これは愛だよ?
3
次の日の朝、学校に着き本を読んでいれば、見慣れた長いきれいな手がそれを取り去り机の端に置いた。
「なんで昨日来なかったんだよ。しかもメールも電話も無視するし」
ムスッとした声が俺の横から聞こえ嫌々ながらも「あぁごめん」と、素気なくその主に返事をする。
「それだけ?俺、昨日楽しみだったのに...。連絡繋がらなくてすごく不安だったのに、」
俺が目を合わせようとしないで下ばかり向いているので久礼は目を合わせようとしゃがみ、
机の上に肘をついて顔を置くとこちらを覗きこんできた。
「なぁ、嘉一...」
「...久礼のせいだよ」
目が合った瞬間昨日のことが目に浮かび、自分のことを棚に上げてものを言う久礼に俺はイラつきを感じた。
本当に楽しみだった?昨日会おうって言ったのはただの俺への機嫌直しの為なんじゃないの?
連絡だってよく俺にできたよな。あんなこと他人とした後で。
明らかに裏切ったのは久礼の方だろう?
「...は?俺のせい?」
俺の言葉を聞いた久礼は何を言っているんだ、という口調をしていたが表情は見るからに動揺していた。
「まぁ、ムカつくのは久礼よりも相手の方だけど」
「え...ぁ、嘉一...」
フッと笑みを向けてそう言えば、言葉が出ないのかどもり始めた久礼。
「おーい、皆席に着け。HR始めるぞ」
久礼は何も言えないまま、教室に担任が来たことによって自分の席へと戻っていった。
本当わかりやすい。
久礼ほどポーカーフェイスという文字が似合わない人はいないだろうな。
HRが始まってもなお、俺はうつむいて席に着いている久礼の方をジーっと見つめる。
一度も染めたことがないのか真っ黒なきれいな髪。
運動神経が良く、スポーツすることが好きな俗に言う爽やかなスポーツ少年。
傍から見れば照れ屋で、女の子ともまだ付き合ったことがなさそうな初で純粋そうな雰囲気を持つ久礼だが、
男の俺と付き合っていて、ましてや恋人がいながらも他人と体を交えるような男だとはだれも思わないだろう。
といっても、久礼からしたら俺も昨日のアレも火遊びかなんかだと思ってるのかもしれないけど。
まぁ、それでも俺は久礼のことが好きなんだよな。...どうしようもないくらいに。
そんなことを考えながら担任の話も聞かずに久礼の方ばかり見ていると不意に、教室内がざわめきだした。
なんなんだ、と俺はうんざりしながら意識を久礼からそちらの方へと向ける。
「え、先生の話マジ?もうその生徒生きてないんじゃない」
「でも、残ってた血はそんな多量じゃないんだろう。誘拐とかじゃねぇ?」
「うわぁ、無理無理!私絶対これからは誰かと帰るようにしよう!」
「つーか、こんな身近で怖いな」
近くにいた男女数人はそんなことを言いながら顔を強張らせていた。
「静かに。さっきも言ったが事実、学校のすぐ近くで1つ下の学年の大川という男子生徒が
血痕と鞄だけを残して、失踪した。だからもしこの生徒を放課後見た奴がいたら私か、他の教師に報告するように。あと――、」
「あぁ、失踪...ね」
こんなことで教室内がざわついていたのか。
1年の生徒が血痕を残して失踪。
平和な日常ばかりが過ぎていただけに俺と、ある一人以外は皆浮足立っていた。
「久礼」
そのある一人である生徒、久礼は斜め下を向いたままピクリとも動かなかった。
こんな中久礼は血色のない顔で、不自然なほど無表情だった。
久礼の初めて見る表情。あれほど感情が表に出やすい久礼には珍しい顔つきだった。
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