛かる。

「?、何だよ」

 早く届けてさっさと帰りたいというのに。少しだけイラつきながら顔だけこまちのほうに向けると、ほんの短い距離に優しげな瞳があってシロップは驚いた。

「な、なな、なんだっ!」

 驚いてぴょんと飛び退いたシロップをこまちはくすくすと声を立てながら笑って、ここ、と自分の右頬を指差す。こまちが指差した場所に手で触れてみると、少しだけ血が付いた。

「あー・・さっき木に引っ掛けたんだっけ」

 突然の突風にバランスを崩した時に大きな松の木にかすったけれど、ちっとも痛く無かったので気にもせずにいた。
 こまちが鞄の中をゴソゴソと探り、何かを取り出している。ぴりりと紙を破る音がした。

「怪我には、気をつけてね」

 こまちはシロップの所へと2,3歩近づいて。その頬に可愛らしい絵の付いた絆創膏を張りつけ、その上から更に柔らかな感触を押し付けて、そのままドアを開けると「シロップさんも一緒に行きましょう」とナッツハウスの中へ入っていってしまった。
 残されたのは、手紙を持つシロップと、こまちから香るシャンプーか、コロンか、それとも彼女自身の匂いなのだろうか、甘い―――香り。
 初めてシロップを襲った甘い衝撃に心臓の高鳴りを抑える事ができず、シロップはふらふらとナッツハウスの階段の下まで進むと、震える手の中の手紙の束をどさりと落とし、その物音に顔を出したココに「置いてくぞ!」と怒鳴ったかと思うとさっさと変身して飛び立っていってしまった。

「・・・なんだありゃ」

 ココとナッツが手紙の束の入った袋を手に、空を見上げて首を捻っているのをソファから見ながら、こまちが静かに、そしてとても楽しそうに笑っていた。



      おわり

 初シロこま。シロこまともまだ全然呼べるような代物ではございませんか、こまちさんはシロップに対してはちょっと余裕な姉さんでいいかなー、と。小悪魔だ、小悪魔がいる。シロップは小悪魔こまちに振り回されていればいいよ。
 需要は無くても供給する私・・・。

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あきゅろす。
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