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君のため



 「今回のことは一体どういうことなんだ。何があったか全部俺に話せ」



 外へ出るなり、一息つく間もなくそう宵人に問いた。


 「そんな怖い顔しないでよ、愛都。本当、ただの喧嘩なんだって。俺だって男だし殴り合いぐらいするさ」


 「嘘をつくな!!」


 「...っ、嘘じゃないって。この傷は愛都が心配してるようなこととは全く関係ない」



 駅までの歩道を2人並んで歩く。問いつめる俺に宵人は依然としらを切る。

 俺とは一切眼を合わせようともしない不自然な宵人に、俺の不安はどんどんと膨らんでいく。



 「それは...それはイジメによるもの、そうなんだろう?なぁ、」


 「だから、違うって言ってるじゃないか!そんなに僕の言うことが信じられない?...信用なんかできない?」


 「なんでそうなるんだよ!!俺は...俺はお前を心配して...っ。イジメられてるならイジメられてるって言えよ!こんなところで気なんか使うんじゃねぇ!変な意地なんて張るな!!」


 「――、僕はイジメられてない!!僕が違うって言ってるんだから違うんだっ!だから余計な心配なんてかけないで!――迷惑なんだよ!!」


 「...ッ!!」



 “迷惑”その言葉を言われた瞬間、俺はショックで息が詰まってしまった。

 その言葉が信じられなくて茫然とした視線を宵人に向ける。



 「...ぁ...いや、違...僕は――」


 「迷惑...だったのか...。悪かったな。でも、俺はただ傷ついていくお前が...見たくなくて。...お前は俺にとって大切な、存在だから...嫌だったんだ...」



 自分のこの心配も、宵人にとっては余計なもので迷惑とすら感じていたこただったのか...そのことが分かった俺はなんだか自分が滑稽に思えて...バカらしく思えて...自嘲的な笑いが出てしまった。



 「あっ、待って愛都!!」



 気がついてら俺は走っていった。宵人の静止を求める声も聞かずに。


 止まることなく走って、息が乱れ苦しくなった。

 だけど足を止めることはなかった。


 宵人は俺にとって大切な存在だから傷ついてほしくなかった。だから守りたくて...。

それですごく心配したのにそれは迷惑だと言われたのだ。


 それは、俺の気持ちを拒否し否定する一言で胸が苦しくなった。


 宵人にとって俺は何物でもない存在だったのか、と。

 だから俺の言葉の必要ない、と。


 そんな考えばかりが頭を占めた。



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