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君のため




 周りにあいつらの姿はなく、沙原は1人きりだった。


 「愛都君...君が僕の同室者だったんだね。
...それで、その...案内がてら今日は僕と一緒に帰らない?...というか、是非帰りたいな」


 頬は少し赤らめて、気恥ずかしげにそういう沙原。
そんな沙原の行動に俺は心の中でほくそ笑んだ。

 あぁ、お前から俺に会いに来てくれたんだ。ちゃんと俺のことも誰かから聞いたみたいだし。
 なんて都合がいいんだろうか。


 やはり食堂でのあの一件がうまい具合に沙原に効いたのだろう。



 「うん。わざわざ迎えに来てくれたんだね、ありがとう。それじゃあ皆俺帰るね、また明日ゆっくり話そう」



 そう言えば皆不満そうにしながらも俺から離れ各々帰っていった。
 多くの生徒は俺から離れていくとき、その隣に立つ沙原を見、立ち去る。


 先程までしつこかったのに、沙原が来ただけでこうもあっさりと離してくれるとは。
 皆、負け戦には興味などない...ということだろうか。まぁ、確かに学内でこうも良い方面で外見も内面も目立つ人物とは誰も張り合いたくはないだろうが。



 「じゃあ、帰ろうか。」



 そしてニコリと笑い、沙原はさり気なく俺の手を掴むと軽く前へ引き、歩みを促してきた。
 
 その行動を不愉快に思いながらも俺は照れたような笑みを作り、促されるまま一歩踏み出した。



 ―



 ――



 ―――



 「よし!これで最後だよね、愛都君」


 「うん、手伝ってくれてありがとう。すごく助かったよ」



 荷物が入っていた段ボールをたたみ1つまとめる。



 放課後、沙原と寮まで帰ってきた俺はとりあえず荷物を整理しようと重い腰を上げた。

 すると沙原も手伝うと声をかけてきたので、俺は笑顔でお礼を言い手伝ってもらった。


 案の定、元々1人でやろうと思っていたので予定よりも早く終えることができ、時間が余る。



 ――どうしようか。時間もあるし綾西の所へ行こうか。それとも沙原と時間を過ごして俺に対してのポイントでも上げようか。



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