これは愛だよ? 13 うるさく鳴る心臓。家に着いた瞬間、緊張がほぐれたのか一気に体の力が抜けた。 多量の冷や汗が背や額をつたう。 「...終わったんだ。もう終わった」 俺の口からは乾いた笑いが出て、強く一文字に閉じていた口元が緩まった。 あぁ、だるい。あぁ、気持が悪い。あぁ、吐きそうだ。 ゆっくりと壁をつたいながら自分の部屋へと向かう。 もう終わった。もう終わった。これで俺はもう苦しまずに済むんだ。 漸く日常に溶け込む生活を送ることが出来るんだ。 部屋に着くとベットの上に横になり、深く息を吐く。 瞼を閉じ、思い浮かぶのは先ほど久礼の部屋であった出来事だった。 『俺たちはもう、終わりだ』 俺はあるモノ――メモリースティックを久礼に投げつけた。 『何これ、嘉一...意味が、』 『俺、浮気したから。その中に証拠の写真入ってる』 『...え、?』 途端、久礼の青い顔から表情が消えた。 俺はただそんな久礼を見下ろしていた。 すでに近くでなにやら喚いている女の存在など、俺と久礼の中にはなかった。 『お前は嘘吐きだ。俺を裏切っていろんな奴を抱いた。もう俺は限界だ、苦しいんだ。だからお前と同じように浮気した』 無表情のまま俺の話を聞く久礼をみていてとても愉快に感じた。 そして他人とした情事のことを思いだし、クスリと笑った。 『セックスっていいもんだな。すごい気持ちよかったよ?...まぁ、お前とは結局最後まで一度もしなかったけど。 俺とお前は浮気者同士。こんなの恋人じゃない、別れよう...久礼。俺はお前とはやっていけない』 『か...いち、』 無表情のまま、ボロボロと涙を流し俺を見つめる久礼。...それに対してもう、胸は痛まなかった。 自業自得だと思った。お前が悪いんだ。俺はお前を愛していたのに。 『次は浮気しない奴を選ぶよ。じゃあな』 それだけ言うと俺は久礼に背を向け扉のノブに手を掛ける。 『嫌だ...嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だっ!!!嘉一っ、俺を捨てないで!!許して!もうしないから!! 別れたくない...なぁ、どうすればいい、どうすれば戻ってきてくれ――』 『もう、無理だ』 ―バタン、 後ろでわめく久礼を置いて俺は部屋を後にした。 涙は出ない――悲しくないから。 苦しくない――心の重みがとれたから。 そして俺は足早に久礼の家を出て自宅へと向かった。 「あぁ、疲れた」 心身ともに俺は疲労しきっていた。少し眠ろう、明日からは久礼のことで悩まなくて済むんだ。 よかった、ストレスが減って。 重くなる瞼に抵抗することなく、すんなりと俺は眠りの世界へと入っていった。 [*前へ][次へ#] [戻る] |