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君のため
6※



 「ちょっと僕飲み物お代わりしてくるね...って、わっ!」



 楽しい会話が広がる中、弥生はコップを片手に立ちあがる。...が、急にイスを引いて立ちあがったことによってちょうど後ろにいた誰かにぶつかってしまった。



 「ご、ごめんね!大丈夫?...じゃなかった!!飲み物が、」



 ぶつかった相手の汚れてしまった制服を見て慌てだす弥生。だが、俺そして晴紀と和史は弥生を心配し、立ちあがったまま固まってしまっていた。


 俺たちの視線の先...そこには千麻 愛都の姿があった。
 俺の知らないふわりとした笑みを浮かべ、弥生を見る汚い瞳。



 「いいよ、気にしないで。俺こそごめんね。どこかケガはない?」



 弥生に触れようと伸ばされる白い手。
汚い...汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚い汚いっ


 「弥生に触るな!!」


 反射的にその手をはたき落とす。
パシリとはたく音がやけに大きく聞こえた。



 「泰地!!」


 「だ、だって...」



 それに対して弥生は途端に怒った口調になる。そして俺がはたいた方の千麻の手を掴み、腫れの様子を見始めた。


 「重ねがさねごめんね...手も赤くなっちゃったし...」


 「ううん、本当に大丈夫。心配しないで...だから綾西君のこと怒んないでやって」


 ニコリと微笑み、そう優しげに言う千麻。丁寧な口調、柔らかな笑顔。

 きっとあれは作りものだ。本当のあいつを知ってる俺だからわかる事実。
 そうじゃなければ誰が見たってあれを作りものだって気づくことなんてできないだろう。


 だから今頃晴紀も和史も多分、ひどく困惑していると思う。



 「でも...ん?...あれ、もしかして君は泰地の友達だったの?」


 「あぁ、うん。そうだよ。あと永妻君とも...前に色々と“お世話”になってね」


 「...っ」



 千麻はそう言いちらりと俺の方を見てくる。その時ドロリ、と千麻の瞳の中が濁ったように見え、悪寒が走った。



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