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これは愛だよ?
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「見事に誰もいない」


 あれからしばらくボーっとしていると、いつの間にか乗ろうとしていたバスの時間も過ぎていて
結局、俺はまた次に来るバスに乗ることにした。

 そのせいもあってすでに学校の中は誰もいなかった。
いるとしてもここから少し離れたところにある体育館で部活をしている奴らぐらいだろう。


 自分の足音を響かせながら1人玄関に向かって歩いて行く。

 「...?」

 玄関まであと少しというところで俺は立ち止まる。
それは耳に聞こえてきたある声が原因であった。

 俺の足音が消え、耳を澄ませば先ほどよりもその声がどこからかはっきりと聞こえてきた。

 「あそこか...」

 その声の出所はここから教室2つ分離れたところにある、空き教室からだった。

 そこは玄関に行くのに通らなければいけない所にあり、俺は立ち止まったまま悩んだ。

 なぜ人の声が聞こえただけで通るのを悩むかというと...。

 「...あっ、んん...ふぅ、ぁっ..」

 それはその声が誰かの喘ぎ声だから。

 「はぁ...。しょうがない、か」


 しかし帰るにはここしか道がない。耐えるのは数十歩だけなんだから。


 そう、自分に言い聞かせ気まずいながらも俺は再び歩み始めた。
大きくなる喘ぎ声。人間の性なのか、どうしてか耳をたてて聞いてしまう。

 無視無視。気にしない気にしない...――、だがやはり気になる。

 俺も十代の男子高生。そっちのことは嫌悪を抱きながらもそれなりに気になってしまう。

 見たくない、早く帰ってしまいたい、関わりたくない...そう思う気持ちと
観賞まではいかないがせめてどんな奴がこんなところで盛っているのか一目みたいという好奇心がせめぎ合う。


 ゆっくりと歩きながらうんうんと悩んだ結果――結局俺はその空き教室の入り口の前で立ち止まってチラッと中を覗いた。


 「...っ」


 だけど見なければよかった...見た瞬間そう思った。
俺の体は固まって、視界に映る二つが重なり合った姿から目が離せないでいた。
 
 「あっ、あ...ン、や..もう...もうイ、ク..っ、」


 「はっ、好きなだけイキなよ」


 机の上に仰向けになりほとんど裸に近い可愛らしい顔をした男とその男の下の穴に自分のものを激しく何度も突き挿す...俺の愛しい恋人の姿。


 「く、れい...」


 淫らに動く2つの影。
男とは思えないほど高い嬌声を上げる相手の男の顔はよほど気持が良いのか、快感で頬赤く染めていた。

 「嫌だ、」

 その時、俺の中に生まれたのは憎しみ、嫉妬、嫌悪。この3つの感情。
 だけど1番この感情が向けられたのは、男に突っ込む久礼ではなく...気持ちよさそうに、バカみたいに喘ぐ...相手の男。


 ―久礼は俺のモノなのに―


 「うっ...」

 途端、ひどい吐き気がし、倒れるかのようにズルズルと壁をつたいしゃがみ込んだ。

 黒い感情が俺の中を渦巻き、ひどく気持ちが悪かった。


 「うぅ...くっ、」

 悔しくて、ムカついて、気持悪くて、俺の目には涙が零れそうなほど溢れてくる。

 もう何年も流していない涙。それが今、とめどなく瞳から流れ落ちた。

 あいつとあんなことするために久礼は嘘をついたのか。

 俺と帰るよりもそっちが重要だったのか。

 そしてもう1つの考えが俺をより悲しませた。

 ―俺はまだ久礼とキス以上のことはしていない―

 見ず知らずの相手の男に負けたみたいで悔しかった。
 相手のその顔は深く俺の頭の中に焼きついた。


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