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君のため




 「...ぁ、クソ...っ」



 そろそろとわかりやすく主張しているそこへと手を伸ばす。
 上手く力が入らず、もたもたとベルトをはずしチャックを下ろした。

 このまま我慢していてもらちがあかない。いるかどうかは分からないが、綾西の同室者が来ても困る。
 1度か2度出してしまって少しでも落ち着かせて体の自由がきくようにしてしまわなければ。

 そしてさっさと処理として終わらせてしまおうと下着の中に手を入れかけた時、目の前の扉がガチャリと開き、暗い廊下に明るい光が入ってきた。



 「...っ」



 ―やばい...同室者か。


 俺は扉の方を見たまま固まり、ごくりと唾を飲み込んだ。
 ここから動きたくても体が動かない。媚薬のせいで頭もうまく回らない。



 「おい、泰地いるか...って、お前...」


 「チッ...」



 閉まる扉。玄関で立ち尽くす、香月の姿。
やってきたのは想像していたよりもずっと厄介な人物だった。
 香月は俺の姿を確認するなり目を見張り俺同様固まってしまった。
 面倒な来訪者に俺は思わず舌打ちしてしまう。


 香月に対してはある計画から素での対応はせず、演技のまま接していた。
 せめて来るのが永妻であればこの辛い状況で演技しないで済むだけ面倒ではなかったのに。
 
 しかも暴力的で自己中な香月だ。何をされるかわかったもんじゃない。華奢で非力な永妻とは大違いだ。



 「千麻お前...泰地は、どうした」


 香月は俺の状況を見て、顔を強ばらせていた。
 それもそうだろう。俺が綾西の所へいってくるといって部屋を出てから随分と時間が経過している。
 だからまさか俺がまだ綾西の部屋にいるのだとは思いもしなかったのだろう。
 
 しかもそれに加え今の俺は普通の状態ではない。媚薬のせいで身体がおかしくなってしまている。
 ズボンのベルトは外し、チャックは下げられている。


 傍から見てもこれから俺が何をしようとしてたかは一目瞭然だ。
 そんな中いっこうに姿を現さない綾西の存在を心配するのは当然のことだろう。



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